錦を飾る
これは、近くの山に遊びに行った日の話。
自分の中で秋を送るイベントにと、彼女は紅葉狩りを選んだ。
紅葉については大して有名でない山々も、この時期には様々に色づいて、
こんな植生の分布だったのかと目を驚かせる。
日中の日差しはぎりぎり暖かく、散歩をするには丁度良い。
落ちていたカエデの赤い葉から、お気に入りを拾って歩くことと。
ガサガサと落ち葉を踏んで歩いたり、実を割ってどんぐり虫を見つけたり。
悪戯っ気満載な小さな背中は、どこか軽やかだ。
やがて見晴らしの良い所につく。
そこから見える赤や黄、緑の山の織り成す綾は、正に錦というに相応しかった。
暫くそこで、秋風を一身に受けて心身を休めていると、
故郷に錦を飾る紅葉かな
箋を取り出し、そう書き付ける。
「もう大丈夫。ありがとう。行こっか―?」
自身の中でひとしきり納得がつくと、彼女はすっきり微笑んだ。
終
ひとこと事項
紅葉【季語:秋】
赤や黄、緑色をした織物を博物館で見ると、紅葉の様を思い出します。「故郷に錦を飾る」とは、出世して地元へ帰ることを言いますが、里山の故郷には、初めから錦の衣が用意されていたのですね。社会人経験の後に故郷へと向かう方々は、このような宝物に気付いた方々なのかもしれません。
今回もお目通しありがとうございました。