伝説その2【初期ステータスを鑑定してもらったよ】①
はいはーい。
お嫁さんにしたい「勇Shaber」No.1(エリス調べ)のエリス・アッドセイアでーす。
今回は前の投稿で告知した通り、ギルドに行ってわたしが召喚したスーさんのステータスを鑑定しちゃいまーす。
はたして、どんな高レアなんでしょうか?期待しちゃいますね。
ちなみになんですけど、実はわたし自身もまだステータス鑑定を行っていないのです。わたしの能力も鑑定してもらって大発表しちゃいますよ。どんなレアスキルを持っているのでしょうか?ワクワクが止まらないです。
では行ってみよー!
とんだ人違いだ。
エリスにとっても災難だが、僕にとってもいい迷惑だ。
僕は、なんとか落ち着きを取り戻して動画撮影っぽい独り語りと動画編集らしき作業と動画投稿みたいな行動を終えたエリスから事のあらましを聞いた。
まず、この世界が、僕が生まれ暮らしていた世界とは別の「異世界」であること。そして僕がその異世界に転移してきた理由、それはこの世界の新人勇者であるエリスに召喚されたからということ。俄かには信じがたい話だけど、現に今こうして見覚えのない部屋で、勇者な衣装を身に纏った女の子を前に魔法陣な模様の絨毯の上に立っているのだ。とりあえず信じて話を進めよう。
で、僕が召喚されたのは人違いでした。彼女が欲したのは音に聞く古代の吟遊詩人「ホメロス」。僕はというと、21世紀の日本に暮らすどこにでもいる平凡な、うん、かなり見栄張った。正直に言おう。平凡以下のですね、男子高校生「褒口一人」。
すなわち「ホメ口一人」。
ごめんなさい。完全に受身サイドの出来事とはいえ申し訳なさでいっぱいです。紛らわしい名前がいけなかったのでしょうか、全財産を課金したガチャの結果が僕でごめんなさい。生まれれてすいません。異世界転移してすいません。
ただ言わせてもらえば?そんな三流コントみたいな間違いで別人を召喚できちゃうシステムもどうかと思いますけどね!
絶望の淵に沈みこんでいたエリスはというと、もともと切替が早いのか、なんか一周して躁状態になったのか、はたまた召喚に用いたソウルクリスタルの問い合わせ窓口と購入した店舗に向けてクレームの魔法を殺気迫る勢いで連射したことで憂さが晴れたのか、小一時間も経たないうちに華麗なる復活を遂げていた。
「さっそくギルドに行ってテータス鑑定をしてもらいましょう。善は急げですよ!すなわち、急がないと善じゃなくなっちゃう。つまり、勇者は善だから急がなくちゃダメってことですよね。出発進行!」
謎理論を展開している。少々おかしなテンションは彼女の素なのかな?天真爛漫でクラス一、いや学校一というレベルの美少女なんだけど、この子はひょっとすると、一緒に居ると楽しいを通り越して、うざかわいいもオーバーランして、単なるうぜぇ!に足を踏み入れているかもしれない。明るくてかわいいんだけどね(ここ重要)
エリスが暮らす小さな木造の下宿屋?を一歩外に出ると、そこに広がる景色は確かに異世界のそれだった。アスファルトに舗装された道路やコンクリートのビルなど近代を示す造形物は一つたりとも見当たらない。代わりに視界を楽しませてくれるのは、原色に彩られたレンガ造りの街並み。この辺りは市街の中心から少し離れた住宅地らしく、中央通りこそ対の轍を刻まれた石畳が敷かれているが、その両サイドに入り組む細い路地は乾いた砂地が剥き出しのままとなっている。せいぜい2階建ての家々が続くなか、噴水を中心とした円形の広場に出ると、尖塔に大きな鐘を備えた教会らしき建物が優しくも厳粛な佇まいで穏やかな昼下がりを見守っていた。
意外な取り合わせだけど、教会の向かいには、剣や弓など物騒な代物を陳列した店舗が居を構えている。それが武器屋なら、右隣にあるのが防具屋かな。その反対の左隣は瓶や麻袋が所狭しと並ぶのは道具屋だろうか?前を過ぎるとき、鼻を突く独特な薬品臭が漂ってきた。店の前では斧を担いだ闘士と杖を携えた魔導士の青年が、品定めの真っ最中。冒険者だろうか。物語から飛び出てきたような、というかむしろ僕の方が入り込んだんだけど、とにかくそんなファンタジーの地を僕は確かに踏みしめている。おもっきし学生服なんだけど浮いてないだろうか。元の世界での学級でもコミュ障が災いして若干浮き気味だった僕はそんな心配をしてしまう。ってじゃかーしい、せっかく異世界に転移したんだからそういうの忘れたいじゃない!
「そうそう今のわたしたちの様子も魔法で記録してますからね。まあこの部分はただ歩いてるだけなので、使わないとは思いますけど」
すれ違う馬車が立てる蹄鉄の規則正しいリズムに、エリスの透き通った声が重なる。
「スーさんの世界にはきっと該当するものがないから想像できないかもしれないんですけど、この世界には『勇Shabe』という動く映像を集めた機構が存在するんです。ヴァーチャルな資料室で申請すれば誰でもそこ自分の動画を置くことができるって感じで」
「バッチリあるね、〇ou〇ube。むしろそっちがパクリっぽいんだけど。なんか独りでチャンネル登録がどうのこうのって言ってたやつ、あれ多分だけど、動画作成してたんでしょ。それで『勇Shabe』ってのに投稿したんだよね」
それでなくても昼下がりの高校の教室から突如知らない空間に転移して状況を飲み込めてないのに、「ちょっと待っててくださいね」の一言で、何もない壁に向かって喋り始めたから、こっちは戸惑っちゃったよ。あんなにエキサイトしてた後に独り言だから、精神的なあれを心配したんだけど、言ってる内容とか口調がまんま〇ou〇uberだったからね。
あと、スーさんとは僕のことらしい。彼女はさっきからそう呼んでくる。あくまでも「一人」じゃなくて「ス」であると、そう言い張るつもりなのかな。
「ふぁ?そっちの世界にもあるんですか。じゃあ『まおまお動画』は?『勇Shabe』に対抗して魔王軍が設立した動画投稿サイトなんですけどぉ」
もちろんそっちも存在する。僕の予想があたっているとしてなんだけど。それにしても随分とゆるふわチャーミングな名称だな。もしかしたら、この世界の魔王は残念な方面の魔王かもしれない。八重歯のかわいいツンデレドジっ娘とか。街を包む空気も結構のんびりしたものだし。
「なるほど、異世界も侮れませんね。なんか一気に親近感が湧きましたけど、そんな世界からやってきたスーさんなら高レア確定ってことですかね!うぇーい。で話を戻すとですね、御明察の通り、わたしはその『勇Shabe』に動画投稿を始めたんですよ。これからの勇者活動をUPして人気者になっちゃおっかなーって。めでたく勇Shaberデビューしちゃいました。いぇい☆そうだ、さっきの動画、再生されたかな♪」
エリスはスカートのポケットから、手のひらに収まるくらいの板状のアイテムを取り出して操作し始めた。そのアイテムは、えー、ゆるーい世界観の異世界に迷い込んでこの表現を使うのは負けた気がするから悔しいんだけどジャストそうだから仕方ない言っちゃおう、スマホっぽい端末だ。
「おー。25回も再生されてますよ。ニコニコって感じですね。えへへ、少ないですけど観てくれた人がいるっていうのは嬉しいもんですなー。この調子で、もっと視聴者増やしちゃうぞ!おー!」
らんらんららーん♪
僕の手を取りぶんぶんと振り回しながら、満面の笑みを太陽に照らして軽快に街を往くご機嫌エリスちゃんでした。