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【完結御礼】異世界バイト 身代わり魔王のダミー生活 ―ラスボスの影武者したら、元カノが勇者になって攻めてきた。ちなみに魔軍宰相はツンな妹が務めます―  作者: 香坂くら
秋の章 落ち葉を拾うあなたの心を教えて欲しい

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44 豪人、ツェツィーリアにふられる⑤


 お忍びの外出に誘われた日は、あいにくの雨だった。


 現在の魔王城あたりは、エフェソス大陸の西海岸沿いで偏西風の影響を受け、割と気候は安定しているが雨天は多めなのだ。


 日本で言うところの台風はほとんど無かったが、集中豪雨や落雷は地域によっては割と頻発し、整備の進まない河川の氾濫や、街と接している裏山の崩壊が日常茶飯事で悩みの種になっている。


 ノノとリヴィたんが推し進める国土改造計画は一定の成果が出ているものの、国全体で見ればまだまだ志半ばだった。


 責任者の自分の至らなさに鬱々としながら空を眺めていると、お出掛け姿のツェツィーリアがあらわれた。

 蒼青の髪を束ねる白レースのリボンに幼さを残しつつも、膝を隠すくらい丈のある花柄ワンピースは精一杯の大人っぽさを主張している。このちぐはぐさが絶妙で、蠱惑的な魅力を引き出していた。

 普段宮中でお目にかかれる姿とはまた違った雰囲気で、僕はちょっぴり雨天の陰気さを忘れられた。


「あれ? 今日は護衛はいないの?」

「いないよ? 別にいいの。豪人だって連れてないでしょ」


「僕は……結局ニセモノなんだし、普段から護衛なんてあんまりつけてないよ。だけど、ツェツィーリアは違うから!」

「フーン」


「ふ、フーンって」

「わたしもニセモノだから、いーの!」


 なんだそりゃ。

 昨日の告白を引きずってんのか?

 ……いや、まぁそりゃ、引きずるだろうが……。


 彼女の告白。

 それは自分が元魔導人形だったって吐露したことだ。


「昨日はゴメン」

「何が? どうしてごめんなの? 豪人、悪いコトしたっけ?」


 首をかしげつつ、傘を差しだされた。

 へー相合傘かね。まさかこの世界に傘があったとは。


「あまりの衝撃で言葉を失くしちゃって。――それとちょっと、感情的になっちまった」

「――うん。……確かに豪人、ちょっとヘンだったよね。でも大丈夫。わたしはちーっとも気になんてしてませんもの」


 おどけ口調になったのはそれ、気にしてるってコトだよ?

 ホントにゴメンな。


「――で? 今日はサシャのいる店に行くんだっけ?」

「どうして彼の名前が出て来るの?」

「だって……」


 そう、じゃないの?

 彼と仲直りさせようって腹積もり……なのかと勝手に思ってたから。

 サシャを赦して現職復帰させてあげて欲しいってんでしょ。


「あのさ。昨日はうやむやになったけど、アンナさんやツェツィーリアがどうしてサシャを赦してあげようと思ったのか、その理由をまだ教えてもらってないんだよね」


 そうするとツェツィーリアは端的に答えた。


「わたしもお母さまも、サシャを疑っています。だから彼を泳がせて本当に無実だと確信したいんです」


 なるほどな。

 それなら頷けなくもない。


「じゃあ、なおさら彼の所に行こう。気になるだろ? ツェツィーリアも」


 だが、イヤイヤをするツェツィーリア。


「今日は豪人が連れてってくれる場所があるハズだよ?」

「僕が? キミを?」


「ほら。来月わたしの誕生日」


 ……あ!

 そうか、そうだった。


「カーラさんにお願いしてた物。ツェツィーリアは知ってたんだ?」

「サプライズを狙ってたのかもだけど、カーラさんが教えてくれたもん。それにわたしも一緒に引き取りに行きたいし」


 僕はツェツィーリアの誕生日祝いに、小人族の職人たちが経営する靴工房でプレゼント用のクツを頼んでいたのだった。

 カーラさんを巻き込んだのは、同じ小人族出身の彼女の仲介が欲しかったのと、ツェツィーリアの足のサイズが知りたかったためだが……ま、やっぱこうなるか。


 降りしきる雨の中、ふたりきりで体を寄せ合いながら店に赴く。

 その間ツェツィーリアはとても楽しそうで、前までよくしてくれていた帝王学とやらについて、講釈を垂れてくれた。

 かつての僕なら興味が湧かなかった話だが、今はなかなか勉強になる内容だった。


 本日のテーマは各地の気候について。


「つまりは今魔王城のある地域は海洋性気候ってんで、だから、一年中温度が比較的高めで雨もまぁまぁ多いんだな」

「ここからもう少し北に行くと、寒冷地帯だから冬の寒さは半端じゃなくって。アウラ国なんかはそう言う意味で、常人にはかなり過ごしにくい土地かも」


「中原の元々あった旧帝都のあたりは内海もあるし、温暖で良い土地だよね」

魔王城(ここ)よりも四季がはっきりしていて、雨は少ない方。東部の沿岸部はときどき野分の襲来はあるけど、作物が育つには適した土壌があって、人々が豊かに暮らせる環境が整ってるんだ。だから大きな街が幾つもあるんだよ?」


 僕の記憶の中の天燿国も島国だが、たびたび野分、つまりは僕らの言葉でいうところの台風、その被害があった。

 その度に洪水や土石流の災害を受け、復興を繰り返しながら発展していった。


「そう考えると、浮遊大陸は中原の気候に近いし、良い土地だよね」

「そんな理由で、太古の昔から浮遊大陸は人類憧れの地だったの。本当は、わたしたちが踏み込んじゃいけない聖地かもしれないなぁって。つい考えちゃう」


「まさに神の領域を侵す無礼者、なのかもね。僕たち」


 大陸中の反感を受けるのは当然。そんな思いをしなくもない。



「依頼品にはまだ着手できてないでする」


 受付の女の子が帳面を繰りつつ詫びた。

 この娘、成人女性か幼児か、判別が難しい。

 小人族は年取っても容姿があまり変化しないんだなと再認識した。


 そうか。あれでもカーラさんはだいぶ大人びてたんだな……と改めて感心。

 ま、失礼な話デスヨネ。済まぬ。


「分かってます。今日はちょっと見学に来ただけです」


 ツェツィーリアが訊く。


「どうして靴をプレゼントにしようと思ってくれたの?」

「陛下やヤーン博士がさ、結構良い靴を履いてたんだよね。で、興味を持って」

「フーン」


 ホントはカーラさんのアイディアだ。

 女の美しさはまず足元から。何処かで聞いたようなフレーズで僕をその気にさせた。


「わぁ、豪人。これ見て」


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