初蝉
これは、坂道を登っていたときの話。
雨が降りそうだったので、冷や冷やしながらバス停へと急ぐ。
傘を持ってはいたものの、疲れていたからか、なんとなくものぐさな気分で、それを出す前に目的地まで行きたくて、二人で無言で足を動かす。
すると隣の木々の間から、蝉の声が聞こえてきた。
ミーン、ミーン。
今年初めての蝉の声。
こととにそれを伝えれば、耳を澄ませて、私も初めてだと喜ぶ。
それから箋を取り出し、何か書きつけようとすると、そこにぼたり。
「ひゃっ、大粒だあ(*'▽';)」
こととが被弾報告をする。
目前の屋根へ飛び込めば、逃げ込むと同時に、ざああ、と音を立てて降り始めた。
不安になるほどの雨の強まり方。
気付けばもう蝉の声はしなかった。
初蝉や最初は独り雨の中
灰色の曇り空の下に、いや映える緑の木立。
バスを待つ間、雨音の中で、今の響きを思い出した。
終
ひとこと事項
初蝉(季語:夏)
詳しくは仲夏の季語だそうで、本当は昨日投稿したかった…!その年に初めて蝉の声を聞いたり、トンボが飛んでいるのを見ると、ああ夏だなって思います。蝉は夜でも泣いていますが、話によれば雨の中では羽が濡れて上手に鳴けないとのこと。急な雨に焦るのは人間だけではないようですね。
お目通し下さり、ありがとうございました。