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03 豪人、魔王バイトの面接①


 妹の()()からメッセージが届いた。


 うそだろ。あのノノからだ。


 一瞬、胸が高鳴ったが未読で捨て置く。誤送信だ、どうせ。

 だが10分後、ノックと同時に部屋のドアが開き、更にそれと同時に「ムシすんなーッ」と怒鳴り声を喰らった。


「いいや……、間違いだろ?」

「んな有り得ないミスしないし。第一オニイの名前、登録してないし」


 ウソこけ、してるだろ。

 だから送って来れたんだろ?


 などと真っ当な疑問をぶつけたがスルー。


 とにかくさっさと返事しろと言う。腰に手を当て、薄ら目の見下しで睨みつつ。

 可愛いカオで憎たらしいヤツだ。


「アルバイト?」

「えと……ある遊園地のアトラクションのバイト。禍々しい衣装着て、ふんぞり返るバイト。してくれるよね? てか、しろよ」


 ハァ。ホント教育がなってないな、コイツ。親のカオが見たいよ。


「チューしてくれたらバイト、考えてやってもいいぞ?」


 するといきなり、バキキュッ。グベッ!!

 腰の入った右ストレート。拳のひねりも加えたコークスクリューパンチを喰らわされた。


「可愛い妹がこんなに頭下げて頼んでるんだからね」

「グ、グホッ……どこが……頭下げてる……?」


 淡々とした真顔でツンデレセリフを吐くか、フツー?

 いちち。……歯、折れたんじゃね?


「オニイさ。ナンパするお金無いって言ってたよね。決まりね」

「決まりなのか。ナンパって人聞き悪いな……まぁいいよ、で面接はいつ? ウェブ?」


「今から。服は何でもいい。……トチ狂ってるの? ハダカはダメ。40秒で支度して。……はい、行くわよ」

「40秒どころか10秒も無かったが」


 手を引っ張られて……何かちょっと嬉しくなったのは変態だからじゃない。

 妹とこんなシチュになるのが何年振りなのか? とふと頭をよぎらせてジィンと感激したからだ。


「はいはい、面接ね。……あ? 目隠しだと? トチ狂ってるのか?」


「しゃべるな、聞くな、息するな」

「……はぁ。ハイハイ」


 13歳の女子がすることは理解出来ん。


 手探りで歩かされ、右に身体をねじり。左に身体をねじり。

 段差っぽいところで躓き、溝らしきところで足を引っ掛ける。


 ――と、明らかに空気が変わった。


 何と言うか……温度……湿度……匂い……。だけでなく空気そのもの……。

 全身にゾクリと鳥肌が立った。ピリピリとひりつく、懐かしい感覚。


 律儀につけてやってたマスクを外されたが別に眩しくない。薄暗かった。


 その場所は、何だかだだっ広い、ホールかエントランスのようなところで。


 目線のずいぶん先――10、いや15メートル先に人がいた。

 5段ほど階段を上がった最上段のど真ん中、あれはそうだ、いわゆる玉座。王さまが座る特等席だ。そこに人が鎮座している。


「連れて参りました。我が兄、春馬越豪人(はるまこし・ごうと)です」


 いつになく声を張る妹にギョッとしてると、横に女が現れた。

 さらさらロングヘアからピンと突き出た耳。先端が尖ってる。


 ダークエルフ? しかも仮装だ。褐色の美少女、なのに、黒い水着風の上に肩やおみ足が透けたドレスをまとった、何のキャラ? か知らんがとにかく残念系。もったいない。相当な美人なのに。


 ……で、その背中の羽根はナニ? ホントに生えてるように見えるんだけど。


 アレ?


 ……つーか、息が乱れてきた。……てか待って。……これ違うぞ。

 え? ヤバい、マジに、ヤバ。

 むくむくとこんなときに。下腹部のマッターホルンが……。


 原因はきっと彼女の羽根だ。うっすらと透き通ったひらひらする()()

 なぜか目が離せない。


「股間が腫れましたか。どうぞこちらを」


 何処からともなく出現した年取った男が親切に氷袋をくれた。こっちもエルフみたいで執事っぽい恰好をしている。


 ……って、氷嚢?


 渡されたものの、これを局部に当てて冷やせと?


「サカるな。このヘンタイやろう」


 ううっ?!


 褐色美少女の鋭い罵り!


 ズギュンと脳天に電気が走り抜けた気がした。

 ヘンな性癖に目覚めたかも知れない。


「驚くほど陛下に似ております」

「気味悪いです。まったく似ておりません」


 老執事とダークエルフ美少女が玉座の方に跪き、お互い勝手な評価を言い合った。


 反応に戸惑っていると老執事の後ろにメイドが立ち、「どうぞ。こちらへ」と別室に案内された。狭苦しい窓もない殺風景な空間に会議用のテーブルが2脚、セットされていた。老執事、メイド、ダークエルフ美少女と向かい合い、ノノとは並ぶ形で座った。


 面接なのだからと履歴書を提出すると一瞥くれただけで老執事はそれをノノの方に戻した。


「お名前は?」

「えと、春馬越(はるまこし)豪人(ごうと)、です」


「好きな食べ物は?」

「好きな? 食べ物? ……イカの天ぷらです」

「イカ? テンプラ? 何だソレは?」


 案外ぞんざいなメイドだな。ノノが補足した。


「イカとはわが国の海に棲息するエペのことです。食べやすい大きさに切って小麦粉をまぶし、高温の油で揚げたものです」


「うえ。あんな気持ちの悪い物を食べるとは」


 おい。さっきからなんだ、このチビッ子メイド。ちょっと可愛いからってバカにするなよ? オシリ、ペンペンしちゃうよ?


「エペなら陛下も食されます。茹でてから薄くスライスし……」


 と老執事。……陛下、ねぇ。


「そ、そうなんですか!」


 途端に恐縮するメイド。まったく何なんだ。


「ご趣味は?」

「……ごしゅみ?」

「はい。嗜んでおられるものです」


 うーんこれ……見合いか? メイドかダークエルフとひょっとして見合いをしてるのか? バイトの面接って話だったよな? 聞き間違えたかな? ……いや、そんな事ないな。ノノがそもそも見合い話なんて持ってくるわけがない。

 経験では大抵「バイト経験は?」「学校はバイト認めてるの?」「シフト何曜日に入れるの?」的な内容で、そのつもりで臨んだんだがなぁ。


 質問者の老執事は書類に目を落としている。どうも真面目に訊いているようだ。これは真面目に答えるしかあるまいが。


「……読書と映画鑑賞、です」


 イマドキ書く必要ないって思ったが、履歴書には一応書いといたじゃん。あんたらゼンゼン見ないけど。

 つまりはマンガと動画視聴だよ! ……あと付け足すとゲームな。


「夜の嗜みは?」


 夜の嗜みは? 夜の嗜みは? 二度反芻したぞ。確かにそう言ったな。

 このジジイもトチ狂ってる。ハッキリと認識した。


 ダメだ、このバイト。きっと闇バイトだ。そうに違いない。


「ちなみに日払い可。日当は2万5千円」


 すかさず、ノノがささやき女将ばりに囁く。完全に心の動きを読まれている。闇バイト説が脳裏からきれいに消えた。


 さて。

 何と答えるのがこの場合、吉か。


 既にダークエルフは興味なさげ。髪の毛の先をイシイジしている。メイドの方はポッと頬を赤らめて耳をピクピクさせて、けど不快気に視線を逸らしつつも。


「……特定の交際者はいません。未経験者、です」


 プーッとダークエルフが吹いた。てっめぇ、泣かすぞ。


「つまり、童貞か生息子。もしくは未使用。それともチェリーボーイ。更にはそのすべて。とまぁ、そういうことですな」

「ウッセーよォ!! 色々言い換えて念押しするなあ! ――っつ。……す、すいません」


「いや良いんですよ、これからおいおい覚えて行きましょう」

「……は? おいおい? 覚える?」


「他にご質問のある方は? ……いませんね?」


 老執事、左右を見渡す。最早質問がどうとかいう雰囲気じゃない。ダークエルフは絶賛捧腹絶倒(ほうふくぜっとう)中だし、メイドはニヤニヤ、蔑んだ眼でメモを取っている。どーでもいいや、もう。


 そのとき、空気がピリッと締まった。

 ある男が入室したせいだ。


「どれ。朕も尋ねて良いか?」


 自分以外、ザンッ! と全員一斉起立。直立不動の姿勢で45度のお辞儀をした。ノノも含まれている。

 自然つられる。

 席を譲られ着座する男。


「良い。座れ」


 でも誰も座らない。

 タラタラと冷汗が垂れた。


 なんだ? この圧倒的威圧感と緊張感は……?!


 一瞬だけ鏡かクローンかと錯覚した。身長も体格も自分とほぼ変わらない。衣装は違う。ゴツゴツした厳めしい鎧の上に漆黒のマントをつけている。だけどそれだけだ。なのにこの人、まるで別人だ。


 纏う空気が違う。


「座れ」


 再度命じられた。

 ノノら4人は部屋の隅に寄り、片膝付きになった。それは()()じゃない。


 その男――陛下とやらの視線は自分に向いているらしいと知った。

 オマエに言っているんだが? というカオをしている。ただ眼が合っているだけなのに、全身の毛が逆立つほどの悪寒が走った。上手く表現できないが、生物として命の危機に直面したような、そんな気分。このままだと圧死しそうな緊迫感、切迫感を感じる。逃げ出したい。

 

 ブルつく足を押さえながら席に着く。とりあえずお辞儀した。デコがゴチンとテーブルに当たった。


「キサマ、魔王と勇者の違いが判るか?」

「え……あ……えーと……」


 禅問答か?


 何と答えればいい?


 この人、例えて言えば、いや、ほぼ十中八九、魔王さまだ。あーえーと、魔王さま的存在な人だ。その証拠にノノ始め、この人の部下たちが身じろぎもせず部屋の隅っこで低頭を続けている。


 下手な答えを口走ってこの人の機嫌を損なえば不採用……どころじゃ済まない気がする。コンクリートの足枷を嵌められて3日間、キグルミショーさせられたりとか。


 ところでこの人は勇者には到底見えん。

 明らかに魔王サイドだ。


 そして僕に勇者との違いを述べよとおっしゃっている。

 これは勇者を持ち上げては絶対にイカン流れだろ。


「簡単です。勇者はただの人間の犬。魔王は世直しの志士です」

「志士とな」

「はい。志士ですね。自分が思うに、魔王は己の信念を貫くフロンティアスピリッツの持ち主です。人間だけの世の中じゃない、万物すべてが生きられる世の中を築こうとしているのが魔王、王の中の王、です! 勇者はただのジコマン主義者です」


 言い切った。言い切ってやった。

 持てるヨイショ力のすべてを動員したぞ!


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