41 豪人、ツェツィーリアにふられる②
【勇者パーティ・戦士ジュドーの視点】
エフェソス帝国の一大観光街、サキノキというところに来た。
ここは前から湯治とか言う訳の分からん治療法が伝えられてて、それを観光の売りにしている。
湯に浸かって病気やケガを直すなんて、なかなか無い胡散臭い発想だが、オレ的には大いにアリだと思ってる。
何故って、それはだな、湯に浸かりたきゃ、どーしてもハダカになるだろが。
それってオンナのハダカを堂々と眺められるチャンスじゃねーか!
てな事で病気なんてしてられねぇよな? そういう意味で健康になるってもんだよ。大いに理屈は合ってる。湯治、実に素晴らしいぜ。
ところで1ヶ月くらい前だが、オレらはリオン王国のハマシラって、こっちも湯治をやってる街に寄ろうとしたんだが、結局入国できなかった。
その少し前に魔物らとひと悶着あって目をつけられたらしい。
オレらの目的は魔炎王タルゲリアの討滅だが、大分類じゃリオン王国もホビット族なんでオレら人間族からすれば排除すべき対象だし。
それで警戒されたんだと思う。
メッチャハラ立ったんで検問付近をうろつく魔物らに因縁つけて2、3人ほど病院送りにしてやったら、アンコには泣いて怒られるし、踏んだり蹴ったりだった。
仕方なく気を取り直してエフェソス帝国を目指し、帝国の国境検問は強行突破で無事入国。
指名手配でもされるだろな? と思いきや、道行く連中には案外親切にされて、なんだかんだでこの温泉街に辿り着いたというわけさ。
で今は、この街で一番ゴージャスなお宿と評判の施設に迎い入れられ、酒を片手に客室で寛いでいる。
マジそんな金があったのかって? 金はある。
いやな。でも、この宿は無料だったんだぜ?
何故かオレら勇者パーティだと知られてて、「熱烈歓迎、パーティ御一行ごあんなーい」って感じで顔パスチェックインさせてもらって、この部屋に通されたと。
アンコが言うには「オーシャンビュー」とか言うハイソな客室らしくて、窓からの景色は確かにずっと眺めてても飽きん。(そんなヒマはねぇが)
そのアンコともうひとり、テイマー娘のチュテレールは服屋に寄り道している。
宿にはいるのにナリがあまりにヒドイんで、着替えを買いに行かせたところだ。
なんでヒドイか……だが、それは語るも無残、アイツら何故か道々でやたら穴ぼこに落ちやがるんだ。
オレとエロイーズで【勇者さま専用落とし穴】だなって冷やかしてるが、にしても落ちすぎだ。(そういうオレらも何度か落ちかけたがな)
ということでエロイーズとふたり、温泉を楽しみにしながら、部屋でふたりを待ってるというわけ。
「あの子ね、普段けっこう肌隠してるでしょ? あれ、単に超絶体形を恥ずかしがってんの」
「それマジか?」
「マジよ。アンコは脱いだらすごいタイプ」
エロイーズが両手の指をワキワキさせて教えてくれた。
ずらしたメガネの奥に、エロなハートマークでも浮き出てそうな口ぶりだ。
いつになくテンションが高けえ。
普段しない話をガンガンしてくれやがってラッキーだよ。
――ふーむ。アンコの裸体かぁ。楽しみだなぁ。
ちなみにアンコの話では普通(何が普通か知らんが)、男と女は別々の浴場が用意されてるそうだが、少なくてもこの街の温泉施設はどこも男女一緒に入浴する。
混浴ってゆーそうだ。
いい響きじゃないの。コンヨク。良い響きだね、ったく。
想像したら鼻の奥がツンとした。
ぐふふ。
アンコとエロイーズのハダカを存分に鑑賞してぇ。
アイツらが寝静まった頃合いを見計らって街に繰り出そっと。
「オスってどうしようもない生き物よねえ。お願いだからハメ外しすぎないでよ。これでもわたしたち、勇者パーティを名乗ってんだからね」
「オレの心が良く分かったな」
「もんのすごいイヤラシイ目をしてるもの。――はぁ。巨乳はモテていいなぁ」
グッと、両の胸を持ち上げるエロイーズ。
うぅ。直ちに鷲掴みてぇ。
「そ、そういうオマエだってなかなかのもんを持ってるんじゃねぇのか?」
「完全敗北。なんならちょっと確認してみる?」
ま、マジっすか、おねー様!
願ったり叶ったりなんだが。
「確認してみます!」
ここは客室、人さまの目を気にする必要はねぇ。
邪魔者になるアンコとチュテレールも今いない。
こんなチャンスは二度とあるまい。
本人がその気になってる内に遠慮なく失礼するぜ。
モマせてもらおうと手を伸ばした――ところで、アンコの「ただいまー」があった。
チュテレールの声も同時だ。
「はう!」
今まさに揉みしだこうとした、そのタイミングで。
どう考えても現行犯だよな。
メッチャ嫌われるし、据え膳お預けか!
「……ふたりで向かい合ってどうしたの?」
疑りの問い。
するとエロイーズがすかさず返した。
「はん? ああ、押し相撲で賭けをしてたのよ? 負けたら今晩の食事、オゴリ……ってね」
「はあぁ?!」
な、何をデタラメ言ってんだ、この女。ってつい、ヘンな声出しちまった。
「オマエ、いったい何を?」
エロイーズ、いつの間にか胸の前で両手を広げている。オレと同じポーズだ。
押し相撲……に見えなくない。
なんでだ? どういうつもりなんだ?!
「押し相撲? わー幼稚ー」
当然そーなるわな、オレだってそうツッコむぜ。
「んなワケねえだろ! 適当な言い訳すんな! オレが押し相撲なんて幼稚なアソビ、するわけ無いだろ! オレは単に、エロイーズのち……」
「ち?」
……あッ!
そ、そういうことか!
これってもしかしたらエロイーズなりの機転ってやつ……だったのかもしれない!
オレの優秀な頭脳がそれに気付く!
「ち……?」
「ち……」
「ち?」
初心なアンコとチュテレールに見詰められる。汗タラタラ。
うおお! 気付いたのに! 気付いたのに! どう活かす、オレ?!
「――ウン、そだな。これは、チンパンジーのモノマネ合戦だ。似てない方が明日の朝めしをおごるってな」
「へー。そうなんだあ」
そうなんだ……なワケねええぇ。だろぉぉぉ。でもチョロイン有難う!
「そうそう。どっちもジュドーのおごりになったけど」
「そうだな……って、えええっ?!」
ニシシ笑いのエロイーズ。
グッ。してやられたぜ。けど、助かったぜ。……ヤベかったしよ。
オレがもしもバカだったら、モテキ終わるところだった。良かったよ、優秀で。
「あのさぁ。チュテの話聞いてくれるう?」
「なんだ、あー?」
「ひっ……」
おっと、ここでイライラするのはダメだな。優しく、優しく。
「スマンスマン、テンパってた。じゃなくって戦いのイメージトレーニングしてた。――うん? なんだ、チュテレール?」
「チュテねえ、気付いたんだ。目的地の魔王城から遠ざかってるっぽいって」
「わたしもそれ、何となく気付いてたんだ!」
アンコも張り合って主張。ふたりともカオが必死すぎ。
めちゃ可愛いな、コイツら。
「遠ざかってる、ねぇ……」
チラ見したがエロイーズは話の輪に入らない。
窓からの景色に悦に浸っている。どーでもいいのか?
つかオレが回答すんのか?
「うーん。そーだなぁ、別に順調な気がするがなぁ」
真っ当に問われりゃ、オレたちここまで随分いい加減な旅をしてたかもだしなぁ。
言われりゃ、そんな気もするがなぁ。
エフェソス帝国領に入ってからは特に行き当たりばったりで、どーも観光気分だったし。
こりゃ、死んだ勇者ぱーさんに怒られるな。




