蝸牛
これは、傘をさして歩いていたときの話。
こととが道端で急に立ち止まって、地面をみつめはじめた。
そこには大きなカタツムリがいた。
「雨の日だから、元気だね。」
彼女の傘に遮られ、雨粒を受けなくなっても、角を出してゆっくり進む。
道路の上では踏まれてしまわないか、心配になるほどのスローペース。
殻が守ってくれるかといえば、水辺の貝に比べると随分脆そうだ。
「知ってる?カタツムリって綺麗好きなんだって!」
緑色の葉を食べれば緑色の、橙色の人参を食べれば橙色のフンをする。
それくらいの知識しかなかったので、ちょっと驚く。
どうやら殻の構造が表面に薄い水の膜を作るから、殻は汚れにくいのだとか。
殻はカタツムリを汚れから守り、そして体の保湿に役立つらしい。
彼女もネットで聞きかじった程度だそうだけれど、なるほど、彼らの殻の存在意義は、防御に徹するためだけというわけではなさそうだった。
雨道や 無理せずいこう 蝸牛
雨の道は雪道よりも滑りやすいこともあるからね。
そう教わったと、書きつけながら彼女は笑った。
終
ひとこと事項
・蝸牛(季語・夏)
マイマイという種族自体が、なんだかあだ名みたいで可愛らしいカタツムリ。でんでんむしという呼び名も、愛嬌がありますよね。彼らは私達よりスローペースにみえますが、彼らなりには必死だったりするのかもしれません。とはいえ、車の用語にハイドロプレーニング現象なんていう言葉もあるくらいですから、しっかり地に足をつけて気を付けたい季節ですね。
・雨道
雪道という言葉は一般的ですが、雨道という言葉は使用例がほとんどないようですので、造語的かもしれません。雨の道、でもよかったかもしれません。
お目通し下さり、ありがとうございました。