24 ツェツィーリア、円卓会議を開催する①
予期せぬ勇者パーティの出現でリオン王国に行きそびれた僕に、追い打ちをかける事態が起こった。
魔王城に帰り着いた翌朝。
魔王直属の皇宮警察を名乗る連中に叩き起こされ、身柄を拘束されてしまったのだ。
妹のノノも捕まった。
「何の容疑だ?」
「皇女殿下を言葉巧みに連れ出し危険な目に遭わせた。国家反逆罪と言い換えてもいい位だ」
フーム。
尋問の相手はメイド執事のサシャ。
そーいや前の晩、わざわざ城門前で僕らを待ち受けていたが、つまり、これがしたかったのか。
ツェツィーリアがいる手前、暴挙は控えたと見える。
僕は以前のアルバイト部屋に連行され押し込められている。
「ノノはどうした。会わせろ」
「ウルサイ。オマエに要求権など無い」
ナンダトォ、サシャめぇ。
屈強な兵士を両側に侍らせてるが、お前自身はどうなんだ?
見えそうで見えない極ミニのエプロンスカートをヒ~ラヒ~ラさせやがって。そんなナリでいきがっても至極プリチーなだけだ。僕ぁちっとも怖かないんだからなっ。
「お、オマエがぁ、そうやって幾ら脅したって! ぜ、ぜ、絶対に僕は折れんぞ」
「ぷぷぷ。ビビってんのか?」
ウルセー。声出して笑うなっ。
うーむ、ちっとばかりサシャを侮っていたかも知れない。
なにしろ僕は忘れていた。
この子、メイドなのか執事なのか、妙な立ち位置のヤツだなと思ってはいたんだが、実は優秀な吏僚、もっと言うと執政官の顔も持ち合わせていたんだってことを。
げんに僕に、第7夫人を宛がおうとしたこともその例だったんだし。
例えが偏ってて古いが、豊臣秀吉の傍で頭角を現した元寺小姓だった石田三成とか、織田信長の小姓を務めた森蘭丸とか?
概ねそんな感じのイメージをようやく持つに至った……がもう遅い。
……んー? 遅い、のか?
「一応カタチばかりの裁判をしてやる。その後すぐにシケイだ。それにしても、なんでオマエみたいな帝国の寄生虫を今日まで生かしてしまったんだ、そればかり思う。まさに痛恨の極みだ。クソッ」
「えらい言われようだぞ。サシャってそんな娘だったか? お兄さん、悲しいぞ?」
「……オマエ、ヤケに余裕だな。ま、それも今の内だ」
――僕は机越しにサシャと差し向かいで話してたんだが(警察の取り調べみたいな?)、サシャのヤツ、横入りしてきた別のメイドっ娘にコソコソ耳打ちされて、全身をピンッ! と緊張させた。
「どしたの?」
「ちい―ッ。ぐぬぬぬぬ……!」
僕が顔を覗き込んだからって、そんなに顔を赤らめるな。
お兄さん、カン違いしちまうだろ。
「――出ろッ!」
「ん?」
「さっさと部屋を出ろっ」
「ヤだって言ったら?」
「……ちょっと、お前たち。席を外してくれ」
屈強男子とメイドさんたちが退室。僕とサシャだけになった。
「なんだよ? 何するつもりなんだよ?」
「――パルマコシ・ゴート。お前、辞表書け」
「――は?」
「辞めろ。『魔王さまなんて僕には務まりません。とっとと城を出ます』って書け」
「……なんでぃ、それ?」
「良いから書け! 今スグ書け! 直ちに書け! 音速で書けぇ!」
「だから、何なんだよ急に!」
なんでキミ、涙ぐんでまで退職を強要してんのよ?
いったい僕が何したっていうんだよ!
しょっちゅうパンツをチラ見するからか?
それともお前がうたた寝してるときに、カオを近付けてクンカクンカしたからか?
それとも……。
あー思い当たる事多いな。
「お前もノノみたいな目に遭いたくなかったら、大人しく言う事を聞けよッ!」
「――?! ……な、今なんつった?」
「大人しく言う事聞けって」
「その前だ!」
「音速で書け!」
「あーッ、もおおっ、その後だッ! オマエ、ノノに何か酷い事をしやがったのか?!」
その後の数十秒ほど、僕は記憶を飛ばしていた。
恐らく我を忘れてサシャに飛び掛かり、揉み合いになった。
さすがに殴りはしなかったようなので、それは良かったと胸をなでおろした……が。
正気に戻ったのはサシャを羽交い絞めし、ある部分に触れたときである。
プニプニしつつも芯を感じる、ある部分。
「――?! お、おまえ。……オトコ?」
飛び退き、本日最大の恐怖を覚えて震え上がった。
これは最恐の尋問、いや、拷問だ。お兄さん泣きそうだぞ。
「……オトコ……オトコ……」
やかましいと怒鳴りながら顔中真っ赤なサシャ。
……ああカワイイ。
でも、キミ男子。
オトコノコ。
ドアの外が騒がしくなった。
蹴破りそうな勢いで、ツェツィーリアが飛び込んで来た。
煌々と瞳が燃えている。
「サシャ! 豪人に謝りなさいいッ!」
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まったく、びっくりした。
サシャめ。
ずっと僕を騙してたとは。純真な男心を弄んでいやがった。もう世の中すべて疑ってかかってやる! 女の子の嘘にはもう惑わされないからなっ。
……っていや、あれは女の子じゃなかったし! もお、ややこしいなっ。
「何ブツブツ言ってんの? キモチワルイ」
「――あんなぁ。サシャが妙な事言うからさ。……オマエのコト、ホンキで心配したんだぜ?」
「ん? 心配? ああ、あたしも拘束されたから?」
――ここはノノの執務室。
こないだまでは魔術技術開発部、僕らの間じゃ魔開(マカイ。あるイミ、言い得て妙だ)って呼んでる研究室にムリヤリ机を持ってきて、そこで仕事してたのを、この度どうやら専用部屋を設定してもらったらしい。ツェツィーリアの計らいだ。
よっぼと嬉しかったのか? 壁にド下手な絵なぞを飾っちゃって。ノノは図工が昔から苦手だったしな。また調子に乗ってんじゃないの?
僕の目線に気付いたノノ。
「その絵さ。言っとくけどツェツィーリアさまが描いたものよ」
「なあっ?」
うーむ、この人物画……。
キツネ目のおっさん?
が、口をあり得ない方向に歪めて、イッた目で睨んでいるが……?
「ちなみにそれ、オニイよ」
「ふおっ?!」
……済まん、ツェツィーリア。触れて悪かった。話題を逸らすよ。
「あー……そうそう。ノノは、サシャと並んで執政官に任じられたんだよな」
「うーん、まぁ。まだ実質的には参与にも近いけども。サシャは宮中の取りまとめをしているから、あたしはどちらかと言えば城の外向きを担当することになるかな」
「大変だな」
「まぁ、遣り甲斐はあるよ」
「そうか。そりゃ良かったが」
それにしても、ものすごい書類の量だ。
各城市の人事決済を求める物や、中には訴訟案件や地方官宛ての指示書もある。
これがサシャが言ってた「ノノみたいな目に遭うぞ」の中味だった。
ウン。
これは確かに酷い目に遭ってるね。寝る暇あるの? ってくらいだね。
良く見りゃ、つい先日まで僕の机に積まれてた書類も混じってる。
老執事バンクさんが人の顔見るなりいつもキレてたやつだ。……ほら僕、ノロマだから。
……ノノ、よろしく頼むな。良きに計らい給え(笑)。
さあさ、話題逸らそ。
「リヴィたんと執事のバンクさんも前から執政官だったろ?」
「ええ。今まで3名体制だったのが、あたしが加わって4名体制になるってわけ」
で、僕だ。
僕は内輪で話がまとまり、改めて魔炎王タルゲリアになった。
というのも本物の魔王さまが、亡くなる前に遺言書(に当たるもの)を遺していたのである。
老執事バンクさんがアンナさんからそれを拝受し、公表したのだった。
今後いっそう魔王として振舞い、執政官4人を指導して行かなければならない。
「――それで。部屋に僕を呼んだのは?」
「あの……報告が遅れちゃって……ごめん」
「ん? あの件か? 着替え取りに帰ろうとして困ったぞ?」
「ご、ごめん」
別に謝る必要はないがな。
ゲートが閉じちゃったのは不可抗力だし。
ま、ただ、できれば事前に訊いときたかったぞ。
ゲート前でボーッと突っ立ってる間抜けヤローを演じちゃったからな。あれは情けない。
「――夏休み、今日で終わりだったしな。夏季課題提出しなくて済むし、むしろ助かったよ」
「……ば、バカなの?! そんな呑気な感覚で済まされる話なの?!」
「済ますとか済まさんとかの話じゃないだろ。とにかく置かれた状況で精一杯やるしかないなってコトだよ。ノノは色々悩み過ぎだ」
「あ、アンタがいろいろ楽観しすぎなのよ……」
「いんや。鈍いところはしっかり鈍くすべきだ。異世界での魔王さまバイトってのはそれくらいにしなきゃ精神的に務まるもんじゃないんだぜ? 当然、オマエもな?」
「どう言う意味よ?」
「僕らがここに来て、人や魔物が何人死んだ? 何人助けられた? 何人の者が幸せになった? 幸せを感じる人を増やすために泣く人が出る。そんなのを諸々考えてたら頭おかしくなりそうだし、何も行動できない。でもそれじゃあダメだろう?」
「あたしは泣く人を見つけ、助けたい。それでも泣くんだったら、あたしも一緒に泣く」
「……うーん。そうだよな。やっぱりノノはすごいよ。僕の妹じゃないみたいだ」
言ってみて後悔した。ノノがダンマリした。
ちょっとヘンな空気が流れてしまった。
僕らの親は本当にいい加減だったし、マジにノノは実の妹じゃないかも知らん。
現世での過去の真実なぞ、実際分かんないし。
ノノも思うところがあるような顔をしている。
ふたりの間だけの、決して口に出さない心の中を、探り合った気分がした。
「ところでさ。午後の会議、出席するの?」
「あ? ああ。百華隊……な。……出るよ」




