47 博士、メイド執事を背負う②
【サシャ視点】
春馬越ノノの経営する店で働く。
これほどの屈辱があるか?
しかもあの、偉大な魔王陛下に成りすました男の命令でだ。
あのふたり、何処の馬の骨かも分かんない兄妹だ。
それもこれもアンナさまが優しすぎるせいだ。
だからあんなよそ者がでかいカオしてのさばってるんだ。
退職金を奮発したのに、せっかくの人の好意を無下にして、自分たちがさもエフェソス帝国に尽くしているかのような、偽善めいた態度。
ホントウ、赦せない。
だけどアンナさんはちっとも耳を貸してくれなかったし、4将軍たちもリヴィでさえもあの兄妹を頼りにし始めた。
そしてバンクさまも。
そうなればもう、外野に協力してもらうしか無いじゃないか!
アンナさまを実家にお連れして説得し、改心して頂いてパルマコシ兄妹の放逐に賛同頂く。
これしか無かった。
――なのに、ヤツらと来たら目先の欲望に眼がくらみ、騙しやがって……。
アンナさまを誘拐するなどと、とてつもない悪事を働きやがった……。
人をバカにするのもいい加減にしろ……!
コイツら全員滅びてしまえ。そう呪いたくなった。
もう、こうなれば一人だけ、突き詰めれば一人だけ。
幸せになって欲しい人がいる。その人だけ助かればもうそれで良いんだ。
――ツェツィーリアさま。
彼女さえ幸せになれば、それ以上何も望むものは無い。
何としてでも、彼女を救える道を見つけよう。
ただそれだけだ。
老人が話しかけてきた。
光栄だ。頭ではそう理解している。
何せこの老人は魔王陛下の知り合いだ。特別親しかったとも聞いている。
だがそれは過去のくすみきった栄光だ。今はしがないただのドワーフ爺さんだ。
あえて関わり合いになる価値は見いだせない。
「貴殿がサシャか。バンクから優秀な人材だと聞いた」
お?
この老人、おべんちゃらが言えるのか。
「しかも、なかなかの苦労人のようじゃの」
「……用が無ければお引き取りを」
邪険にしたのに老人は更に続けた。
「コレエダアンコ。貴殿、その名を知っとるらしいのう」
何を言い出すのかと思えば。
その名はパルマコシとの密議で報告したものだ。
勇者パーティ内の一人だったな。
――どうでもいい話だ。
老人は金貨をチラつかせたが無視する。
するとニヤリとして今度はカギを見せつけた。
手枷を外すためのカギだ。
まだ何も返事してないのに、黙って拘束を解いてくれた。
イヤなヤツだ。
呆れたので、知っている事をベラベラとまくし立ててやった。
その間、老人の目が異様に光っていた。
「その者に会いたい。協力してくれぬか?」
「はあ?」
何を脈絡もなく唐突なお願いをしてくんだ?
ドワーフの老人が得体の知れない人間族の女に会いたいと?
老人特有の気まぐれと強引さにまた呆れた。
「ときに貴殿。パルマコシ兄妹をどう思う?」
「……はぁ?」
「貴殿は自分の優秀さを示し、パルマコシ兄妹を見返したいとは思わんのか? 下についてヨシとするを是にしているのか?」
「……」
「もったいないのう」
ジジイはさも残念そうなカオを浮かべて背を向けた。
「……なんでコレエダアンコに会えば、パルマコシ兄妹を見返せるんだ?」
「あー? 単純な話じゃ。勇者パーティの一角を崩せば勇者来襲の可能性は薄まる。結束を乱してやると、強き者ほどモロくなる。儂はの。魔王城を救いたいんじゃ」
「……だから?」
「コレエダアンコなる者が実在するならば、儂は会いたい。会って仲間に引き入れたい。何故ならコレエダアンコは儂にとって……いや、魔炎王タルゲリアにとって忘れがたい旧友だからだ」
「なんだと?」
「説得すればきっと彼女は心変わりする。魔族の仲間になってくれるじゃろう。そうなればエフェソス帝国は大きな不安の種をひとつ失くせる。パルマコシ兄妹の上を行く功績をあげられる」
ジジイは目を爛々とさせた。
正視したくないほどコワイ顔をしている。
かつて陛下と共に冒険者をしていたというのは本当なんだろう。
「パルマコシ兄妹を出し抜くのか?」
「お前さんはそれを希望しとるんじゃろう? それともこのまま魔王城の最期を見届けたいのか?」
ムカつくジジイだ。
「昼休憩の時間に裏口で待つ。現れなければこの話は無しじゃ。お前さんは元の犯罪者に戻ってパルマコシ兄妹に美味しいところを持っていかれてお終い」
トドメの呪文をかけられた。




