40 豪人、ツェツィーリアにふられる①
浮遊大陸との交流が再開し、取り残されていた現地ゴブリン職員らの魔王城帰還が増えた。
その者らに連れ立って魔導人形たちの行き来もこのところ目立ち始めている。
魔導人形らのリーダーをしていたキリイシというヤツもその一人で、彼の特異な点はツェツィーリアが主宰している百華隊に入隊したことである。
彼は男型タイプ、なかなかのナイスガイだ。
痩せぎすだが、強いて例えると小気味の良いスプリングのような体躯をしている。
初見では戦闘狂を疑う風貌をしていたのでなかなか不気味に感じたが、実際のところ実力も伴っていた。
先の戦闘では第2将軍、隻腕のコウゼンと功名争いを繰り広げ、敵対した別のリーダーを一撃のもとに粉砕したそうだ。(真偽は知らん。二人ともそう主張している)
こう紹介すると「頼もしいんだね」で片付くが、それだけではない。
彼はすこぶる人あたりが良く、物腰も丁寧。よく気が利くし頭の回転も速い。有能誠実を絵にしたキャラだ。
今や宮廷内の密かな人気者になっている。
これはオフレコだが、4将軍や技術開発部のオトコどもに比べても、格段にモテているような気がする。
まぁ僕ちんには敵わないだろうがな。
当然言い寄る女性もいることだろう。
ケシカラン話だが、その場合、片目はつぶってやろうと思う。
なんせ彼は両領間の懸け橋となる存在なんだし、昨今暗くなりがちな宮中に華やぎをもたらすはむしろ歓迎だ。
「キリイシ。明日ノノのメンテナンスを受けるそうだな」
「はいっ。顔の改修です。どんな顔にして頂けるか楽しみです! 皆さんともコミュニケーションがより取りやすくなるのでとても有難いです」
ホントにそれだけかなぁ? ま、いいさ。
せいぜいイケメンに仕立ててもらえよ?
かたや、廊下の隅でしょげている老人に出くわした。
言わずと知れたヤーン博士だ。
キリイシと並び殊勲の将の一人に挙げられた……んだが、こっちの方は女性陣たちにはあまり歓迎されていない。
……まぁ、強面ドワーフだし、厳ついお年寄りだからな。
過去の実績をつらつら語られたところで、うわべの尊敬はされても恋慕の情など抱いてもらうべくもない。カワイソーながら。
「ああ。儂は死にぞこないじゃ。こんなことなら先の戦闘で華々しく散れば良かったのだ」
おいおいご老人。挨拶しあった早々にナーニ言ってるだ。
「老師ヤーン。魔王城に再出仕頂き、本当に光栄です」
「キモイな。今のでまた旅に出たくなったぞ」
あ、ウザ。
博士がこれほどまでに落ち込んでいる原因は、女性たち総スカンとは別にある。
あるひとりの女性の存在だった。
――なんでもその昔、魔王陛下と取り合った最愛の想い人がいたそうで。
「儂ゃ、最終的にあんのイロオトコにその娘を託し、旅に出た。久しぶりに会いたくて洟垂れ小僧のバンクに居所を聞いたら、とっくに亡くなっちまってた。儂ゃ、悲しゅうて悲しゅうて」
「そのイロオトコってのが魔王さまだったと。そりゃあ、御愁傷さまです」
あのバンク執事を洟垂れ小僧とは。あの人にそんな冠コトバつける人間は博士だけでしょうね。
いったい何年前の話してんだか。
悪いとは思いつつも「そりゃまぁ、もうお亡くなりでしょうねえ」とポロリ言っちゃいそうだ。
「ご愁傷様だぁ? ふん。ベンの面下げたヤロウに言われても、ちっとも慰められんわいッ」
「そう言いますが。前世の僕のカオを魔王さまソックリにしたのは博士なんでしょう?」
「そらそうじゃ。アイツは格好いいし、性格も最高にいい。お前も嬉しかろ?」
「……ええ。まあ」
博士。あなたは魔王さまが好きなんですか、それともダイキライなんですか?
それとね。
老人のする三角座りは、傍から見ていて無性に物悲しいので止めてくれませんか?
ましてやそのごっつい図体で……。
「ところで儂も百華隊に入れてくれんか? アンナ妃とお近づきになりたい」
「よこしまなジジイの入隊はとうてい不可能でしょう」
「よこしまな魔王モドキの入隊はOKなのにか?」
アター。一本取られたー。
「分かりましたよ。ツェツィーリアに掛け合っときましょう」
「ところでアヤツはいつまで監禁しとくんじゃ」
「アヤツ? えーと。グレープフルーⅡですか?」
ヤーン博士、首を振る。
「あのメイド執事じゃよ。何なら儂が手取り足取り再教育してやるが? いったいあの娘は何を仕出かしたんじゃ?」
サシャか。
彼は現在に至るも黙秘を続けている。
博士の目尻が下がっているのは、彼が女子だと思い込んでいるから……だろう。
確かに可愛い。――が、やっぱアイツは男だ。どうしても男だ。
でも僕の口からは(愉快なので)言えん。
「2ヶ月前に起こったアンナさん誘拐事件に関与しているのは間違いないんですが、未だ自白しません。疑わしい者を復職させるのもなんですし……」
「ふむ。儂がいっちょ噛みしてやるわい。洟垂れバンクからも話を聞いてやろう」
「……その言い方、バンクさんが憐れなんで止めてやってくださいませんかね」
うーん。
確かにサシャの上司だったバンクさんに訊けば、何か取っ掛かりが見つかるかもしれんが。
「じゃあお任せしますが。サシャはこれまでリオン国との友好関係構築に多大な貢献をしてくれました。下手を打てば両国間に溝が生まれますので、そのあたりの配慮はお願いします」
「分かっとる、分っとる」
気が紛れたのだろうか、それとも悲嘆自体を忘失したのか。
ヤーン博士はやり甲斐を見つけた若者のように、スキップせんばかりの明るさで廊下を跳ねて行った。
とりあえずは一段落かな。
……あー。車椅子、置いて行きやがった。もう不要だろ。
それと博士ー、そっちは外ですよー。




