33 春馬越兄妹、浮遊大陸でドワ博士と邂逅③
「上司って、――仕事でホウレンソウとか指示出しとか、ときにはパワハラ、セクハラ横行でクビになっちゃたりする、あの上司なのか?!」
僕は2度聞きした。だって大事な事だからな!
老ドワーフは細めた目でノノを眺めた。
「儂ゃ知らん」
「あなたが知らなくてもあたしが知ってます。あなたは魔術技術開発部の初代室長です」
車椅子から立ち上がった老ドワーフは、分厚いブーツで床を軋ませながら、のっしのっしとノノに近付いた。
歩けるんかい! というツッコミも忘れ、彼の行動を注視した。
コイツ、殺人者の眼だ! (悪いが僕なりの比喩だ、そう見えた)
僕は力を振り絞って、ノノの壁になろうと身体を転がした。
「兄ちゃん、ジャマだ。……ん?」
成り行きで、今度は僕に殺意の眼を向けてきた。あーシヌんだな僕。
「お前。ベンだったか?」
「べ、ベン?」
「ベンだろ?」
「えーと……」
「……あぁ、そうか。今は魔炎王タルゲリア……だったな」
老ドワーフ、クイッ……と口角を上げたが、あまりに僕の反応が薄いので「フン」と不興気になり、今度はノノに対した。
「ご無沙汰しております。わたくしの昔の名前はサラ・マショーです。――ヤーン・ゲルハルト博士」
ヤーン・ゲルハルト……聞いた名前だ。
昔……えーと……。
「ほう。真名で呼ばれたのは久方ぶりだ。……お嬢さんは、サラか。かつての助手にそのような名がおったような。……だが確か、儂の記憶ではその者は……」
「そうです。その者は死にました。……ちょうどこの場所で。私はその者の生まれ変わりです」
ヤーン博士と敬称を用いられた老ドワーフは和みかけていたが、急に顔色を変えた。
殺人者の眼に戻ってノノを睨む。【生まれ変わり】というワードが忌諱に触れたらしい。
「ふん。なら、サラ室長代理の生まれ変わりか」
「いまは春馬越ノノという名前です」
「はるまこし……ノノ。――では、ノノさんは生まれ変わりを信じると?」
「――? ええ、まぁ……」
ヤーン博士は後方に控えた魔導人形に振り返った。
別の魔導人形がダルマ状態になった3体の魔導人形を運んで来た。
「……ところでこの人形たちなんじゃがの。あろうことか3日ほど前、とある採掘村で襲われて壊されたようでの」
「――!」
「ご存じかの?」
じーさん、ノノを睨み、僕を睨んだ。
明らかに確信している眼だ。
僕らが、村にいた魔導人形を倒したことを――。
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「ドクトル・サー・ヤーン。その魔導人形を殺したのは小官です。理不尽ながら罰するなら小官を」
「貴公はいったい何だ?」
「エフェソス帝国魔王直属軍のラットマンです」
「違う。その物言いは何だと訊いている」
「あ。そっちでしたか」
ラットマン将軍の胴から、ぱらりと縄が落ちた。
あれ程固く縛られていたのに、あっさりと縄を解きやがったか?!
ウルトラマンがスペシウム光線を放つようなポーズで、ヤーン博士と後ろに従う魔導人形らをねめつける。なお言っとくが、エフェソス帝国にテレビは無いし、特撮ヒーロー番組もやってない。
「我らは降り掛かった火の粉を払っただけ。自分たちの持ち物を点検に来ただけ。それをお咎めになられるのなら、この小官が一手にその罪を背負いましょうぞ!」
「こらラットマン、お前こそ火をつけ回ってるぞ。これ以上相手を刺激すんな」
「ご心配めさるな。このラットマン将軍がトラブルを解決してみせまする」
魔導人形がわらわらと、大見得を切った将軍に迫った。
だがラットマン将軍、右に左にスウェーしながら魔導人形が捕まえようとするのをかわし、パンチや蹴りをお見舞いしている。武器を取り上げられているので圧倒的に不利だと決め付けたがなかなかどうして、かなりの善戦だ。
――って待てよ……?
「ラットマン将軍! 攻撃を止めろ!」
「はぁ? なんでですかい……?! あがっ、ぐごっ」
鈍った動きを捉まえられて、魔導人形たちに次から次へと覆い被さられた。
「お、重いッ、ギブギブうッ!」
「もう抵抗すんな。コイツらに攻撃の意思はないようだ」
呆れモードで将軍を慰めると、ヤーン博士が「うむ」と唸った。
「ベン! もちっと早く部下を止めんか」
怒るならあなたも一緒に止めてくださいよ、車椅子で煙草ふかしてくつろいでないでさ?
ラットマンは再びグルグル巻きの人になった。
「それで? ヤーン博士は何がしたいんです?」
「言っとろーが。魔導人形の緊急メンテじゃ! さっさと手伝えって話じゃ」
「メンテ……ですか?」
「お前らに壊されてからもう3日も経っとる。完全に魔鉱石エネジーが切れたら本当に死んじまうだろが! とっとと――」
べくしッ! と、くしゃみで舌を噛んだようで。長ゼリフの説教を聞かずに済んだ。
――手伝え、ね。了解ですよ。
ノノ、要領分かるか?
僕の目配せに首肯の妹。息が合ってお兄ちゃん嬉しいぜ。……その超絶イヤなカオは勘弁しろ。
「ノノさんとやら、元助手の腕前を見せてみい」
「他のみんなは?」
「ベンは理解しとる様子だが? 居残りの人質じゃ」
「ノノ、任せたぞ」
拘束を解かれたノノは、さっきまで触っていた装置に目を遣った。
「そいつはまだ動くぞ」
「……そのようですね」
「この機械の前で朽ち果てていたふたりは儂が葬った。墓は……」
指差した方向は壁。
そもそもこの部屋には防犯上窓が無い。
ヤーン博士は「うー」と頭を掻き、「明日にでも見に行ってみろ」と車椅子の上で「ムスッ」とふんぞり返った。ずいぶん可愛げのない照れ隠しだな。




