蛍日和
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…凍てつく凍土は鬼門の轍
動かぬ手指と砲塔の甘言
牢屋の幼少,過ごす娘と
同等意識の仄暗さ
死神の存在を身近に感じる
ある初夏の出来事として付す
…精錬な魂と独白の密事
交わす言葉は裏の裏,故
誰の目にも停泊する事は無い
有効期限も無ければ
誰の機嫌を損ねる事も無い
夕焼け小焼けで日が暮れる
夕焼け小焼けで日が暮れる
今宵,蛍を見に行こう
今宵,蛍を見に行こう
俺と一緒に過去の旅路へ
夕暮れ届かぬ森の中
二人の吐息は夏の風
街路樹,風媚を告げるなら
幹線道路は夢か現か
男は過去の告白を
女は頷き黙り込む
和装の似合う女性の背中
死相の思想を語る言葉
男の背丈は随分高い
思っていたより随分高い
交わした月日の分だけ遠い
時折,夜風が邪魔をする
男の背中は随分厚い
筋肉質だと思ってはいた
胸鎖関節が綺麗に動く
鎖骨の由来を奴隷に紐づけ
見事,見事に語る彼
夕焼け小焼けの赤とんぼ
夕焼け小焼けの探しもの
宵の明星,手を繋ごう
月灯りの下,手を繋ごう
俺と一緒に過去の旅路へ
男は黙って頷いた
次は貴女が話す番
過去の話の続きが聞きたい
右手仕種で促され
三日月,涙で,陽が暮れる
森に何時かの椅子が在る
小鳥が側で鳴いている
今宵,心は温かい
夕焼け色は蛍の日和
羽根の傷跡,休める場所を
其れを私は求めていたの
其れを私は求めていたの
そんなに私は強くない
そんなに私は強くない
そうね貴方の言うとおり
そうね貴方の言うとおり
此の世,現は一切皆苦
私の涙,拭いてください
私の涙,拭いてください
人には色々あるのでしょう
私はどの様に生きればいいの
明確な答えが此の手に欲しい
右手に,左手に,答えをください
夕焼け小焼けで日が暮れる
そして其の目に涙,溢るる
今宵,蛍を見に行こう
今宵,蛍を見に行こう
俺と一緒に過去の旅路へ
視線を伏せる男の手
左手一指の欠損に
女は初めて気がついた
凍土の蚯蚓が其処に居る
生まれて間もない幼少期
2年,地獄の繁忙期
心を数回,病んだと言った
死神を見たとも言っていた
凍土の茸を食って生きぬく
其れは想像つかぬもの
虚空の菩薩の力を借りずに
独りの力で生きてきた,人
黒い大きなケースから
古いかほりのギターを取り出し
裏声高らか,歌いだす
『…今宵は蛍,蛍日和さ』
※
夕焼け小焼けの,赤とんぼ
負われて見たのは,いつの日か
山の畑の,桑の実を
小籠に摘んだは,まぼろしか
十五で姐やは,嫁に行き
お里のたよりも,絶えはてた
夕焼け小焼けの,赤とんぼ
とまっているよ,竿の先
幼き日々のオルゴール
其れは見事な郷土色
今宵,蛍を見に行こう
今宵,蛍を見に行こう
過去への旅路,俺と一緒に
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※童謡唱歌「赤とんぼ」より全部引用