腐草蛍となる
これは、夕方の公園にさしかかったときの話。
池の隣まで来ると、水草の辺りをこととが観察し始めた。
どうやら蛍を探しているらしい。
この辺りでは見たことはないけどな、と思いながらも、その辺りにいるのかと聞けば、彼女も本当はいないだろうと思っていると笑う。
ただ、昔、大陸では腐草が蛍となるという説があったということを知り、ちょっと見て見たくなったのだと教えてくれる。
「虹が龍の飛行機雲だったり、蛤が蜃気楼を作ったり、昔の人って面白いよね。」
少なくともそう思えた事件があったのかな、と彼女は言う。
蛍の場合は、腐った草の間から幼虫が出てきたりしていたんだろうか。
確かに草木や昆虫が好む土として腐葉土があるし、そういった土から昆虫の幼虫たちが出てくるのだから、正確ではないものの、惜しい感じがする。
腐草蛍となるのかな
そのままな言葉を書き付けて、彼女はくすりと笑う。
今は当然と疑わないことも、未来の人が見れば、少し違うと笑うのだろうか。
結局蛍は見つからなかった。
けれども、今度本物を観に行こう、と約束をした。
終
ひとこと事項
・腐草蛍となる(季語:夏(晩夏))
7月6日は小暑となって、暦の上ではついに晩夏に入りました。個人的には夏の本番がこの時期であるという気がするのは、やはり梅雨明け、七夕、夏休みといった夏らしい存在が大きいからでしょうか。このため、まだ晩夏と呼ぶのは、なんだか寂しい…そんな気がします。
終わりの始まりは、いつの間にかそっとやってきているのですね…
お目通しありがとうございました。