坂の下
これは、うぐいすさんに出会ったときの話。
ある晴れた日の夕方のこと。
家への道を歩いていると、重い荷物に難儀する一人の少女に気が付いた。
どうやら近所の福引で、運よく当ててしまったらしい。
あまりに不憫にみえたので、思わず声をかけてみる。
一瞬彼女は驚くものの、それでは坂道だけでもと、申し訳なさげにお願いする。
荷物を持てば、この場所が意外と急な坂だと分かった。
二人で坂を上りきる。
すると荷物を受け取って、彼女はぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございましたっ―!」
髪は肩に届くか届かないか、ふにゃりと頬を緩ませる素顔が可愛らしかった。
別れ際、彼女は箋を取り出して、何かをさらりと書き付ける。
さかみちに せをみてあるく はるのくれ
あとで聞いた話では、そんな風に綴ったらしい。
古風な趣味だと、驚いた。
終
ひとこと事項
・坂について
「坂」は「裂く」という言葉に通じ、2つの場所を隔てる境界的な役割をしていたと、確か民俗学の本で読んだ記憶があります。昔から存在する、自然的な境界の1つだったのでしょうか。
・せ(背/兄)
背中の意味の他、古くは女性が男性を親しみを込めて呼ぶ意味もあったようです。
・春の暮れ(季語:春)
春の季節の終わり、または、ある春の日の夕方を指すそうです。
お読み下さりありがとうございました。