凍星
これは、寒さ厳しいある晴れた夜の話。
冬の星空を見ようと、こととと高台の公園までやってきた。
小さな東屋を1つ陣取って、幼い頃に付録でもらった紙の観測板をくるくる回す。
白い息をもくもく吐いて、ブルブルと体にエンジンをかけながら。
試行錯誤をしても、中々うまく行かない。
このままでは学校で教わったオリオン座とカシオペア座くらいしか分からない。
けれどもそんな時間も楽しかった。
やがて同じ目的でやってきた人達が空に携帯端末を掲げていることに気が付いて、
カメラ機能で自動で星座を映し出してくれるアプリがあることを知る。
二人で画面をのぞき込めば、星空に言葉が広がった。
「わあ…♪
シリウス、プロキオン、ペテルギウス。
…私達が知らなかっただけで、本当はそこにあったんだね。」
実は冬の大三角が眼前に広がっていたことを知って、彼女は感嘆の声をあげる。
星空に憧れた昔の人々は、こんな景色を見ていたのだろうか。
天のキャンバスに無数に描かれた星座達に、寒さとは別の震えを感じる。
凍星や真夜九つの空明ける
隣でこととはそんな感動を句の欠片に残す。
知識を明るさで表現するのは、理解できた時にこんな感じがするからだろうか。
そんな風に思えた、忘れられない夜になった。
終
ひとこと事項
凍星(季語:冬)
凍るような冷たい空に輝く星。忙しい冬は星空を見上げることを忘れてしまうときもあるけれど、頭上には美しい星がいつも瞬いているのですよね。
数年前にカメラ機能で星座を映し出すアプリを知って、初めて使ってみた時にすごく感動した記憶。それを元にしてみました。何がすごいって、空でなく地面にかざすと南半球の星座も見ることができたりするんですよね。改めて宇宙の中の地球に暮らしているのかあ、と納得してしまいました。
何かが分かったときの感動。マンガでは電球マークが付いたりして、やはり明るくなる。知恵の光の明るさが、無明の昏さを払うように、知識は明るくなることと結びついているのだなあと思います。
真夜九つ (まよここのつ)は、江戸時代の夜中の0時を中心とする23~1時頃(子の刻)を指す言葉。かつては9回鐘を鳴らすことから一日が始まっていたとのことです。
今回もありがとうございました!