29 豪人、斜陽に抗う④
途中のサンジャック村で僕らは衝撃を受けた。
村の教会で、拘束されたサシャを見つけ保護したのだ。
命に別状はなかったが、ひどく取り乱していた。
「アイツら、絶対に赦さない!」
「何があった? なんでオマエがこんな所にいる? 休暇中なんだろ?」
「うわああ、あんなお優しい御方を騙すなんて! 外道め! 地獄に落ちろ!」
ダメだ。人のハナシをまったく聞かん。
すると、ツェツィーリアがサシャに覆い被さるように、両腕で包み込むように抱き締めた。
「落ち着いて、サシャ。ケガは無い? 酷いコトされなかった?」
サシャは。
ツェツィーリアの肩越しにワナワナと口を震わせ、歪めたカオを晒した。
「うう……ツェツィーリア、さまぁ。わたしは、わたしはぁ……」
「大丈夫、大丈夫。よしよし」
ちょっとは正気を取り戻したようだ、良かった。
でもどうする?
サシャが何らかの情報を持っているのは間違いないが、落ち着くのを待ってる余裕はない。
「わたし。暫くサシャについてる。ごめんなさい」
「……謝る必要はないよ。むしろそうしてくれ。リヴィたん、悪いが二人の護衛にここに残ってくれ」
「承知しました」
「お母さまを頼むね、豪人」
任せろ。
口に出すのは軽々しい気がして。代わりに気持ちを込めてうなづいた。
僕は、外で聞き込みをしていたヘリードル将軍に事情を説明し、先を急いだ。
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「ふむ。恐らくあれですな」
聖村ノートルダムの手前で激走する馬車と、それを囲む馬群に追いついた。
エフェソス帝国の紋章の横に、アンナさん専用車を示すガーベラの花を模した紋様が描かれている。
間違いない。
村の入り口に掛かった橋までまだ距離がある。
将軍が魔狼の首辺りを撫で、何かを指示した。彼の捌きで魔狼が旋回する。
「しっかりお掴りを」
「それ、もう少し早く言ってえぇ―ッ!」
振り落とされかけたのを将軍の手ががっちり支えてくれた。彼の逞しい腕力に安心感を覚えた。ああ、ホレてまうやん。
木々の狭間を抜け、川岸の岩場を跳び、馬車の面前に躍り出た。
魔狼の着地による砂煙が止むのも待たず、将軍が咆哮する。
「御后! お迎えに参上つかまつったあぁ!」
急停止した馬車は僅かの間の沈黙を経て街道を逸れようとした。
予測していたのか、魔狼の伸ばした前爪が、曳馬の首を掻いた。
同時に馬を操る集団が抜刀し向かって来た。
馬車からも武装兵が人質を抱えて降車した。
魔狼の牙とヘリードル将軍の剣技で、相手の大半はあっという間に戦闘不能か、及び腰になった。
勝ちを確信した。
そのときだ。リーダーらしき男が声を裏返して叫んだ。
「もういい。女どもは始末しろ!」
ギクリとして身体がすくんだ。
それはマズイ。
女どもというのは間違いなく、アリスさん、ローザさん、セリアさん……それと、ツェツィーリアの母、アンナさんだった。
「た、助けて! パルマコシ、さま!」
アリスさんの縋りつきそうな悲鳴を受けた。
普段の彼女からは想像がつかないような、救いを乞う声だった。
僕は即座に反応した。
まっすぐ彼女らを人質にしている男たちの方に走り寄った。
策も何も無い。直線的な突進だった。
「パルマ……陛下っ、自重ください!」
後から思うと無謀に尽きた。
頭に血が上ってたし必死だったから仕方ない。
まさか無鉄砲に突っ込んで来るとは思って無かったらしい相手は、仰天した眼で剣を振るった。
僕は無我夢中で魔導アイテム【ポーズボタン】を発動させた。
相手は一瞬、ホンットに一瞬だけ、完全停止した。
後日説明書を読んだら「0.5秒」と書いてあった。
僕はそのおかげで辛うじて致命傷を受けずに済んだ。
次に、別の相手が、転がる僕を蹴り上げたので、のたうち回って【リセットボタン】を発動。
激痛が去り、再び蹴られる寸前となった。
「あぐッ!」
結局蹴られた。微妙には避けれたので腹部へのダメージは低かった。
このアイテムの方は、説明によれば、「1秒前」からやり直せるそうだ。
0.5秒間の制止と1秒前への巻き戻しか。
……悪いが魔術技術開発部員たちに言いたい。
このアイテム、両方とも中途半端に役立たんぞーッ!
身をもって実証済だーッ!
慌てて詠唱を開始。
「火弾!」
しょぼい攻撃魔術で抗い、虎口を逃れた。死に物狂いって言葉が脳裏をかすめる。
見かねた魔狼と将軍が助太刀してくれたので、死なずに済んだことをここに報告しておく。
大感謝。




