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Congratulations!(アスター編)

アクセスありがとうございます。

 ようやく、ここまで来たぞ!


片方の手の拳を固く握りながら、感動で目に熱いものが滲むのをグッと堪えながら、大の(おとこ)が感動で胸をいっぱいにしていた。



「おめでとう!」

「ハルリンド、アスターさん、おめでとう!!」

「フォルテナ伯爵様、おめでとうございまーす。」



今日は、俺達の待ちに待った結婚式当日だ!!

※アスターは本日、気持ちの高ぶりにより、心の中で自分の事を『俺』と呼んでいる。


アスター(こと)アステリオス・シザンザス・フォルテナ伯爵は、強く己に言い聞かせた。


ハルにプロポーズし、思いを通い合わせてから、二年以上待った…長かった!


その間、あのラナンクル侯爵…姑息な狸爺(たぬきじじい)に、幾度ともなく二人の仲を邪魔されてきた。


全く、嫌がらせかという位、二人でいる時にばかり、狙って現れやがって!!

お陰で、色々したいのに…接吻すらままならなかったのだ。

まあ…色々の部分は、エロオヤジの思考だとステラに白い眼で見られ、しなくて良かったのかもしれないが…。


とにかく、今日を機にようやく、俺は正々堂々とハルにあんなコトやこんなコトをしても許される身になったのだ!!こんな素晴らしい事があるだろうか?

長い間、ほぼ毎日、献身的にラナンクル領に通い、ようやく、ハルの為、あのクソジジイにこき使われ、尽くした甲斐があったというものだ。


俺は誇らしげに式の後の花道をハルをエスコートしながら、たくさんの者達から祝福を受けながら、歩いていた。

途中、ハルを巡って仲違(なかたが)いのような形で会わなくなっていたシルヴァスの姿もあり、俺の心は強く満たされた。

シルヴァスの表情からは、既に失恋から立ち直ったということが見て取れ、ハルの可愛がっている孤児の少女を連れて、憎まれ口を叩きながらも明るく祝福の言葉をハルに述べてくれた。

友の心からの祝福に、ずっと気になっていたわだかまりも消えて、俺の幸福感も更に高まっていく。


これで心置きなく、俺はハルとの幸せ新婚生活を送ることが出来るという物だ。



なんと人(神)から非難されようと、今日のアスター頭の中は初夜の事でいっぱいだった。


それを想うと、自然に笑顔が浮かんでくる。

少々の友や知人の無礼な物言いや軽口も全く気にならない…むしろ、好きなだけ言うがいい。

誰に会っても何を言われても、顔は勝手にニヤついて来る…。



 そしてついに全ての招待客に見送られながら、俺は教会の外で待つビースタにハルを乗せて、我がフォルテナ伯爵邸へと飛び立った!


新妻を連れての帰還に屋敷の者一同が、心より喜んで出迎える。


当主である自分が結婚したという事よりもハルが屋敷に戻った事に皆、涙ぐんで喜んでいる。


正直、俺としては戻って早々、妻を取り囲む使用人達に対して、複雑な気持ちを持たないでもないが…まあ、それはその、めでたい今日という日だ…少しは俺も寛大な気持ちでいようと自分に言い聞かす。



そんな折、使用人の一人がハルに代表で、


「我々、一同、精一杯、奥様にお仕えいたしたいと思います!」


と、深く頭を下げてきた。



俺は、少しムッとして、


「おい、私には精一杯じゃないのか…?」


と、奴らに言ってやった。


当然だろう?

この家の当主は俺なんだ…妻に精一杯、仕えてくれるのは有り難いが、俺にも何か言う事は無いのか⁉


すると、使用人どもは『アスター様には、今まで通りお仕え致します。』と抜かしくれる。


おいおい、そこは『今まで通り』じゃダメだろう⁈

普通は『これまで以上にお仕えします!』という所ではないのか?

と、俺は思い、不服そうな顔をした。



すると、俺の可愛い新妻が信じられないくらい可愛い事を言い出した!!


「アスター様には、これからは、私が精一杯、お仕えしますから!いっぱいご奉仕しますので、安心して下さい。」


俺は、ハルの可愛すぎるその言葉の破壊力にクラリとした。


勿論、純粋なハルがその言葉に官能的な意味合いを込めたわけではないのはわかっている。

多分、彼女は俺に純粋に尽くしてくれるということを言ったのだ…わかっている、わかってはいるが…。


アスターは悶絶するくらいに純粋で可愛いハルリンドが、自分に(性的に)奉仕してくれている姿を一瞬、想像してしまった…。


『もうダメだ!!』


我慢の限界だった…。



俺は、青ざめて引きつる使用人や奴らの冷たい視線を無視し、ハルを抱いて、寝室に直行した!


それから三日三晩…彼女を抱き潰し、予定していた新婚旅行を延期するハメになった事で、周囲から非難を受ける事になる。


まあ、仕方ない…俺は非難を受けるだけの事をした。

しっかり、まだ何も知らない新妻に、(無理矢理お願いして)散々、奉仕してもらったのだから。


だが、その後の周りの俺への扱いや見方には不満を持っている。


確かに俺は、ハルに無理をさせた…無理をさせたが、同時に俺はハルにも奉仕させられたのだ。


ベッドの上では、彼女は従順だったが、行為後はその事を逆手に、俺はしっかりハルの言いなりになったのだ…。


「酷いですわ、アスター様!私はもうやめて下さいって言ったのに!!」


そう言われてしまえば、面目ないと(こうべ)を垂れるしかない…。


「もう許せません!」


更にそう言われれば、


「そんなこと言わないでくれ!何でも言う事を聞くから!!」


と、言わざる得ない。


ベッドの上に正座させられ、しばらくハルに説教をされ、大型犬のようにある意味躾けられていくアスター。


これを機に、世間ではアスターにハルが従っていると思われているようだが、実際は夫の方が妻に日々、調教されているのである。




 結局、俺は新婚早々、妻の尻に敷かれてしまった…。



今では、我が家の采配を振るのは、最終的には全てハルである。



ラナンクル侯爵領の事もあり、すっかり婿と化しているアスターは今日も解せないと思いきや心は不思議と満足していた。


ハルと出会う前に独り身でいた時は感じなかったが、今アスターはとても幸せであり、ハルが留守をしているだけで、とても寂しい気持ちになるのだ。


妻がいなくなるなんて、アスターには考えられなかった。


もう元の生活には戻れないだろう。


ハルという甘い果実を手にしてしまった今、結婚なんて興味ないと言っていた過去の自分が信じられないとさえ思う。



今日も人間らしい部分を持った冥界の凛とした美しい妻の紫色の濃い髪を撫でながら、アスターは言った。



「愛しているよ…ハル…君こそが私の天使だ。」



ベッドの中、まだ眠たい妻が自分の胸に顔を擦りつけながら目を開けられず、覚醒しきれないように返事をする。



「ん…何ですか?アスター様、もう起きる時間ですか?」



寝ぼける妻の額にキスを落として、アスターは笑う。



「いや、違うよ…まだ寝てていい…愛していると言ったんだ。」



そのまま、眠くて目を開ける事が出来ずにハルは『フフフ』と口元を(ほころ)ばせ、笑んだような表情をして再び眠る。


寝言のように『私も…愛してます』と言いながら。


可愛くて、仕方がない妻のそんな寝言を聞くと、正直、下半身に熱を持ってしまうが…そこは何とかこらえる。


ここでまた、強引に彼女を抱いたりしてはいけない。

ハルは疲れているのだ…。


昨日、少しだけ、無理をさせてしまった自覚がある。


しばらく、控えていたのだが…そのせいで少ししつこくしてしまったのだ。

今後また、気をつけねばならない。


なぜなら、ハルのお腹には今、アスターの子供がいるのだから…。




 あの結婚式から半年。



正直、もう少し二人でのんびり過ごしたいと思っていたが…ラナンクル侯爵の怨念か呪いなのか…ハルはすぐにアスターの子供を妊娠した。


「ご懐妊です!」


という冥界医の一言から…ずっと我慢に我慢を重ねて、ようやく昨日、『無理をさせないように…』との注意を受けながら、久しぶりに妻と体を重ねた。


結果、少し無理をさせてしまった…。


『使用人どもから、色々言われるのが予想されるな』と考え、朝一番で、仕事に出かけ、逃げることを画策するアスター。


しかし、妻の眠っている顔を見ていると、やはり今日は家にいて、彼女のしたいように一緒に過ごしたいとも思ってしまうのだから、困ったのものである。



「久しぶりに黄泉地区で冥界の温泉郷と呼ばれている里にでもハルを連れて行ってやろうかな?」



アスターは、ハルの悲しい気な顔に弱い…出会った頃の暗い顔を知っているだけに、自分の妻になったからには、もう二度とあんな表情をさせまいと誓っている。


だからいつも彼女の笑顔を見たい…いつもどうしたら彼女が笑顔になるかという事ばかりを考えている。

そんなことをしなくても、ハルはいつも自分に微笑みかけてくれるのだが…。

そうではなく、自分からも彼女の笑顔を作りたいのだ。



「帰りに赤ん坊の物を買う店でも何件か寄ろうか?準備はまだ早いが、実際、生まれたらどれを買おうかなど相談するのも楽しいだろう。きっとハルは喜ぶはずだ。」


まだ夜明け前だというのに、アスターは色々と思いを巡らせ始める。


「それに、ハルの体形もまだ変わってくるだろうから…マタニティ用の服を買い足しに行こう。他にも彼女が欲しいものがあれば…。」



今まで、女性の物など興味も無かったアスターだが、ハルと結ばれてからは屋敷の者も驚くほど、世話焼き夫と転じた伯爵に少々、周りの者達も鬱陶しさを感じながら、フォルテナ伯爵邸は幸せな時間が流れるのであった…。




 そしてハルが目覚め、今日の計画を朝食の席で意気揚々と話すアスターが突然のラナンクル侯爵の早朝訪問で、可哀想なほどしょげ返り、肩を落とす姿を使用人達が元気づけることになるとは、その時のアスターには思いも寄らなった。


あからさまにガッカリしているアスターの顔を覗きながら、ラナンクル侯爵はニヤリとした顔を向ける。



「ハル…子供が生まれたら、しばらく里帰りしたらいいよ。もしくは生まれる前にうちに帰っておいで?里帰り出産の方がのんびりできるのではないかな?屋敷にアスター君がいるんじゃ、体にも良くなさそうだし…。」



不意に侯爵デュラントがそんなことを言う物だから、アスターは噛みつくように言い返した。



「何を言い出すんですか⁉体にも良くなさそうって…失礼な!!私はハルのことを第一に考えておりますから。心配無用です!!」



そう強く主張するアスターをニコニコと見守るハルとは正反対に、屋敷の使用人一同の視線がアスターに向けて突き刺さった。


ステラからの『今朝はどうされたんですか⁉』という無言の問いが聞こえてくるようだ。

ホルドからは『お医者様は無理をさせないように…とおっしゃったのに』と、抗議めいた顔を向けられる。



「何だ⁉お前達は?何なんだ、その顔は⁈」



ラナンクル侯爵は、終始笑顔で産み月には、自分の元にハルを返すように強く要求。

結果、アスターがそれを認めざるを得ない状況にされ、ハルの里帰り出産は決定してしまう。



「畜生!!狸爺め!この期に及んで、まだハルと俺の間を邪魔し続ける気か⁈」



額に青筋を立てたアスターは拳を強く握りしめた。



「絶対毎日、ラナンクル侯爵邸に訪問してやるんだからな!!クソッ!」




 まだまだ、舅と婿の攻防戦は続きそうである…。


いつになるかわかりませんが、次はシルヴァスのお話を書きたいです。

こちらに番外編でいれるか、新しく連載するか、長さにより変わりますが、その時はまたアクセス頂ければ、有難いです。

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