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雨上がり
これは、うぐいすさんの趣味の話。
坂の下での一件以来、彼女と会う日が多くなった。
実は元から微妙な縁があったようで、彼女はぼくを知っていた。
この日は雨の上がった道を、虹を探して散歩した。
ぼくは彼女を“ことと”とか、“こと”と呼んでいた。
元は祖父につけてもらったあだ名だそうで、小鳥を意味しているらしい。
ことは国語の授業の折に、俳味について教わった。
それから折々に句の欠片を見つけては、一筆箋に書きつける趣味ができた。
彼女はそれを、句片という。
趣味を褒めると、彼女は決まって戒めじみて“斜に構えているだけさ”と自虐する。
句の実力は自他が認めるダメダメで、“すっぺらぽう”なうぐいすだという。
変な声で鳴く歌詠み鳥が、古典にそう記されていたとかいないとか。
かえるよけたらまたかえる
と、蛙を踏まないように跨いだら、その先にもまた蛙がいて、よろめく彼女。
でも欠片ができたようで、嬉しそうに書き付ける。
これは、そんなすっぺらぽうな、斜に構えたうぐいすさんの話。
終