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TS悪墜ち魔法少女俺、不労の世界を願う  作者: 戦闘員ハタラカーン
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第十一話『変身』

 ――夜闇を、無数の白が埋めている。


 「はぁあああッ!」


 気力を振り絞るように叫びながら、蹴りをプリナーハーケンに叩き込む。

 砕け散った白の人形、それを認識する前に後方に肘打ち。同じカタチをした者が砕けようと、まるで気に留めず私へ殺到する白の集団。

 否、これは塊だ。


 「っ、く……負けちゃ、いけないの……!」


 私、プリナーフェイトは自身を叱咤するように口にする。

 拳を、蹴りを、投げを。

 ありとあらゆる手段で、私を圧壊しようとする塊……ハーケンの集団に抵抗する。


 「私はっ! 魔法少女は、負けちゃいけないのッ!!」


 魔法の砲撃で集団を削り取る。天に向け放った桃色の光は、白に染められた夜空を穿ち黒を取り戻したが。

 すぐに、増殖する白に埋め直された。


 正義の魔法少女は、負けちゃいけない。

 なのに。


 「か、はッ――」


 四方八方から繰り出される、白の砲撃。飽和火力での圧倒。

 回避不可、と判断し張った魔法のシールドはその前に崩れ落ち私の身を焼き続ける。

 魔法少女の衣装。その対魔法防御、それがじりじりと焼け落ちていく。


 「あ……」


 これは、もうダメだ。

 プリナーフェイト、桃空 心愛の得意。戦うことにちょっと向いていた私は、それを理解する。

 脱出も、反撃の手段もない。

 ほんのちょっと、幸運な私でもこのように圧倒的な物量と質を叩きつけられれば。

 引き寄せる可能性すらない。


 「……やだ」


 怖い。

 防御が、私の命を守る鎧が削り続けられる。心を持たない白の人形達は、変身解除になったからといってこの砲撃を止めないだろう。

 ――死ぬ。

 私の、戦いに特化した部分がその確定事項を告げる。


 「やだっ、やだよぉ!!」


 シールドを張り直す。砕け散る。シールドを張り直す。溶かされる。

 駄々を捏ねるように何度も防御を構成するが、精度も残る魔法力も足りないそれは張る度に劣化していく。

 死の足音が大きくなっていく。


 「もっと、私は――」


 ひのちゃんや、えりかちゃんと生きていたい。


 「――助けて」


 矛も折れ、盾も崩れ落ちた正義の魔法少女。

 その最後に私は……ただのどこにでもいる女の子として、助けを求めた。




 「「当然」」



 ……間に合った。

 桃と白の魔法少女の服を、焼かれ裂かれたボロボロのプリナーフェイト。

 やってくれやがったクソ共との間に、俺達は立っていた。


 「頑張るみんなに力を。プリナーフォース」

 「頑張るみんなに英知を。プリナージーニアス」


 敢えて、隣に立つフォースに合わせて名乗る。

 静かに……けれど、確かに。

 『私』達三人は、仲間だから。


 「……やれやれ」


 クソ筆頭、ハロワーがため息と共に人形達を殺到させる。


 「フォース、フェイトを守れ!」

 「がってん!」


 フォースに声をかけながら、数えるのも馬鹿らしいほどの軍団に向かって駆ける。

 直接の戦闘力で、プリナージーニアスは最弱……無数の敵に対して攻略の糸口すら見えない。


 世界中に展開した、ハロワーの最後の使者プリナーハーケン。

 その総合性能は俺達プリナーズを凌駕する癖に、安価なエネルギーで大量生産可能。

 しかも、周囲の勤労意欲を強制的に増加させるという厄介な性質を持つ。


 「それでも! やるしかないでしょう!!」

 「氷乃ッ!?」


 俺のポーチに身を潜ませていた蒼猫……それに意識を移した蒼河 氷乃が飛び出す。


 「ハーケンを突破して、ハロワーに辿り着ければ!」

 「何かあるのかよ!?」


 ここ数日、ハロワー攻略の為にラボに籠り切りだった氷乃。

 問いながらも、その天才の頭脳に頼るしかない。


 「任せなさい凡人。私は、天ッ才なんだから……!!」


 ならば。


 「信じるぞ、あんのクソ犬に吠え面かかせてやる!!」


 ハーケンの集団に突っ込み、その先にいるクソ犬……ハロワーの元へ跳ぶ。

 既に状況は戦術以下だ。フェイトを守る為急行し、何の準備も整っていない。仲間、ヒキニートーの幹部達も世界中に展開したハーケンから人々を守る為に手が離せない。

 戦闘力を失ったフェイトを背にフォースも動けない。


 「あんただけじゃ無理!」

 「えっ」


 孤軍奮闘、絶望的な戦力差。それに挑む男に向けて、天才少女は極めて理性的に否定した。


 「――だから!『相乗り』するわよ!!」


 傍らの蒼猫、氷乃は青い光となり。

 俺の、ブラックジーニアスの身体に飛び込んでくる。


 「これは」


 魔法生物に意識を移した蒼河 氷乃。彼女は以前、俺に言った。

 一度起こったなら、もう一度起こせる。

 結合した俺と氷乃の意識。分離した俺と氷乃の意識。


 ――それを、再度結合することは可能である。


 「視える」


 飛び込んだ俺に殺到する白い軍団。


 攻撃動作7、脅威4、対処可能8、動作決定。

 視えた未来に従い身体を動かす。


 「全部、解る……!」


 天才、蒼河 氷乃と『相乗り』したブラックジーニアス。

 真のジーニアスの力を発揮したこの身は、全てを知覚し理解する。

 ハーケンから振り下ろされる拳、その事前動作から軌道が視える。

 死角から放たれる白の砲撃。放たれる無数の砲撃の中にあって、俺を射貫ける射線が視える。


 「ブラックブリザードッ!!」


 効果対象19、無力化3、影響24、動作決定。

 膨大な演算能力で得た未来視。未知を許容しない英知の魔法少女、ジーニアスは未来が視える。


 「届け――っ!!」

 『届かせるのよ――っ!!』


 相乗りする俺と氷乃が、ハロワーに迫る。

 しかし。


 「君には期待していたのだけれどね、氷乃」

 「ぐ……え……っ」


 攻撃動作198、脅威104、対処可能0……動作不能。

 冷たく演算を続ける頭が、絶望を告げる。

 突っ込み、一心に駆けた突撃は。


 白い巨壁に閉ざされた。

 四体のハーケンに両手両足を掴まれ。俺を囲む無数の白が首に、胸に、背中にその掌……砲口を向けている。

 

 「はぁ……テストのだけのはずが、随分とハーケンを消耗してしまったよ」


 その壁に守られながら、ハロワーは俺達に。


 「やはり危険だね、君達人類は。僕達のように、高位の者に飼われるべきだ」


 異世界からの来訪者。

 利用し得る魔法少女適正がある子供を利用する為に、愛らしい現地生物の形を借りた怪物。

 ハロワーは、終わりを告げる。


 「懲戒」


 俺を、ブラックジーニアスを拘束するハーケン諸共に白の砲撃が集中する。


 「やれやれ」


 地に墜ちる。

 倒れ伏したまま目を向けると、フェイトを守っていたフォースも満身創痍で動けそうにない。

 終わり、なのか。


 ……届かなかった。


 過労死して、氷乃の身体を借りてこの世界に生まれ変わって。

 必死にハロワーの正義に抗い、戦い続けて。

 負けて。逃げて、また負けて逃げて。


 俺は。社畜に終わった俺は、結局あいつらに。

 ハロワーのような連中に、使い捨てられるだけなのか。


 「――ほら、逃げなさいな」

 「氷乃……!?」


 なのに。

 『俺』が彼女から分離する。


 目の前にあるのは、倒れ伏し変身解除した蒼河 氷乃の姿。

 俺は……彼女が現身にした、猫型魔法生物に意識を移していた。


 「どうして!?」

 「私は天ッ才なのよ……主導権は、もう私のモノ」


 以前、支配率がどうたらで意識の分離で俺を追い出せなかったと言っていたこの天才は。


 実はいつでも、こう出来ていたらしい。


 「悪党でしょうがあんた。それなら、悪党らしく逃げちゃいなさい」


 ほら、しっしっと力なく掌で促す氷乃。

 ……力ない、掌サイズの黒猫に意識を移した俺は。


 「ざけんな」


 彼女に背を向け、白い巨壁とクソ犬に立ち向かう。


 「はぁ……もう茶番はいいかな?」

 「俺はさ。負け続けたよ」

 「あ?」


 悪に墜ちた魔法少女。

 前世で、ブラック企業に殺された俺は二度目の生をそこで受けた。

 ただ怠惰に染まる世界を夢見て、正義の魔法少女に挑み続けた。


 「こいつらに負けるならちょっと悔しいけど、いいと思った」


 背にする彼女達。

 俺が絶望した、働く未来を夢見る魔法少女プリナーズ。

 

 「でも」


 彼女達を利用し世界全てを勤労に染め上げ、最大効率という正義を達成しようとする怪物。


 「俺はッ! お前にだけは――ッ!!」


 ハロワーにだけは、負けるわけにはいかなかった。



 ばか。

 逃げろって、言ったのに。


 「負ける訳にはいかないんだ」


 私、蒼河 氷乃が追い出して。

 逃がすために移した、あいつの意識が宿った小さな猫型魔法生物。それを表すような黒猫の姿。


 ……その前に『黒』の変身アイテムが出現する。


 「莫迦な! それは――!!」

 「セット。プリナータイムレコーダー」


 その事実を前に叫ぶハロワーを、無視するようにあいつが告げて。

 黒の機構。その上部に、黒のカードが挿入される。


 「莫迦な莫迦な莫迦な! プリナーズは労働を願う、純粋な意思によって誕生する魔法少女だ!!」


 不労を願う、悪の手先。そんなあいつが、なれるはずがない。


 「俺は、働きたくない」


 黒い光に包まれ、変身を終えたあいつの姿が私達を背に立つ。

 ――全身を悪の黒の染め上げた、魔法少女。


 「俺は、不労を願う」


 それは私達のように正義の魔法少女ではなく。

 不労の悪を願って墜ちた魔法少女。




 「――悪を『働く』魔法少女だ!!」




 頑張るみんなに安寧を。

 プリナーブラック。


 悪を働く黒の魔法少女は、こうして誕生した。

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― 新着の感想 ―
[一言] おー、やっちまいましたねぇ。 憑依TSから単独TSへ変わりましたねぇ(ワクワク) あとこのブラックは、ブラック労働以外にも、黒→夜→寝ましょう とか意味が有ってほしいなぁ。
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