27 豪人、斜陽に抗う②
「これが……魔導人形か――」
一糸まとわぬ女性たち、見た目の年齢は僕と変わらない。10代後半から20代前半くらいか。
お目にかかったことが無い……わけでは無いが、前世の記憶じゃなんかこう……もっと人形じみていた気がする。例えれば、デッサン人形と言うか、カラクリ人形っぽかったと言うか……。
それがどうだ。この人形たち、やたらとリアルなんである。
まるでホンモノの出来栄えだった。
しげしげと食い入るように眺めてたら、後ろから手で両目をふさがれた。ツェツィーリアだ。
「あんまり見ちゃイヤだ!」
「ヘンタイ度が高くてげんなりします」
「ちょ待て、ツェツィーリア、リヴィたん。僕は、イケないコトはなにひとつしてないぞ」
「だって豪人の目が……」
「しかも呼吸が異常に荒い。そして体をくの字に前のめり」
ムッ。それは遺憾だな。つか、くの字に前のめりって何だよ。
「魔導人形を人間そっくりに。より精巧に、より緻密に創り上げるのがワッシら研究員の使命でごす」
おいドワーフくん、余計な口ばしは挟まんでくれ。特にこのタイミングで。
言っとくが僕はだね、あくまで人間のイミテーションとしての魔導人形に興味を覚えているだけなんだよ? なーんもやましい気持ちなどありゃしやせんぜ? なぁダンナ。
ほら見てごらん、この肩から胸にかけてのビューティライン、それからその下に向かってのヒップラインが……。ぐ、ぐひひっ。し、しまった。
「うわっキモッ! マジにハァハァ息取り乱してますね、このヘンタイ陛下」
「いやぁ! 豪人、キモチワルイ!」
「おうあ!」
リヴィたんの罵りは単にご褒美でしかないが、ツェツィーリアの嘆きは手加減無しのドロップキックに匹敵する。
「……うぐぐ。……しかしドワくんよ、ここまで生身の人間そっくりにする必要があるのか?」
だって目の保養……あ、じゃなくって! 目の毒だし、さんざヘンタイ扱いされて、これ以上成敗されたら五体満足でいられる自信も無いし。
「大いに必要あるでごす」
「必要? 何故?」
「アウラ国などの魔族国家に出荷するためです」
棚の陰から別の男があらわれた。フォーマルポーズで低頭された。
「先ほどは魔術発動をしたご無礼をお許しください」
「いやあれは別にいい。警備のためだろ、気にするな」
普段は夜勤専属の技術研究員、ノノの部下そのに、バンバイアくんだ。
スマートを通り越してガリガリ。仕事の前にその不健康体型を何とかしろよ?
あ、それとな。
そのごっついサングラスもついでに何とかしてくれ。
ここは西部警察じゃないし、ましてやお前はライフル持った刑事でもないだろ。
「この人形たちはアウラ国に売られて行くのか?」
「イエス。アウラ国の貴族たちがより質の良い魔導人形をと、オーダーしているのです」
「ん? お前。その手に持ったワイングラスは何だ? 飲酒しながら仕事してんのか? さては公私の分別を失ってるな?」
「ノン。これは出荷検査の一環です。この子たちから血を抜いて味見しているのです」
「味見……」
採血……。でもグラスの中味は赤くない。無色透明。
バンバイアくん、グラスに口をつけクイッとあおった。
「オウン。デリィシャスでございます。……え? 色でございますか? 先方のオーダーでどんな色にも染めることが可能です。やはり赤が良いとおっしゃる方も大勢いらっしゃいます」
う。気持ち悪い。
……魔物の習性で仕方ないんだが、いつまでたってもその手の話に慣れないな。
「それで。動力源はやはり魔鉱石か?」
僕の質問に答えたのはドワーフくんでもバンバイアくんでもなく。
遅れてこの場にやって来た、妹のノノだった。
右手に紙束を持ち、左手を腰に当てている。目を吊り上げ、トレードマークの野球帽からはみ出す髪の毛が乱れまくりだ。「何かの仕事をこなしながら駆けつけた」感がすごい。見るからに忙しそう。
そんな彼女の背後で、グリーンゴブリンが数匹掛かりで木箱入りの魔導人形を抱えている。
「魔導人形そのものよりも、動力源になる魔鉱石の値段が高いのよ。なかなかそのあたりを顧客に理解してもらえないから、外見の質向上で付加価値を高めてるの」
丁寧に説明しているが、どことなく語尾に険がある。不機嫌指数が高まっているとき特有のものだ。
「その人形は?」
「クレーム返品よ。……ホント可哀想に」
一瞥して僕も眉をひそめた。
魔導人形には全身あちこちに擦り傷や切り傷があり、少し青みがかった血液が滲んでいる。
長年にわたり、相当辛い目に遭っていたと思える痕跡もあった。
いまさら返品ったって、どう見てもとっくにクーリング期間は過ぎているだろ。異世界にクーリング期間は無いだろうが。
――と思ったら違った。
「魔鉱石の消耗が激しかったと見えるわ。たった1ヶ月でこの状態だもの」
「た、たったの1ヶ月?! まさか……!」
「そんで10年保証の製品がもう動かなくなったって。クレームとともに返品。直ぐに新しいのと交換しろって」
「どこのどいつだ!」
「アウラ国の第1王子。一度、前に会ったことがあったでしょう?」
「……。アイツか!」
魔王さまが死んだとき、御機嫌伺と称してアポなしで城に乗り込んで来た男だ。
あのときは魔王さまのご領内で無許可狩猟をしたってんで、こっぴどく叱ってやったが。
もしかしたらその腹いせで魔導人形に八つ当たりしたのか?
ツェツィーリアが木箱の中に手を入れて、自分のハンカチをつかって魔導人形を拭き清めている。優しい子だ。……だけどもう、この人形は魔鉱石の効力を失い、2度と動くことがない。
「ノノ。我が国の魔導人形による収入は全体の何パーセントくらいだ?」
「ざっと……0.02パーセント」
最盛期には年間3万体以上の魔導人形が製造され、各国に供給されたという。
その売り上げはエフェソスの国家財政を大いに支えていたろう。
今はどんなに頑張っても、生産数は年間100体ほど。
ガワが造れても命を吹き込めなければ、魔導人形として成立しない。
(ときどきスキモノがガワだけ欲しがったりするそうだが、全て断ってるって話だ)
「……わかった。今後魔導人形の販売は中止だ。他国に出荷するな。先方からの新規注文は受け付けるな」
「えッ!」
「バンパイアくんの驚きも理解できるがな。キミだって、心を込めて送り出した子たちが酷い扱いを受けるのは耐えられないだろう?」
「耐えられんでごす!」
「だろう? ドワーフくん」
「販売中止って。アウラ国も?」
「当然、アウラ国もだ。王子には僕から直接断りの手紙を出しておく。それとアウラ国王宛てにもな」
全面的に出荷停止した場合、その影響がどれくらい大きいのか。実際想像もつかんが、その場にいる者で反対するヤツは居なかった。……ひとりを除いて。
「それで本当に良いの? 間違いなく魔物たちの反乱が起きるわよ?」
「反乱……それは覚悟の上だ」
僕には考えがあった。それを口にしてみた。
「浮遊大陸に活路を見出そう。魔族が治める国々にも協力を要請して資金と技術力を結集するんだ。そうして浮遊大陸への転移ルートを構築する。浮遊大陸には相当量の魔鉱石が眠っているそうじゃないか。それを上手く活用できれば、魔物たちの招来にも不安が無くなるはずだ」
リヴィたんが、フルフルと蠱惑的な羽根を揺すって質問する。
済まんが今は空気を読んでる。羽根の見せつけはヤメテ。
「それは……人間どもと決別する……という意味ですか?」
「うん……まぁ、そうだな。人間族の及ばない世界に、魔物たちの世界を築くって発想だ」
「オウノウ。何だか人間族に負けた気がして癪ですねぇ」
「浮遊大陸の魔鉱石で魔導人形を量産して。魔族の奴隷にするでごすか?」
バンパイアくんとドワーフくんが困惑気味に抗議する。
「違うぞ。人間たちに邪魔されない世界で、人間と対等の、新しい秩序を確立させるんだ。魔導人形たちとも共存共栄を図る。そのためにはどうすればいいか。それは一緒に考えて欲しい」
ノノが終始不機嫌に頭の帽子を直している。さては反対したいんだな?
「ノノ、意見があるなら言ってくれ」
「別にない。理想と現実のギャップにオニイが悶え苦しむのは目に見えてるけど、あたしも概ねオニイの考えと一致してる。……でもね」
「でも。なんだ?」
「魔族諸国は、最初からあんまり頼りにしない方がいいと思う」
僕は内心、同意した。
だけど最初から諦めてたら前には進めない。
事は重大だ。確実に、慎重に物事を進めるべきだ。
「ツェツィーリア? どうした?」
「――あ、別に……」
ツェツィーリアが魔導人形をジッと見詰めて固まっていた。
心なしか青ざめているようにも見える。
そりゃ傍でごちゃごちゃ言われたら、頭も混乱するだろうし、色んな負の感情に苛まれるだろう。
彼女も彼女なりに思うところがあるに決まってる。
せっかくだから、この子にも意見や提案をしてもらいたいが。
「別に何も無いよ、豪人」
「……そっか」
そうだよな。
彼女にはあまり心配をかけたくない気もするし、ここでこれ以上ややこしい話をするのは止めておこう。




