茶屋にて
これは、茶屋で一服したときの話。
ちょっとお小遣いを奮発して、川辺で抹茶を頂いた。
お供に主菓子と干菓子が選べるようで、二種類の主菓子を見たいとせがむ彼女の願いで、抹茶に前者をつけてもらった。
待つ間、庭先から新緑に揺れる森を眺める。
僅かに聞こえるせせらぎに、鳥の声、川辺で遊ぶ子供達の声。
緑に隠れる淡い藤棚も、遠く風に揺れている。
畳で休んでいると、水面と藤をあしらった主菓子と共に、抹茶が運ばれてきた。
実は冷たい抹茶がこと、温かい抹茶がぼくで、お盆が逆に置かれて面白い。
彼女は菓子の意匠の可愛らしさに、わあ、と小さく歓喜する。
抹茶を頂けば、ほのかな草の苦みが、菓子の餡に丁度良い。
森の気を その身に宿す
そう書き付ける彼女の隣で、ゆっくり緑を頂けば、青々とした森の気が、体に染み渡っていくような心地がした。
終
ひとこと事項
・お茶屋さんの抹茶
一服したいと思ったときに、抹茶を出して下さっていたお茶屋さんに気が付いて、新緑の中で頂いたことがありました。森そのものが体に染み渡るようで、主菓子の意匠を惜しみつつ、至福の時間を過ごしたことを覚えています。八十八夜もそろそろですね。