50 博士、メイド執事を背負う⑤
4将軍の一人、隻眼の黒死神、ギース将軍が報告を終えた。
アウラ国との国境付近にある少領の駐屯軍が帝都から派遣していた官吏を殺害。独立を図った。
ギース将軍と彼に随行した暗殺隊が首謀者一味を根絶やしにしたのである。
「その件でアウラ国と空春族国が抗議してきている。暴力的解決は人道に反すると」
「ほう……どの口で」
ギースは隻眼の眼帯を押さえ口を尖らせた。
冗談でもヤメロ。
彼が眼帯を外したとき、一撃必殺の、死を給う呪いが発動すると言われている。
「落ち着け。それはただの口実だ。『エフェソス帝国に最早大義は無い。腐った者たちを成敗し浄化する必要がある』などと気勢を上げてるらしい」
「具体的には?」
第3将軍のヘリードル将軍が鋭く追及する。
答えたのは第1将軍のラットマン。
「アウラ国は東のオーク国を巻き込む目論見のようです。頻繁に使者を送り決起を呼び掛けています」
僕も続ける。
「空春国だが作物類の輸出を止めると通告してきた。自給率の低い食糧品に関しては、帝国国民にはかなりの不便を強いると思う」
「エフェソス帝国ともあろうものが、情けない話だ!」
吼えたのは第2将軍のコウゼン。コイツは血の気が多く、歯に衣着せぬ発言をする。
「その気になっているオーク族は、空春国から武器を仕入れ軍備を整えているという噂です」
ゴブリン族も人の事は言えんが、オーク族は昔から血を好む。
大義名分なんて二の次で、キナ臭い問題にすぐに反応するきらいがある。
「向こうの国王に使いを出せ。『帝都に出頭し説明しろ』と」
いや。ムダだな。
使者の旅費と命が無駄になるだけだろ。
「……止めとこう。空春国経由で通達文を出す」
「どのような内容で?」
「オーク族の国を征伐する。見せしめだ。帝国に逆らう者らがどうなるのか示す。その先陣を空春国に負わせる」
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僕自ら通告文を書いているとヘリードル将軍が訪ねてきた。
「この期に及び、是非もございません」
「オーク征伐の話、将軍は反対なんだな。でも、それくらいしないと帝国はますます諸国になめられるぞ――」
床に両膝をつくヘリードル将軍。必要以上にへりくだる姿勢だ。
ギョッとした僕は、彼に駆け寄り、立ち上がらせる。
彼の真剣なまなざしをまともに受けた。
目を背けると。
「……ギース。ラットマンまで」
ヘリードル将軍の背後に2将軍の姿もあった。
ふたりも平伏していた。
「実はリオン王国、水秋族国、土春族国からもオーク国と同様の動きがあると情報が入っています。敵対の意志は明らかです」
そうか。
いよいよか。
遠慮せず、さっきの会議で教えて欲しかったな。
「……人間族の動きは?」
「魔物族各国に働きかけを行なっている様子です。我々が放っている密偵たちだけでなく、帝国の協力者や友好的な者らが、彼らの連携によって次々に命を落としています」
「わたくしが得た情報では人間族とアウラ国が手を結んだと」
ヘリードル将軍の報告に、ラットマン将軍が追加の報告をする。
衝撃的過ぎて言葉が出ない。
「……そうか」
敵は勇者……だけじゃないな。ハハ。
ノックがした。
入室したのは第2将軍コウゼンの首根っこを掴んだノノだった。
「部屋の外で聞き耳を立ててたわよ?」
「なあっ? 俺はただ、仲間外れにされたから……じゃなくってなぁ!」
動揺せんでも仲間外れにするつもりは無かったぞ。
ただお前、話ベタですぐカッとなるからな。
「――オニイ」
「なんだ?」
見覚えのある代物を渡された。
「前に僕の机に仕掛けてたヤツだな」
「分かってる口ぶりね。それの改良型、自慢の魔法アイテムよ」
「ああ。ヤーン博士の追跡に。……だろ?」
魔法技術開発室の最新発明。
盗聴器と発信機をミックスした魔導アイテムだ。
博士の持ち物に仕掛けていたのだ。
試用することはノノから聞いていた。
「博士とサシャは地図と照らし合わせるとサキノキの街にいるようよ。勇者一行と会うのかも」
「実用テストは成功したというわけだな?」
「ええ」
「そんなことが分かるのですか?!」
4将軍がざわめいた。
「ノノ。これ、量産できるか?」
「……2ヶ月あれば10個ほどは」
2ヶ月……。
それじゃダメだ。
その頃には魔王城が落ちている。
「じゃあ10日で3つ。実戦投入にこぎつけて、どうにか情報戦の役に立てたい」
「……厳しいけど頑張ってみる」
頷くノノ、帽子を後ろ被りする。
4将らは彼女に敬礼して向き直り、僕の次の言葉を待った。
「魔王城を浮遊大陸に転移させる。いよいよ実現させる。今回は城下と住民も一斉に転移させる。エックスデーは10日後のハロウィンのときだ」
「ハロウィン? 何ですか、それ」
「あたしらの国のお祭りの日よ。エフェソスで言うところの万聖節の前夜祭」
「お盆、ですか」
「まぁな。日本のお盆は万霊節に近いがな。祈りだけでなく、死者を迎え入れて一緒に過ごすって感覚かな」
「それは言い過ぎ。先祖を偲ぶって意味合いね」
質問者のラットマンは、どうでも良さそうな表情で「なるほど」と締めくくった。
「ノノ。僕は点転移装置を使ってサキノキに行く。そこでまずは勇者と雌雄を決する。大転移計画の方、よろしく頼む」
「留守中、魔王城はどうするのよ?」
「頼りになる妹がいるからな。どうにか持たせてくれよな」
第4将軍のギールが「お供します」と肩を並べた。
「もう一人いるわよ。ついて行きたがりが」
廊下に出ると、ツェツィーリアが息を潜めていた。
飛び上がった彼女は侍女たちの前で派手に尻餅をつき、僕の手を借りてバツが悪そうにスネ顔をする。
「一緒に行くか?」
「行く」
「じゃあ行こう。魔狼の扱いを頼む」
「はい!」




