最終話『TS悪墜ち魔法少女俺、不労の世界を願う』
「なんだ……!?」
世界を襲う、白の人形プリナーハーケン軍団。
人形共に襲われた街を、俺様達は分散し防衛していた。
ムショック様に忠誠を誓う悪の三幹部、ムノー……俺様は、その異変に戸惑う。
「引いていく?」
俺様に組み付いていた四体のハーケンが、突然飛び立っていく。
周囲を囲んでいた人形共も同じく群れを成して、どこかへ。
別の街で戦っていたサボリーナと、怪人を指揮するチコークも同様の状況のようだ。
プリナーハーケンは全ての戦線を放棄して、一点に集結している。
「……ふん」
それらを追って馳せ参じたいが、現状では足手まといになるだけだろう。文字通り俺様の片腕片足は、千切れかけている。
後は、彼女がやってくれる。
確信して。
俺様は怠惰を是する悪の組織、その幹部らしく帰還する。
「任せたぞ」
◇
黒。
黒髪のロングポニーテール。
黒と黒の衣装……飾られたフリルとリボンも黒。
元のカタチが影響しているらしく、黒い猫耳と黒い尻尾まで備えている。
「――頑張るみんなに安寧を! プリナーブラック!!」
世界中に轟かせるように、俺は名乗る。
プリナーズ、四人目の魔法少女。
……面前の白の軍団は数に数えない。
「ふざけるな! 僕はお前のような魔法少女なんて認めない!!」
珍しく、クソ犬が声を荒げる。
それでこそ悪事を働く甲斐があるってもんだ……!
「おらぁッ!!」
無数の白。プリナーハーケンの軍団が、ハロワーに従い俺に集中する。
その空を埋め尽くす白の軍団に対して俺は。
全力でぶん殴った。
「――は?」
ハロワーの呟きが、静かに響く。
白に埋め尽くされていた空。それが、夜空の黒を取り戻す。
白の空に巨大な黒の穴が開いた。
「もういっちょ!!」
連打。
俺が拳を振るう度、白い空に黒い巨穴が空いていく。白を、黒に塗り替えていく。
「そんな、生まれたばかりの魔法少女がこんな力を持っているはずがない!」
自身を守るハーケン軍団の数が、見る見る内に激減する。
「クソ、全戦力を集中して潰してやる!!」
「おかわり上等!!」
蹴りで薙ぐ。密度の高い白の集団が、掻き消されていく。
一体一体が魔法少女のプロトタイプ……プリナーズを総合性能で上回るプリナーハーケン。
その軍団は、紙屑のように破り捨てられる。
「……そんな」
ハロワーの参集に応じた、世界中のハーケン。
人類に勤労を強制する為に作られた人形は、奴を守る少数を残して全滅した。
「ふざけるな! なんなんだよ、その力は!?」
「俺は、不労を願う魔法少女だ」
――プリナーブラック、怠惰の悪を願い墜ちた悪の魔法少女。
不労を願い、頑張る皆に安寧をもたらす悪の手先だ。
「どこぞのアホが、世界中の人間を頑張らせちまったからな」
ハーケンにより、強制的に勤労意欲を過剰に上昇させられた人類。
悪の組織ヒキニートーは働く人々の、働きたい気持ちを怠惰に堕とすことでエネルギーを得る。
これまで散々、エネルギー集めに奔走した俺だ。
そんな俺が悪を働きたいと、願って成った魔法少女は。
プリナーブラックは、世界中にバラまかれた勤労意欲全てを怠惰に変えて力にする。
「お前が襲った人々、全てを俺が怠惰に堕とす」
『いやだ』
『かえりたい』
『今日は、娘の誕生日なんだ……一緒に夕飯を食べると約束したんだ』
『推しの生配信が始まっちまう』
――働きたくない。
強制的に働かされる人々の、心の叫びが俺に力をくれる。
「……俺達は、働きたくないんだよ!!」
「ふざけるなぁぁぁあああああ!!」
最後に残った、ハロワーを守るプリナーハーケン。
奴らに黒のペン……砲口を向ける。
「プリナーブラック……ストラーイクッッッ!!!!」
漆黒の閃光が、白を殲滅した。
「はっ……」
黒を、夜の暗闇を取り戻した丘の上。
地に落ち、小さな柴犬の姿で俺を見上げながら嘲るように嗤うハロワーを見下ろす。
もう奴を守るべき、プリナーハーケンは全滅させた。
だがこのクソ犬はそれでも俺達をあざ笑う。
「下等生物にしちゃ良くやったよ、君は」
異世界からの来訪者、自称正義の妖精は埒外の物理法則に在る。
プリナーブラックがいくら最強の白の魔法少女、ハーケン相手に無双できる性能であろうとも。
このクソ犬に、傷一つつけることはできない。
「ああ、俺には無理だ」
「その通りだよ。今度は、もっと上手くやるとしよう」
『貴様に次はない』
黒の、暗闇の夜空に在ってより黒いお姿。
俺の背にハロワーをより高い所から見下ろすお方が、現出する。
『ご苦労だったな、プリナーブラックよ』
「は。全ては、地球を怠惰に染め上げる為に」
跪く。
巨山の如き、黒の首魁。
雷光のような鋭い眼に、鮮血のように赤い裂けた口。
「……そんな、まだまだ復活には程遠いはずだ。この地球に、現れるはずがない」
『ああ。だが』
天才、蒼河 氷乃がここ数日ラボに籠り準備した最後の一振り。
それはハーケンの迎撃に向かった俺と、三幹部によって得たエネルギーで実現した。
『たった一瞬ではあるが、我は今この場に在る』
一時的に、我らが総帥ムショック様を復活させる。
氷乃が対ハロワーへの切り札として用意した策だった。
『地球人では、手が下せぬ異世界のモノ。だが』
ムショック様は、ハロワーと同じく異世界からの来訪者。同じ、埒外にある存在だ。
「やめ――っ」
『不労の安寧に墜ちよ』
不定形の掌が、ハロワーにかざされる。
たった、それだけで。
「……わんっ」
自称正義の妖精、下等生物に満ちた世界に最大効率を与えて飼おうとしたクソ犬は。
天使の羽を失って。
ただの子犬に、墜天した。
『犬が人を飼おうなどと、道理が合わぬ』
この世界から元の狭間に、ゆっくりと消えるように帰還するムショック様へ頭を垂れる。
「ムショック様、万歳」
◇
「おい、勝ったぞ天才」
満身創痍の私達三人の元にやってきた、プリナーブラック。その凡人はふんぞり返ったように、告げる。
天ッ才の私が死ぬ気で用意した、ムショック一時復活の策で詰め切ったというのに。
やはりこいつは、悪の手先だ。
「ようやく一勝ね」
「ブラックちゃぁぁぁあああんっ」
「……」
皮肉を言う私、感極まって凡人に抱き付く円力華。複雑そうに凡人を睨む心愛。
それぞれだが。
「……その、ありが」
「言うなばか」
礼を言いかける、悪の手先を遮る。だって私は、正義の魔法少女だから。
逃げろって、天ッ才の私が言ったよね?
なのに何であの白い絶望に立ち向かったの。凡人の癖に何とかなると思っちゃったの?
――本当にばか。
「ひのちゃん?」
あ、やばい。
隣の心愛の目がやばい。違うの浮気とかそういうのじゃないの、このばかがあまりにもばかだから……あっ、あっ、変身アイテム掲げないで。
「ほら! さっさと逃げちゃいなさい」
その様子に、苦笑したように笑う悪の魔法少女が撤退魔法に身を委ねる。
私達は、勤労の正義を願った魔法少女。
ハロワーがいなくなった今でも、誰かの為に働ける未来を願う女の子だ。
「そうだな。俺は」
魔法少女でありながら、正義を否定したプリナーブラック。
彼は、私達に追われなければならない。
しがみつく円力華を優しく離して、睨む心愛から目を逸らしながら。
「不労の世界を願う、悪に墜ちた魔法少女だから」
それきり。
彼の姿が夜闇に消える。
たぶん、戦いは続く。
彼と私達は相容れないそれぞれの正義を、胸にしているから。
けれど。
「ぜったいに、負けない」
正義の魔法少女は負けない。負ける訳にはいかない。
――悪に墜ちた仲間を取り戻すのは、魔法少女の作法だ。
「私達が、救ってあげる」
読了ありがとうございました。
今後その後編を投稿するかもしれませんし、しないかもしれませんがまたお会いしましょう。




