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【完結御礼】異世界バイト 身代わり魔王のダミー生活 ―ラスボスの影武者したら、元カノが勇者になって攻めてきた。ちなみに魔軍宰相はツンな妹が務めます―  作者: 香坂くら
秋の章 落ち葉を拾うあなたの心を教えて欲しい

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45 豪人、ツェツィーリアにふられる⑥


 ツェツィーリア、店棚に置かれた見本のひとつを指差す。

 丁寧な刺繍で、絵が織り込まれてある。


「ひとつひとつ、小人の作る靴には物語がありまする。この靴の甲部分には、恋人同士が初めて出会った森の風景が描かれてまする」

「……へぇ」


 そこには一人のお姫さまと、騎士と思しき人物が描かれていた。遠くの建物は城……かな。


「こちらに並べられた靴はそれと連作でする」


 3足ある。そちらにも同じ二人の人物が描かれている。

 よく見るとぜんぶ季節が違っている。春夏秋冬。四季ごとに細やかな変化がつけてあった。


「春に出会い、夏に恋に落ち、秋に進展し、冬に別れを迎える。悲しい最期ですが、希望がここに」


 冬の靴の中敷きにだけ、文字が綴ってある。


「……残念ながら読めないな」

「この文字は、古代エルフ語です」


 ツェツィーリアの眼が真剣になっている。


「これ。なんて書いてあるの?」

「実は完全には判読出来てませぬ。どうやら相手に向けた、愛のメッセージが書いてあるらしく」


 よく見ると、右と左で書かれた文章と文体が違う。

 これは男女双方からメッセージを伝え合ってるんだ。


「――ツェツィーリア、どうかした?」


 釘付けになってしまった彼女をしばらく見守った。


「……豪人」

「ん?」


「わたし。この靴が欲しい」

「え? でもこれ……」


 これは庶民用の靴で、日本で言えば運動靴、スニーカーに相当する代物だ。

 公式の場で履けないどころか、普段履きにもそぐわないし、いつ履くの? ってなりそうだし。

 それに、


「――これ。作成依頼者はどなたですか?」

「さぁ。分かりませぬ。なんでも店長からはドワーフ族の冒険者だとか聞いていまするが、お代を戴いてないらしいですし、もう何十年以上も引き取りに来られていないそうなので、店の飾りにして並べておりまする」


「――だったら? 売ってもらえるの?」

「一応確認しまするが、本当にこれで宜しいんでするか?」


 こっそり頷くと受付嬢は一礼し、いったん奥に引っ込んだ。


「……ツェツィーリアが気に入ったんだったら、これにするかい?」

「いいの?」


「もちろん」


 プレゼントは相手が欲しい物を選ぶのが一番なんだろうしな。


「――店長のオーケーが出ました」

「有難う」


 ツェツィーリアが僕を見てニコッとした。それは一瞬だったので僕は笑顔を返せなかった。


 店の外はまだ、しとどに雨が降り募っていた。

 入口に立てていた傘が無くなっていた。


 僕とツェツィーリアは見知らぬ盗人の悪口で盛り上がりながら駆けた。

 近くに小さな礼拝堂を見つけ、そこに逃げ込む。


「はい。これ」


 厚手の上着だったのでクツは濡れずに済んだ。

 しばらく止み間を待つしかない。


「もうちょっとお店にいたら良かったね」

「何だか焦って出て来ちゃったな」


 履いてみたいと言うので差し出すと、彼女は履かずにそれを眺めて黙り込んだ。


「ねえ豪人」

「なんだ?」



「豪人はわたしに気が無いからだよ?」

「ん? 何がだ?」


 建物の中は無人だった。


 暗く静かな堂内は広くなく、だけどやたらと大きい木の窓が開いていて、そこから雨粒が吹き込んでいた。いっそう暗闇になるので戸締りを躊躇した。



「『サシャのことは気遣って、僕には気遣いが無い。』そりゃそうだよ。豪人はわたしに気が無い。だからわたし、安心して豪人に甘えられるんだよ」



 雨の音とツェツィーリアの語尾が重なって聞こえづらかった。



「豪人はさ、わたしだけじゃなくって、みんなに優しい。それでもってみんなに関心ない」


 クツに目線を落とし、ツェツィーリアの息が吐かれる。


「サシャの悪だくみを事前に察知しなかった僕に責任がある。ツェツィーリアやアンナさんを危険に晒したのは僕の責任だ。魔王陛下に顔向けできん。好きだの嫌いだの言う前に、僕はキミたちを絶対に助けたいし護りたい。それってダメな発想かな?」


「豪人は偉いよ。いつもわたしたちのことを一番に考えて行動してくれてる。だけれども豪人は自分自身があんまり労われてないんじゃないかなぁ。もっとわたしたちに甘えて欲しいって思う」


 気持ちは嬉しいし有難い。

 ツェツィーリアの頭をポンポンと叩いた。それが精一杯の謝意だった。


「ごめん。そろそろ帰らなきゃ。重要な方針会議がある」

「……それ、わたしは呼ばれて無いよね?」


 ――あ、しまった。


 これはノノとリヴィたん、そして4将軍との秘密会議だった。


 ツェツィーリアを不安にさせたくない。だから内緒にしていたのに。


「ごめん、先に行くよ。僕の上着、防水効果があるから使って。城に着いたら護衛に迎えに行かせるから待っててね」

「……サシャのところに行かないんだ?」


「んーと……」


 実は正直、バンクさん直属の特務兵から逐一報告をもらってるんだ。

 彼は昼頃に店から居なくなったそうだ。行ってももう居ないから無駄足というわけだ。


 尾行者によれば彼は勇者一行との接触を試みていると――、そういう報告だった。

 ということは調べるまでもなく、もはや彼は完全にクロ、なんである。 


「ツェツィーリアさまッ!」


 入り口付近ですったもんだしていると彼女の護衛担当官が10人ほど飛び込んできた。

 軽装だが全員帯刀している。馬を乗りつけた者もいる。


 彼らはツェツィーリアにもしものことがあったら、クビだけでは済まない責務を負っている。

 それはもちろん僕も、彼女も、重々理解している。


「ハァハァ。姫殿下、探しましたぞッ!」


 彼らは安堵を浮かべ、涙ぐみさえしている。


「……ごめんなさい。心配かけました」


 僕の存在に気付いた彼らは慌てて平伏したが、周りに護衛が一人もいないので眉を顰め目を伏せた。実直な反応だなあ。その洞察眼、とても心強いよ。


「陛下もご一緒でらっしゃいましたか」

「……それが何か?」


「あ、いえ。ご報告の儀がございます故」

「言ってみろ」


「執事長のバンクさまが身罷られたと」

「……は?」


「バンク執事長が先程、……お亡くなりに」


 後で聞いたところによると、その後の数分間、僕は事実と裏腹に妙に冷静に指示を述べたらしい。


 現場に連れて行け。状況を詳しく説明しろ。ノノとリヴィたんを呼べ。

 矢継ぎ早に口走り、「サシャを捕まえろ」と怒鳴るように命じたそうだ。




〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓





 バンクさんが担ぎ込まれたという宿に着いた。

 既に医者の姿はない。


「執事長のご遺書です」


 ベットに寝かされ、胸元で手を組むバンクさんは僕宛ての手紙を残しつつ、無言で出迎えた。

 兵士から渡された便せんには予想したのと寸分違わない文面が綴られていた。


 サシャのことで迷惑を掛けた事、苦労を一身に背負わせている事、償いきれない責任を死で贖う勝手を赦して欲しい事。概ねそんな内容だった。


 当初、逃げたサシャをバンクさんとふたりで追ったそうだ。

 その過程で思い詰めたのだろうか。


「あ、ご遺体に触れないでください」


 僕は構わず、バンクさんの手に、自分の手を重ねた。ビクッと一度手を引っ込めた僕は、もう一度今度は両手で彼の手を包み込んだ。


「……教えて欲しい。先程この事態を注進してくれたのはキミだったな」

「……は!」


「キミはこんな状況になっているのを誰から聞いた?」

「……は……」

「キミは誰の指揮下に属している? 無論ツェツィーリアの護衛部隊じゃないしな?」

「……」


「ま、いい。キミには後日色々事情を聞きたい。――少し手荒だが赦せよ」


 僕の目配せで兵士らがリーダー格を取り囲んだ。


「軟禁するから覚悟しといてくれ」

「……は」


 ……ヤーン博士め。何をしでかすか分からんな。サシャとともに博士も捜し出さんと。

 いや、しかし。

 今は行方不明のふたりにかまけている時間は無い。


「……ノノとリヴィたんを呼ぶ必要はない。捜索は止めだ。城に帰還する」


 僕は宿屋の主人を呼び、宿代かたがた世話になった謝礼をした。彼と彼の家族が10年は遊んで暮らせるほどの額だ。


「ご主人。悪いが執事の屋敷に大至急使いを頼みたい。この手紙を届けて駆け付けるよう手配してくれ。しばらくこの部屋は借り受けるがいいか?」

「へ、へい。構いません」


 部屋に数人の兵を残して通りに出る。

 馬上の人になった僕に追いついて来たのは、ツェツィーリアだった。


「ツェツィーリア、帰るよ」

「バンクさんは?」


「後にして欲しい。僕の後ろに乗って」


 恐らく混乱状態のはずの彼女を慰めるどころか、話を聞いてやるゆとりもなく、僕は彼女とともに魔王城へ急ぎ帰った。


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