31 春馬越兄妹、浮遊大陸でドワ博士と邂逅①
百華隊の会合を済ませた後、裏の実務を遂行するために、ノノ、リヴィたん、そして4将軍の7人が(密かに)集まり、別室の話し合いをした。
テーマは【浮遊大陸への出兵】である。
出兵と言うとただ事じゃないが、要は新天地入植の段取りについてだ。
1.先遣隊を送り込んで現地を調査
2.現地民との和合、場合により武力示唆
3.現地民の協力を得て、移住に向けた諸施設の建設に取り掛かる
――という算段を考えている。
なお、現地民と表現をぼやかしているが、ハッキリ言って僕らが想定しているのは魔導人形たちだ。
故に上記段取りの過程に於いて、未知のトラブルや障害に対応できる、防衛目的のための派兵――という意味合いでの出兵なのだが――ツェツィーリアの仕切る百華隊の会合では、こんな物騒な議題は振れないし。
言わば密議となった冒頭に、僕は重大事項を報告する。
ノノの判断で、リヴィたんにだけは先に話していたが。
「先日、妹と僕は、ファウツーにお願い事をした」
「あたしは、浮遊大陸への転移魔術のサポートをお願いしたわ」
「僕は、個体スキルの増強を願った」
ざわつく一同。
ファウツーに会えたのかという感嘆詞と、願いが成就した場合の代償を疑惧する声が入り混じった。
「――で、その結果は?」
「ふたりとも願いは聞き届けられたよ。よってここに機は熟した。僕は、浮遊大陸移民作戦の決行をあらためて決意する。諸君にはエフェソス帝国にいっそう尽くし、僕らの作戦を支えてくれ」
四将は緊張した面持ちで首肯する。
「まずは先遣だ。ラットマン将軍、それとリヴィたん。僕のお供をしてくれるか?」
「陛下自らがお出になるので?」
「当然だ。そのために魔力を増大したんだからな」
「リヴィの代わりにあたしが行くわ。現地での転移ゲートの調整作業ははあたしの方が慣れてるし」
「……分かった。じゃあ頼む。残留組は使者を引き受けてくれ。アウラ国はじめ諸侯に檄を飛ばし、『勇者一行の殲滅と帝都奪回に奮励努力せよ』と。ついては『向こう3ヶ月の内に、魔王城に兵を伴い参陣せよ』と」
「はッ! 必ずやこの聖都を、諸侯の盾で埋め尽くしまする」
と言っても、彼らは生粋の軍人。
門外漢が渉外したところで成果が期待できないのは承知している。
この場にサシャがいれば別の作戦を立てれたろうが、今回の趣旨は違う。
これには高慢ちきな帝国の命令に、諸侯がどう反応をするのか、それを観察したい意図を込めた。
僕とノノは冷静に帝国の行く末を考えている。
いずれ近いうちにこの国は分断するだろう。
その場合に、味方をしてくれる国と、反逆する国を大雑把にだが判別しておき、向後の手を打っておきたい。
(打てれば……だが)
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
今日までの実証実験で、単身での転移魔術は、ほぼ100パーセントの確率で成功するようになっている。
やはり肝になるのは魔鉱石エネルギーの効果的な使用……だ。
ノノはその単純かつ難解な技術開発を見事にやってのけた。人生二巡目にしてもこれはすごい。
ナマイキなのも片目をつぶって見逃してやろう。(……ときには両目つぶりでも見逃せん事するが)
僕らはいま、浮遊大陸にいる。
何処までも続く草原と、遠望にそびえる山脈は地上の景色とあまり変わらない。
ただ、空だけが違った。ここは雲上の大地だった。
「同じ場所に長居は禁物です。仲間に合流しましょうぞ」
ラットマン将軍が率先して動きだした。
「――どうした? 頭痛か? 結構標高があるからな、ここ」
なんせ空の上だからな。
「違う……過去を思い出しただけ、何でもない」
「……そうか」
ノノの過去。前世。
あまりちゃんと聞いたことが無い。
僕も自分の過去をあまり話さないのでお互いさまか。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
魔王城の深部、魔術技術開発部(=魔開)に設置した転移魔術設備は、今回数人レベルの浮遊大陸への送り届け(=転移)に成功。
だがその具体的な到着地点を指定するのはとても困難で、せいぜい大まかなエリアを決めるのがやっとだった。
簡単に述べると大陸を8等分し、そのうちの一つの地域目掛けて転移するのがやっとのレベルだった。
だがこれは、なかなかに具合が悪い。
今後、大勢の人を送り込もうとした時に皆がバラバラの地点に跳ばされたら大変だ。
最悪遭難しちゃう者も出るだろう。
だから今回の先遣隊の大きな目的は、跳躍地点をピンポイントに決め打ちすることだった。
まずは僕ら先遣隊の前に単身で派遣していた者たちと合流した。
ある程度の難航を予想していたが、ラットマン将軍の抜群の索敵能力と、先駆者が遺してくれていた暗号や目印のおかげで苦労が無かった。
「陛下、御無事で何よりですッ!」
単身赴任の状態で現地入りしていた彼らは、僕らの到着を待ちわびていた。
待ち焦がれていたと言ってもいいくらいだった。
大国のトップが自ら最前線に飛び込むことを彼らは少しも驚かなかった。むしろ大歓迎してくれた。
だからこそ我らの長なのだと、憧憬や尊敬の目を向けてくれた。
また、それだけこの任務が重要なんだと、一層モチベを上げてくれた。
「我々は光栄です! 陛下の御尊容にあやかりたく存じます!」
「はぁは、ご尊容って。じゃあ……こんなのしかないけど、うららんの缶バッチ。これを僕だと思って?」
「うっはーッ! 有難うございますッ!」
……どう受け止めていいか困るぞ。
……つかソレ、限定品だったが。
……つか僕、ホントは影武者だったんだけど。
しっかし、それほど喜んでくれたら流石にこっちも嬉しくなるな。
まったくもー。ゴブリンどもめ。
何て可愛いヤツらなんだ。
「オニイ、ニヤニヤしてないで。次の目的地に行くよ」
「数年前まで帝国と交易を続けていた開拓民たちがいます。その村に行きましょう」
小隊と合流し7人になった僕らは先を急いだ。
開拓民とは、旧転移装置によって100年以上前から入植していた人々だ。
魔鉱石の発掘を生業としていた彼らは帝国にとって重要な存在だった。
近年の交流は滞りがちになり、近況は確認できないままになっている。
その人たちとも協力し合えたら心強いんだがな。
――ついた場所は村というより砦だった。
彼らは外敵を抱えつつ採掘業を営んでいたのである。
牧歌的な要素はひとつもない。
「さて。どうしますかな?」
ラットマンが顎に手をやって思案しだしたので、ノノがジト目で僕に、
「堂々としてりゃいいのよ。味方じゃん、あれは」
「……んーまー、そうだな。僕が行くとしよう」
「いちいち気取るなあ。んじゃあたしも行く」
「お、おう。では我らも」
結局全員で城門前に立った。
ラットマン将軍が門番を呼ばわる。
「ありゃ。反応がありませんな」
「仕方ない。壊そう」
「壊す? 何を?」
僕が詠唱を始めたので、一行は慌てて駆け退いた。
「ま、まさか……!」
「火弾」
僕が魔力弾を当てたのは城門脇の通用口。小さな鉄扉だった。そこを狙った。
扉は変形し隙間が空いた。
「行くぞ」
結論的には砦内には誰もいなかった。
しかし、ここで何が起こったのかは、調べるまでもなく一目で見て取れた。
村――とは言っても、壁の内側には大きな母屋が一つしかなかった。
この建物の中で村人たちは共同生活を営んでいたらしい。
念のために僕らは各部屋を確認した。
「完全に落城しておりますな」
「皆殺し、ですかね」
「酷いわ。女子供まで……」
ここで大規模な戦闘があったのは間違いない。
……随分昔のようだが。
共同墓地があるにはあったが、埋葬が追いつかなかったのか、地面に転がったまま風化した骨も残っている。
「恐らく急襲されたのでしょう。城門も錠が掛かっておりませんでした」
「……警戒しましょう。建物の裏手から微かな音が聞こえます」
「2方向から回り込もう。将軍は反対から行ってくれ」
「あたしはもっかい建物の中を見て来ていい?」
「たった今、確認したばかりじゃないか?」
「ちょっと……気になる場所があって」
しゃーないなぁ。
「何か違和感があったらすぐに報せろよ?」
「子ども扱いすんな」
ひとりで駆けてったノノを見送ると、僕らは陣形を組み母屋の裏手へと向かった。
「坑道です。入口でトロッコがつかえています」
「トロッコが? ひょっとして中に潜っているヤツがいるのか?」
この村の住民か?
それとも……。
坑道の奥から人があらわれた。
炭鉱夫だ。
でもその容姿は――。
「お前たち。魔導人形か?」
分厚い胸に太い腕をした男性タイプの魔導人形が3体。
手にツルハシやショベルを握っている。
彼らは返事の代わりに角ばった頭部を一回転させ、「ギギギ」と摩擦音を立てた。
正対したとき、その眼は真っ赤に点灯していた。
敵対反応!
建物の中は大丈夫なのか。
「ノノッ!」
衝動的に叫んだ僕に、ノノが「なに?」と返事し、窓から飛び降りてきた。
両手に大きな羊皮紙を掲げて。
「……あ! そこにいたのか?! いや。心配になって、つい……」
「子ども扱いすんなって、もお。つーか、どちらかと言えばオニイの方が危機だったじゃん?」
「その……ギャルっぽい話し方、ヤメろよ? 最近特に目立つぞ?」
「なーによ、それッ! アンタの影響でしょう?!」
「そのアンタをヤメろって!」
側面からラットマン将軍が到着し加勢。弓箭を構えた。
慌てて制止する。
「ま、待てっ。こっちから攻撃を仕掛けるなッ!」
「つかオニイ、目の前!」
「ひいッ?!」
ドカンとキツめの衝撃を喰らった。
ノノの呼び掛けが無かったら、アタマのあたりがツルハシでカチ割れてたかも知れない。
「一斉。放てッ」
エフェソス帝国の兵士たちは優秀だ。
魔導人形3体は関節部分を矢で射られ、自在な動きを封じられた。
すかさず将軍が距離を詰め、連中の手足を破壊した。
達磨状態になった魔導人形は地面に転がりもがく。
「すまねぇ。主さまを襲った罰だ」
怖えぇ。
その顔コワイぞ、ラットマン。救われた僕の方がヒビっちまうぜ。
「コイツら。何だか僕の知ってる魔導人形に近いな」
「どう言う事ですかい?」
「昔の記憶通りの姿をしてるんだよ」
先日見た魔導人形は、もっとずっと人間っぽかったからな。
「そりゃ……。最近のはノノ殿が監修なさってるからでは?」
「そうなのか、ノノ……?」
人が話しかけてんのにコイツ、ぼんやりしている。
肩に手を置くとやっとこっちを見た。
「……なに?」
「何、じゃない。魔導人形をあんまり人間らしくすんなよ。……なんだ、その……ヘンな気遣いがいるだろ?」
「それで良いのよ。それが狙いなの」
「はぁ?」
「より人間っぽくしたら、人間と同じように生きられるでしょ」
「……」
「魔導人形が魔導人形のままでしか生きられないってのは、完全に誤解だし偏見よ」
「ん、ま。それはそうだけどな」
――このときはまだノノの言っていることがボンヤリとしか分からなかったが、その意味は後になって理解できた。




