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【完結御礼】異世界バイト 身代わり魔王のダミー生活 ―ラスボスの影武者したら、元カノが勇者になって攻めてきた。ちなみに魔軍宰相はツンな妹が務めます―  作者: 香坂くら
冬の章 明日の朝はあなたのために

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49 博士、メイド執事を背負う④


【サシャ視点】



 この老人、超人的にタフなのか、脳の回路が狂っているのか、まるで疲れを知らない。

 

 幾つかの森を抜け、夕方には小さな街を見つけてそこで宿を求めた。

 こっちは久しぶりのベットに倒れ込んだのに、自分はすぐさま酒場に聞き込みに行くと言う。


 地図を広げて「道は間違ってない」と説明したが人の話を聞かなかった。


「地図くらい理解しとる。少しでも勇者に関する情報を集めるんじゃ」


 この老人が何故魔王陛下のバディになりえたのか。何故冒険者であり、偉大な研究者でもあっのたか、何となく分かった気がした。


「分かりました、お供しますよ。但し何か旨いものをごちそうして貰います」

「……ほう。そんな軽口も叩いてくれるのか」


 怒っているんじゃなくて喜んでいる。

 やはり奇人変人なのか、この老人?


「――で、リオン国とはどのような繋がりがあるんじゃ?」


 は?

 不意に重要な事に踏み込みやがるな。

 話すわけ無いだろが。


「なるほどナルホド。幼少時に何か特殊な事情があってエフェソス帝国に飼われたんじゃな。さしずめどこぞの成金商人に囲われていた落魄令嬢の子供で、エフェソスの姫さんの遊び相手として売られた……とかか。あー不憫じゃ不憫じゃ」

「ちっがーう! これでも貴族の御曹司だッ! 魔王陛下の軍門に下ったが、これでもリオン国の辺境伯だった父の長子だぞ!」


「ほっほー。儂と違って高貴なんじゃのう。あー、だからやたらとプライドが高くて、しかもダメダメのヘタレなのか。それ何と言ったかのう? 放蕩息子? 親の七光り? ぼんくら、不出来、不肖の子?」


 コンノォォォ! 言いたい放題言いやがってぇ……!


「暴れるなって。それじゃあ、お前さんが女装しとるのは、男として自信がないからか? 姫さんにアタックする自信がないからか? だから暴れるなって。儂ぁ、別に真実は言っとらんぞ、根拠のない憶測を吐いているだけぞ!」

「老師! それでも言っていい事と悪い事があるぞ!」


 老人のごつい手が頭に置かれた。重いし不快だ。

 イヤがると撫でられた。

 不思議に心が落ち着いた。


 謎だ。




〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓




【ヤーン博士視点】




 夜更け、酒場の裏手でサシャが絡まれていた。

 酔っぱらいが3人。

 コヤツらに犯罪まがいのイタズラをされかけているらしい。


 儂が声を掛けると物も言わず男の一人が棒きれを振り下ろしてきた。

 ケンカは先制するに限るか。

 まあ、この手合いには慣れている。


 右腕で受けて棒を叩き割り、返す刀で顔面に左拳をお見舞いする。

 先制攻撃の男はもろくも吹っ飛び、石造りの壁に背中を打ち付けた。そのまま動きを止めた。


 残りの男――ゴブリン族と獣族がすくみ上って降参した。

 弱えーな。


「ああ老師。のっけからの暴力はダメですよ」

「何言っとる。お前さんがエロイ目に遭いそうだったから、じゃろうが?」


「違いますよ。情報を仕入れてただけです。この者ら、別の街で勇者一行と話をしたらしく。「温泉がどうの」って話してたので、サキノキの街をオススメしたそうです」


 それは有り難い情報じゃな。

 しかし。


「お前さんは無警戒すぎる。今後は街では儂から離れるな」


 明らかにこの飲んだくれどもは冒険者だ。身なりで判る。

 しかも女好きっぽい。

 恐らくはどこぞの街で勇者一行にも同様のチョッカイを出したのだろう。

 そんで同じく叩きのめされて情報サービスした。


「おい、アンタら」

「ひゃい……」


「サキノキへの最短ルートを教えい。地図があれば出せ。()()()と会話できて楽しかったじゃろう。サービス料じゃ、安かろう」



 ――ヤツらの情報は正しかった。

 じゃが、最短ルートも良いところじゃった。

 ……いや。こりゃルートでは無いの。


「……老師。本当に登るんですか?」


 その言い方には小馬鹿にしたニュアンスも含まれている。


 儂は()()を見上げた。

 ゴツゴツした岩肌は、おろかな危険行為(冒険)者の立ち入りを警告していた。


 ざっと見、登っている途中で落ちでもしたら、確実にあの世に逝けそうな高さじゃった。

 まともな神経の持ち主なら、迂回してしかるべきじゃろう。


「お前さんはどうする? 後から来るか?」


 さっきのお返しに、小馬鹿にしたカオをして尋ねてやった。


 ま、ここらでお別れじゃろな。

 魔王城からは随分離れたし、逃亡の手助けノルマはじゅうぶん果たしたと思う。

 ウインウインで手打ちというわけだ。


「わざわざお前さんまでサキノキに行く必要もない。――ホレ、当面の旅費をとっとけ。情報料とここまで案内してくれた礼、それと、ささやかながら餞別じゃ。――では達者でな」


 すると、サシャが背中に飛びついてきた。

 不機嫌そうなカオをしとる。


「なんじゃ? ついてくる気か?」

「――行き先が同じなので」


「サキノキに行くのか?」

「老師の行く末を見届けますよ」


 死なば諸共か?


「繰り返しますが、コレエダアンコは人間族ですし、ただ変わった名前なだけですよ? そこまでその娘に執着する意味か理解できないですが?」

「男はロマンを追い求めてナンボなんじゃ」


 笑ってガケの斜面に手を掛けた。


「しっかりとリュックにくっついとけよ。落ちても知らんぞ?」


 儂は、ヒョイヒョイと軽快に登っていった。

 思ったよりも大したことは無い。


「年寄りはな、何でも自慢したがるもんなんじゃ。人さまに自慢するネタをゴマンと持っとる。じゃが儂は、そのネタを今ももっと増やしたいと考えとるんじゃ」

「……はぁ」


「気の抜けた反応じゃのう。雄弁な年寄りの話は『へえ』と『そうなんですか』と感嘆詞付きの返事だけで良い。その代わり、その感嘆詞を心を込めて返せ。それで年寄りは嬉しくて満足する」

「へえ。そうなんですか」


「そうそう、その調子じゃ。年寄りは労われ。大切にしろ」

「へえ。そうなんですか」


 ん?

 左手に力が入らなくなってきおった。

 しかも足がブルつく。


「老師。重くないですか?」

「何度も言わせるな。お前さんなど空気くらいにしか感じんわ。悔しければ存在感のある人間に成長せい」

「へえ。そうなんですか」

「アホウ。そこは『はい分かりました。努力します』じゃろが」


 ……ヤバイの。

 左手が痺れおる。……頂上は……もう少しか。


 う。

 息が乱れてきた。

 ムダに口を動かしすぎとるか?


「老師?」

「……なんじゃ?」

「いったん降りましょう。だってバカらしいでしょう? ムリしてケガでもしたら」


 気遣っとるのか、不安になっとるのか。

 じゃがスマンがの。儂は前にしか進みたくない性格なんじゃ。


「お?」


 ダメだと分かってて笑いが出た。

 激しく体が揺れるほど笑い転げた。非常に危険な状態だ。


「お、わッ?! な、何がそんなに可笑しいんですかッ?! 老師ッ、止めてくださいッ! 揺らさないでクダサイッ!」

「ワーッハッハ! いや、これを笑わずにいられようか。なーにが前にしか進めんじゃ! 儂はアホウじゃ! それを言うなら後ろ走りじゃ! 背中向きで前進しとるだけじゃ! ハーッハッハ!」


 アカンな。

 もう手の感覚が無くなってしもうた。

 頂上はもう、すぐそこなのに。


 ちょっと手を伸ばせば届きそう、じゃのに。


 さてと。

 まだ少し右手の力は残っとるし、サシャを上に放り上げといてやるか。


 背中をまさぐる。


「……オヤ?」


 無機質な荷物ばかり。

 温かな感触が無い。――いない?

 まさか、落ちたか?


「サシャああ?!」


 身をよじって崖下を見た。

 ――やはりいない。


「老師! 手を!」


 いたのは崖の上。

 華奢な手を差し伸べている。


「先回りしたのか?」

「失礼ながら、老師の肩と頭を踏み台にしたんですよ」


「な、何じゃと?!」


 儂は怒ると言うより再び笑いそうになった。

 コヤツなりに考えて行動し、儂を救おうとしているらしい。


「有り難い事じゃ。じゃがの、お前さんの腕では儂の巨体は持ち上がらん。儂を踏み台にした無礼はその心根で相殺してやる。後はひとりで何とかする。先に好きなところに行ってろ」


「老師。早くしてくださいよ。非力は承知してますよ。だからこうして、持てる魔力を発揮してスタンバってるんです。サッサとしてください」


 ガッチリ腕を掴まれた。

 確かに、およそ常人とは思えない怪力を発揮して、巨漢の儂を易々引き上げた。


「あーあ。せっかく魔力を温存してたのに。頼りない老師のせいで使ってしまった」

「サシャおまえ、そのために儂の背中におぶされておったんか?」


 怒っとるような、諦めたような力抜けした表情でサシャが言う。


「勇者に会ったら不意打ちで仕留めるつもりだったんですよ。そのために力を貯めてました。ホビット族だってやるときはやるんですよ。ナメないで欲しいですね」


 あーなるほど。

 それで屈辱的なオンブをされても大人しかったんじゃな。


「――ツェツィーリアのために勇者と相討ちするのか?」

「えッ?!」


 不意打ちの固有名詞で言葉を詰まらせるメイド執事っ娘。まだまだ精進が足りんな。


「儂はコレエダアンコに会えればそれでええ。お前さんの勇者退治には口出しせんよ」

「……そこは『儂も勇者退治に協力する』って言えば良くないですか?」


「儂はムチャな作戦には迂闊に乗らん主義じゃ」

「はぁ。老師」

「なんじゃ?」


「サキノキが眼の前です」


 ――おお。

 海と山の狭間にひしめく、にぎわいの街。

 ユラユラと立ち昇るのは湯けむりか。


 ショートカットは嘘でなかった。

 頑張った甲斐があった。


「行きましょう」

「なんだ? また背中に乗るのか?」


「魔力を貯め直しするんですよ」


 調子のいいガキじゃ。

 こみ上げた笑いを噛み潰し、儂は回復半ばの両腕を振り回しつつ、サキノキの街に入った。


 さあて。

 自由人の勇者御一行に、気ままな老人が会いたがっとる。

 神よ。

 どうか巡りあわせてくれい。


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