表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS悪墜ち魔法少女俺、不労の世界を願う  作者: 戦闘員ハタラカーン
6/14

第六話『ちょっと運がいいだけ』

 「まだ、終わらないの……?」


 イギリス、ボストン。

 たった一体で現れた、戦闘員ハタラカーンを瞬殺する。


 「次はオーストラリア、シドニーだね。ワープするよ」


 平坦な声で妖精ハロワ―が告げる。

 いつまで、続くのか。

 前回同様に世界各地に現れた戦闘員。しかし、前のように足止めを狙ったそれではないように思える。各地にそこそこの数がいたのに対して、今回は一体ずつ。


 ハタラカーンに大した戦闘能力はない。一撃で複数を倒すことが出来る程に。

 ただ人々を襲い、怠惰のエネルギーを少しずつ奪う。

 厄介なことに軍隊や警察の装備で対処することができない為、こうして出現すれば私達プリナーズが撃退するしかない。


 そう、私が、やらなきゃ……!


 今。

 青の戦士ジーニアスは敵の手に墜ち、黄の戦士フォースはプリナーエナジードリンクの後遺症で臥せっている。

 たった一人でも、戦わなくてはならない。


 「次ッ」


 苛立ちが募った心のまま、戦闘員の首に手刀を横薙ぎする。

 『無職』と縦書きされたふざけた覆面の頭と胴体が分かれ、エネルギーと共に霧散し消え去った。


 「次はブラジル、サンパウロだ」

 「ロシア、モスクワ」

 「パニアニューギニア、ポート・モレスビー」

 「日本、東京」


 ワープで世界中を飛び回った。

 世界の首都、人口密集地にばかり現れる。

 どこにも戦闘員を呼び出した幹部や、ブラックジーニアスの姿はない。

 いつ、終わるの?


 「ハロワ―……少し、休ませて」

 「ダメだよフェイト。こうしている間にも、罪もない人が襲われているんだよ」


 戦闘員が現れ始め、既に八時間が経過している。


 一瞬で倒せるとはいえ、ずっと出現は止まない。休憩も食事も取れないままだ。

 プリナーズの魔法少女としての力で、疲労は軽減されるとはいえあまりにも過酷だった。

 腕が重い。足は疲れ切って、ちゃんと立てているのか曖昧だ。

 思考もだんだん働かなくなってきた。


「……うん、そうだよね。私が、戦わないと」

「その意気だよ。さあ、ワープだ」



 ――十四時間が経過した。


 「そろそろ、か」


 俺が世界中に、遅延で戦闘員が出現するように配置して。

 連続して現れるハタラカーンが、プリナーフェイトに撃破され続けて十四時間。

 配置した戦闘員もそろそろ、狩り尽くされる。


 ……深夜三時に叩き起こされて。

 駆り出され戦い続けている心愛の疲労も、限界を超えてはずだ。


 「……」


 大海原の真ん中。その海上。

 逢魔が時、昼と夜が入れ替わる時間。

 そこで一人待っていた俺の前に、プリナーフェイトが現れる。


 相対する、二人の魔法少女。


 しかしフェイトは既に、声を発する余裕すら無くしている。肩で息をして、幽鬼のように表情すら作れていない。

 ……『私』の心が引き裂かれそうになる。彼女をこんなに追い込んだ罪の意識に、萎えそうな意思を。


 「プリナーフェイト。お前を、潰す」


 その宣言で、奮い立たせる。


 プリナーフェイトを、潰す。

 ブラックジーニアスはプリナーズの二人より、直接的な戦闘能力では劣る。

 仲間のプリナーフォースが出撃不能な、今しかない。

 今、ここで桃空 心愛の力を奪う。


 「……っ」

 「させると思う?」


 俺の『私』の本気を悟ったのか、ポーチから茶色の小瓶を取り出すフェイト。

 想定済みの行動、疲労で緩慢な動作。速さにおいて、プリナーズ随一の俺が見逃すはずがない。

 プリナーエナジードリンクが、放った氷弾で弾き落され海中に沈んでいった。

 これで逆転の目はない。


 「ひ、の……ちゃん。どう、して」


 諦めて、くれたのか。

 構えを解き、泣きそうな顔のフェイト。心愛を、今すぐ抱き締めたい。けれど。


 「変身解除して、プリナータイムカードを渡しなさい」


 悪魔の羽が飾られて魔法のペン、その切っ先を突きつける。


 「……私ね」


 俯いたまま、ぽつぽつと語りだすプリナーフェイト。

 どこにでもいる女子中学生と、そう彼女は自身を卑下していた。

 ――両親に愛されているし、運にも恵まれている。広い世界を見渡せば、それは幸福なことだ。

 だが。


 「ずっと、このままでいいのか。ずっと、悩んでいたの」


 『私』と出会う前。魔法少女プリナーフェイトになる前。

 桃空 心愛は、幸福の中にあって不足を感じていた。自身に足りないモノがあると、悩み苦しんでいた。


 「プリナーズになって、まだ魔法少女じゃなかったひのちゃんを助けられて」


 伏せられていた顔が、上げられる。

 涙を零しながらも。

 彼女は。


 「ああ、私は。戦う為に産まれてきたんだって。戦うことで、誰かを助ける為に産まれてきたんだって」


 笑っていた。


 「わかったの」

 「――ッ!?」


 保っていた距離が零に縮む。

 プリナーフェイトは海上を這うように接近し、俺の死角から脇腹へその爪先を捻じ込んだ。


 「ぐッ……!!」


 強烈な蹴り。視界が明滅する。


 「だからッ!!」

 「クソっ、距離を……!」


 不味い。とにかく、距離を取らなければならない。

 蹴りで吹き飛ばされた勢いを利用し、上昇。


 「初めて私が助けられた、ひのちゃんを!!」


 俺は自慢のスピードで一気に距離を取り、牽制の氷弾を連射する。

 しかし最低限の動きで避けられ、最低限の迎撃で距離を詰め続けるプリナーフェイト。


 「助けるのを、諦めない。ぜったい、取り戻すんだからぁぁあ!!」


 桃空 心愛は生粋の戦士。

 ――戦う者。

 彼女が疲れただとか、そんな理由で諦めてくれるはずがなかった。

 よりにもよって『私』の為だ。


 接敵して。

 プリナーエナジードリンクを、使おうとする素振りを見せ阻止させたのは俺の油断を誘う為。

 戦闘の構えを解いて、会話を選んだのは少しでも疲労を回復させる為。

 ……恐ろしくなる。

 今、その天武の才が俺に向けられていることに。


 だがまだだ。俺と『私』は、あのクソ正義に宣戦布告した。


 「――氷!?」


 ついに再び接近したプリナーフェイトの拳が、俺を捉える。

 拳が突き刺さったブラックジーニアスの姿は……氷となって砕け散った。

 氷像に、姿を写したデコイ。

 それはいつの間にか、フェイトの周囲を囲むように何体も展開している。

 乱数回避をし、翻弄する氷像の群れ。


 「無駄だよ!」


 魔法のペンから発する桃色の閃光。細く鋭い砲撃で、氷像の群れは正確に狙い撃たれていく。

 ……やはり、フェイトの消耗は激しいようだ。

 いつもの彼女なら魔法力を爆発させ、狙うまでもなく範囲攻撃で殲滅できる。


 「……っ、どこに……!」


 おかげで、時間を稼げた。

 既に俺は当初から見定めていた位置に、移動を完了している。

 暗い、暗いそこで。

 陣を発動する。


 「囲まれた!?」


 上空にいるプリナーフェイト。

 それを囲むように、氷壁が海から伸びる。


 外からならば。

 氷で出来た円柱が海上から、果てが見えない程に天高く突きあがったように見えるだろう。

 俺は、直径数メートルほどのその中にプリナーフェイトを捉えた。


 「……加速用意」


 縦に伸びた氷のトンネル。

 その中に囚われたプリナーフェイトの、ずっとずっと下。

 その底で、魔法陣を最終フェーズに移行させる。


 「――ッ」


 もう、気づいたようだ。

 しかし見た目以上に頑強に作った氷の柱、疲弊した彼女に破壊は叶わない。

 上に逃げようにも既に間に合わない。

 下に迎撃に向かおうにも、あまりにも遠い。


 プリナージーニアス。青の戦士。

 フォースが黄の戦士として雷を操るように。

 『私』は氷を操る。

 だからこそ、戦う場所にここを選んだのだ。大量の氷の元……水がある大海原。

 そして、必要な距離を得ることができる深い海溝があるここを。


 「プリナーフェイトシールド!」


 回避も、迎撃も不可能と判断したプリナーフェイトが防御魔法を展開する。

 極厚に張られた桃色の盾。

 その先で砲口を向けていた、俺からの砲撃に備える。


 深い海溝の底。

 俺はそこに魔法陣を用意し、今砲撃を放とうとしている。

 一万メートル近い距離。

 その全てを加速に使う為に。


 「ブラック・ジーニアス・ストラーイクッッッ!!」


 射出。

 氷の銃身を、黒の弾丸が駆け上がっていく。

 上れば上る程、加速を続けて真っすぐに。


 「これで!!」


 まともにやれば、ジーニアスの攻撃はフェイトやフォースには通用しない。

 だから策を弄し、疲弊させ誘いこんで。

 威力を極限まで引き上げる弾道を用意した。


 ……これで駄目なら、もうどうしようもない。

 その恐れから願うように。


 「終われぇぇぇえええッッッ!!!!」


 一万メートルを加速し続けた魔法の弾丸が、プリナーフェイトに直撃する。

 魔法陣まで使って、自身の全力全開の魔法力全てを込めた一撃。

 手ごたえは、あった。


 「……」


 全てを賭けた一撃。その余韻がゆっくりと消えてゆき、静寂。

 氷のトンネルの中に音はない。息があがったまま、光の無いその先を見つめる。


 「……心愛」


 漆黒の闇の中。

 ゆっくりと降りてくる桃色の光。それに包まれた、桃空 心愛の姿があった。

 気を失っているようだ。

 変身解除後の自動防御機能で、いきなり落ちてくることはない。夜討ちで着替える暇もなかったのだろう、パジャマ姿の彼女が俺の『私』の元に辿り着く。


 「勝ったよ」


 暗い、氷の塔の底。深い、海溝の底。

 そこで彼女を抱き締めて、告げる。

 ごめんね。

 悪の魔法少女は謝らない。でも、これで心愛は戦わなくてよくなる。

 意識を失いながらも、心愛が掴んだままのプリナータイムカードを奪おうと。


 手を、伸ばした。


 「ごめんね」


 え?

 伸ばした手が払われる。

 抱き留めた腕から彼女がすり抜ける。


 気を失ったふりをして、俺の脇を駆け抜けて。

 走りながら、再変身を行った彼女がそこに辿り着く。


 「……勝ったよ」


 先ほど告げた言葉が、返される。

 俺は、忘れていた。

 ――プリナーフェイト、桃空 心愛は。

 とても、運が良いということを。




 そこに、あったのは。

 初手で海中に落したプリナーエナジードリンクだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ