35 春馬越兄妹、浮遊大陸でドワ博士と邂逅⑤
研究所に乗り込んで来たのは、ほんの10体ほどだが、過激派の魔導人形たちだった。
口々に叫んでいる主張を要約すると、「帝国の犬を出せ、匿っているだろう」だった。
「まあま、騒ぐな。ほら、破壊されたモンもこの通り、美男子になっとるじゃろう」
採掘村で倒した3体は見事リニューアルし、それこそ別物になって僕らの前にお目見えした。
こりゃあ、お色直しが度を過ぎてヒドイ……替え玉じゃねーの?! なーんて思うくらい。
でもこの場じゃ一切のネガティブ発言はタブーだ、どんな反感喰らうかも分からん。
えーと、上手く表現できんけど、そーだな、とても人間っぽくなった?
そういう言い方が適切か?
「何だか女子受けしそうな若者たちですな」
おっそうそう。ラットマン、ナイス。
角が立たない、とても良い言い方をしてくれた。
「ちょっとチャラ男くさいよね。パリピーみたいな? 失敗したかな?」
ノノ!
ぶち壊すな!
ちゃんとオブラートに包め! そもそもお前がメンテしたんだぞ! 最後まで責任持ってくれ!
「生まれ変わった気分はどうだい? 御三方、イエイ」
だからぁ。
煽るなって、ラットマーン!
いい気分なワケ無いだろが! つかパリピー知らないだろ、そもそも。
さあ、3体のパリピー魔導人形はどんな態度、言動を示すか。注目だ。
怒り発言するなら、平謝りで即メンテをやり直ししますぜ?
……。
「あ。済まん。この者らはしゃべれんかった」
ガクッ。
だが次の瞬間、思いもしなかった事が起こった。
ヤーン博士とノノに、魔導人形たちが熱い握手を求めてきたのである。
どころか、それまで掴み掛からんばかりに抗議をしていた連中が拍手さえしているのである。
うおお。
能面な彼らの感情はいまひとつ読めないものの、その挙動は少なくとも事の成り行きを拒むものではないことはハッキリとしている。
そんっなにパリピーな面構えに変化したのが良かったのか?
いや違う。彼らはきっと人間っぽく生まれ変わったのが嬉しかったのだ。
きっとそうだ、そうに違いない。
「……マジか……」
しかし実に不思議な光景だった。
というか、不思議しかなかったが、僕は妙に感動を覚えた。
これはバンドワゴン効果というヤツか。
僕の中で、パリピー魔導人形がとてもイカスもののように思えてきた。
「これはこれで悪くない……か」
ノノは天才だ。
更には、その新参者の感性を否定することなく素直に採り入れ、ひとつの形にしたヤーン博士もまた圧倒的な天才だ。
そうして出来上がったものを余すことなく享受し、無邪気に喜ぶ魔導人形たちもまた素晴らしい。
「ノノ、失敗じゃ。再チャレするぞ」
「はい、博士!」
なんだとぉー!
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深夜、そろそろ寝ようとしていると、ラットマンが様子を窺うようにドアをノックした。
「ヤーン博士がお越しです。朝に改めて頂きますか?」
「大丈夫だ。まだ起きている」
ゆっくりした足取りで入室したヤーン博士は、せっかく引いたイスには掛けず、一直線に僕のベットに向かい、腰を落とした。
ベットが軋んだ拍子に「ブッ」と鳴った。屁かッ! なんだあ、このジジイ!
魔導人形のグレープフルーⅡくんも伴っている。いま魔導人形らとモメるのは良くない。
なんでも彼が、反乱分子リーダー3人の内の一人だそうなんである。重要人物なのだ。
なので、グッと堪える。
「お前さんの名前……チャーリーだったか?」
「ご・う・と、です」
「惜しかったな」
「一文字も合ってません」
くう臭ってきた。サイアクだ。
「人が話しをしとるときにウロウロするな」
誰のせいだ、誰の。
「少し唐突な話をするが良いか?」
「……イヤな話ですか?」
「イヤな話ではないが、さりとて特別に良い話でもない。ま、フツーじゃ」
「もったいぶらんでください」
わざわざ夜中に忍んで来たんだ。ある程度重い話だとは察するよ。
さっさと話して出て行ってくれ。
「お前さんはな。儂が昔、人化を図った魔導人形じゃ」
「へーはいはい……って、へッ?!」
「だからお前は元魔導人形じゃ。この、グレープフルーⅡの仲間じゃ」
僕は絶句した。
随分長く絶句した。袋麺が茹で上がって食べ始めれるくらいの時間は軽く絶句した。
絶句して頭の中も空っぽになった。
「何を……」
「だから。お前は儂が造った魔導人形で」
「え、えーと?」
「儂の優秀な技術力に加えて、ファウツーに依頼して、人間族に転生してもらった者、第一号なんじゃ」
脳の整理が追いつかない。
つまりは僕は人間どころか生物ですら無かったと?
元は無機質な存在だったと?
「まーたまた」
「まーたまた、では無い。何度も言っておろう。オマエは元魔導人形なんじゃって!」
立ちくらみがした。
ふらついて、いかつい老人に抱きとめられた。
ああ。逞しいおじいさま。
「しかし! 僕にはちゃんとした前世の記憶があるんですよッ? 天燿国で魔導師してました。それで……」
「その記憶は儂がお前さんに与えたものだ。実在した、まったく別人の記憶じゃ」
「な、なんだって……」
ヤーン博士が僕の両手を掴んだ。カオが近い。チューされそう。でももうどうでもいいさ。
「気にするな」
「気にするさ!」
ベットをポンポン叩くヤーン博士。
僕は素直に、じーさんが叩いたところに腰を置いた。横一列に並ぶカタチになった。
「……この話、ノノは?」
「知らんじゃろ。わざわざ薬で眠らせてからこの部屋に来たしの。ささやかな配慮じゃ」
「どういう配慮ですか……」
ヤーン博士の話によると、大昔、研究所が襲撃を受けたとき、前世のノノが頭部を殴打されて死亡。
その亡骸を護るように、僕がズタボロに痛めつけられた体で覆い被さっていたという。
博士は現場に踏み込んだとき、「これはデキている」と直感したそうだ。
なので、とにかくどうにかしてやりたいと思い、自身が有する科学技術力と、ファウツーの祈願成就力を結集させたのだそう。
なのでノノは転生し、僕も人化した上で転生した。
なんだよ、それ?
「それ。ホンキで言ってますか?」
「無論だ。愛し合ってるふたりが、来世で再び恋に落ちる。なんともろまんちっくな話じゃないか! なあ、ベンよ?」
「あーもーメチャクチャだな。僕は豪人。ベンじゃないですって。……あ、と言うことは、僕が魔王さまに瓜二つだったのは――」
「アイツ、面だけは良かったからの。お前も能面づらよりもイケ好かない男前の方がまだマシだろう」
その言い方。
まーそりゃ当たり前です……。つーか安直すぎですよ……。
「僕が魔術を使えるのは?」
「ベンに能力をおすそ分けしてもらった」
ベン。つまり魔王さまにか。
「なんでノノにナイショなんですか?」
「言っちゃったら劇的な再会の感動が薄れるじゃろう? 演出じゃよ演出」
何の演出だよ、何の。




