7.R組(クラス)に仲間入り!
あっという間に、普通クラスに移ることになった私。
とても緊張したが何とか初日の自己紹介を終えると、同級生からも気さくに話しかけてもらえるようになった。
担任のアレステル・オグマ先生も真面目で熱いタイプだが、面倒見の良い先生だと聞く。青みを帯びたような灰色の髪をしていて、騎士服に身を包んでいる文武両道型のカッコイイ先生だ。
私を受け入れてくれたRクラスは、かなり優秀なクラスの方で、先生と同じく文武両道型の現人神が在籍している。
隣クラスには妖精系統の物静かな組があり、他には好戦的な戦闘系専門のクラス、人間の血の強い現人神の多いクラスなど様々だ。
色々心配もしていたのだが、R組の現人神たちは皆、優しくて、公平な仲間ばかりだったので、ハルは、心からほっとしていた。
少人数制の15名が定員と聞いていたが、実際は女子の少ない神様社会で能力分けをしたクラスを作ると、普通クラスでもそんな人数にはならなかった。
優秀なクラス程、集まりが悪いと言われているので、大所帯だといわれるオグマ先生のクラスでも、実際はハルリンドが加わって9名しかいない。
全員をはっきり覚えるのには、少し時間を要するが、現人神の教室は何というか、補修クラスの時もそうだったが、本当に個性的だった。
…ので、すぐに全員覚えられるだろう。
それぞれ違う各界から所属しているため、共通点は人間界で実在できるという点のみ。
その為か、人間育ちのハルリンドは、彼らの自分とは違う見た目にまず驚く。
(まあ、基本皆、人間界育ちがほとんどなんだけど…。)
地上では、皆、人間に扮しているが、ここでは大体の現人神が霊体・本性でいるので、普段の姿も背中に白い羽が生えていたり、中つ国の着物の生地を使った天女のような恰好をしていたり、袴に鬼のお面をつけてたりする学級委員長もいる。
対する冥界の屋敷で、普通にステラさんの用意したドレスを着ているだけの私は、耳がとがっているわけでもないし比較的、至って普通の人間な外見だ。
まあ、現世にいる頃に比べると黒髪の色が薄っすら紫がかっているのと、青紫色の瞳になってしまったので、純黒の髪、黒目が基本の大和皇国では、やはりありえないカラーの人間になってしまっては、いるのだが。
(でもこれって、髪を染めてカラーコンタクト入れてるだけだと思われるレベルだよね。)
クラスメートで特に目立つのは、先生がうちのクラスのツートップだと紹介したマリエルさんと月城命さんだ。
失礼ながら、御二人に見た目の感想を告げて、驚いた事を正直に話すと…、
『ハルリンドは、ずっと人間として育っていたから、
魂にもそういう癖がついているんだろうね。
本来の力を発揮すると、元来の格好になるんじゃないかな?
例えば、服装も我々は自由に変えられるし、
年齢も変えようと思えば変幻自在だが…
普段は魂のエネルギーに合わせた姿をしているんだ。
それが一番楽で、心地良いからね。』
と月城命が教えてくれた。
(月城さんは、明るいド金髪に蛇の様な金色交じりの黄緑の瞳をしていて上下、白一色の袴姿をしている=何だかすごく神様っぽい。。。)
月城命の言葉を受けて、今度はそれを聞いていたマリエルさんが口を出す。
「その心地よい状態の服装が、一般的に人間の想像するその神様独自の衣装や見た目なんだけど、冥界人はまた特殊だからな。わざわざ人間臭くしてる所があるしね。まあ分かり辛いかな?」
マリエルは、本来天国勤務で珍しい和洋折衷な天使だが、一時出張で人間として生まれ、すぐに天界に帰る予定が色々あって現人神として、そのまま長期の人間界勤務になってしまったらしい。
仕方なく、この学校に入る事になったのだという。
天使は中性なので、元来半分は男性である彼女は少年っぽい口調をしている。
しかし、人間としては女性で生まれいるので、それに合わせてか、今は完全女性型天使の姿をしている。
着ている服の方も和洋折衷型だけあって、一般天使の白い服ではなく、詰襟で赤に金糸の刺繍が施されている大和皇国で、昔、発展した和風の生地であり、黒ブーツを履いていて戦闘に向いた格好だった。
だが、文武両道というだけあって、医療や癒しも得意分野なのだそうだ。
ちなみに、マリエルの髪は燃えるような蒼で、瞳は金色、普段しまっているという羽を見せてもらったら、これもまた、南国の鳥のように、髪に合わせて真っ青である。
こんな派手な天使は見たことがないと思っていると、マリエルは大和皇国含む倭国圏内の一体の国々では司王という別名を持っていて、滅多に地上には現れない神としても認知されているレア天使なのだそうだ。
「そのうちここで実技でも熟してりゃ君のトレードマークの姿が見れるさ。窮地に陥ったり、慌てたりした時に本気の神力を出せば、一番自分に相応しい姿が現れっからな!」
マリエルさんは続けて、そう口を開くと…
「卒業後、仕事をしたいのなら向こうにいるザキエルに相談するといいよ。あいつはもう仕事しながらここに通っているから。」
と親切に教えてくれ、少し離れた所にいる同級生の方を見た。
「天使的には奴の方がずっと古くて先輩なんだけど、人社会の法律整理の助言に人間界に、しばらく所属するらしいよ?昔も人間界に来て仕事してたらしいけど…前は神様社会もこんなに人間臭くなくて学校も無かったんで、今回、一応通う事になったんだってさ。」
と、更にマリエルが『大変だな!』と続けて小声で話し、内緒話のように教えてくれる。
チラリとザキエルさんの方を見ると、その人は白銀に薄い紫色の入った髪をしていてクールな顔立ちの中性的な美人だ。
するといつの間にか、ザキエルさんがこちらに近づいてきていて、
「聞こえてるよ。コソコソするのは良くないぞ、マリエル!ハルリンド、君も遠慮なく話しかけてくれて構わないぞ。」
と、私の顔を覗き込んだ。
ち、近い。そして高潔感漂うオーラは半端ない…。
目を離せず、ザキエルさんの瞳を覗き込む形になってしまったが、その瞳は濃いインディゴブルーで虹彩に金と銀が相まって差し込んでいる宝石のような不思議な眼だった。
「私もマリエル同様、本来は性別が無いのだが、男子部に行くと狼の群れに放り込む形になってしまうと言われ、女子部に所属させられた。面倒くさいので人間界においても女性として具現化している。宜しく、ひよっこのカワイ子ちゃん。」
と、挨拶してくれた。
『女性として具現化』と言っていたが、男女共通に効くフェロモンでも出ているのだろうか、ザキエルさんの色気にクラクラしてしまう。
その様子を月城さんが見ていて、『大丈夫?』とクスクスと笑っていた。
この人も中性的だよね…。
他にも弁天さんやダブダブの袖の黄色い着物を着た小さな女の子がいて、何と袖の裾を覗いたら…両手が無かった。
瞬時にハルは、それについては、何も聞かない方がいいと判断する…。
とりあえず、どの現人神さんも絵本や物語の世界に出てきそうな姿ばかりで、自分が物語の世界に迷い込んだようだ。
この中の一人が自分なんだと思うと、信じられない気持ちになる…。
☆ ☆ ☆
ハルリンドは、そう思った事をフォルテナ伯爵邸で、嬉々としてシルヴァスに話していた。
「とりあえずは、こんな感じの初日でしたよ…自分も早くクラスの皆みたいに、好きな時に、オリジナルの神様っぽい衣装で具現化できるようになりたいと思っています。」
そして物語の登場人物さながら、自由自在に変身したりしてみたい!
「へえ、なるほどねぇ。僕はハルちゃんの人間っぽい所も好きだけどなぁ~。」
「ありがとうございます。でも、目標にします!あと、わざわざチャン付けしないで結構ですってば。ただのハルと呼んで下さい。」
「あはは~、わかったぁ。まあ、安心したな。しばらく会わない間に、君、明るくなったよ。学校になじめているようで良かったな。クラスの子達も仲良くしてくれそうだね。」
「はい、先週R組に入ったばかりなのに、もうずっとここにいたように感じるくらい、皆さんは自然に仲間に入れてくれて、嬉しいです。」
「良い報告を聞けて、立ち寄った甲斐があったよ。」
シルヴァスが笑んだ。
前回会ったのは、約一ヵ月以上前だが、思っていたより伯爵邸でも良い扱いを受けていそうだし、ずっと気になっていたので、本日ハルから、明るく近況の報告を受けて、シルヴァスは一安心した。
「でね、今日、僕が来たのはさ…ハル。実はフォルテナ伯爵のご招待なんだよね。まあ、僕も提案してたんだけど。」
「アスター様の?何かあるのですか?」
「フフ。」
ちょうどその時、正装姿のアスターがドアを開けてリビングルームに勢いよく入ってきた。
「ハル、シルヴァスに近況報告は終わったか?」
「は、はい。」
「では、二人ともホールの方へ移動してくれ。」
「了解~~。」
シルヴァスが手を挙げる。
よくわからないが、ホールの方へ三人は移動した。
扉の閉まったホールの出入り口に着くと、アスターが伯爵然とした風にハルの手を取った。
競うように、シルヴァスが反対の手を握った。
な、何?!
控えていたホルドさんが扉を開くので、そのままアスター様とシルヴァスさんに促されるまま、ホールへと足を進める。
「おめでとうございます!」
「おめでとう~!!」
大広間に入ると、ステラ含む屋敷の使用人達と、さっきシルヴァスに散々語っていたクラスの同級生達が顔をそろえているではないか。
な、何事?!
振り返ると、シルヴァスが優しく
「誕生日、おめでとう。」
と、囁いた。
そして、いつの間にか手にしていた包みを私の手に渡してくる。
アスター様は、眉をわざとらしくあげて、『学校の入学書類を記入していて、ふと誕生日が近いことに気付いてね…』と言った。
「普通クラスに入ったばかりだし、クラスメートと親交を深めるには丁度いいと思ってな。現人神養成学校の学友達も誕生会に招待したぞ。」
ひえっ!!貴族ってスゴイ。こんなに大勢、招待って…。
両親が生きていた時だって、こんな豪勢な誕生パーティをすることなんてない。
いや、一般的にないだろう。
「深く考えるな。兄代わりとしては当然だろう?」
というアスター様に、『いえいえ、十二分に過ぎますから!』一人ツッコミを心の中で入れた。
ホール中央のケーキ横には、赤毛の料理長がいつでも入刀準備OKといった感じで控えている。
すごい笑顔だ。…これは、いつもの3倍増しで喜ばねばならないと計算する。
だってそのケーキは、ウエディングケーキじゃないか?という、大きさだ。
ローソクが15本、刺さっているのが違いだろう。
『さあ』と近づいてきたステラに導かれてケーキの方に連れていかれるとローソクに火が灯された。
ふうっと思いっきり、何度か吹いて火を消すと、一同が拍手した。
飲み物が配られて、アスター様の乾杯の音頭と共に料理長が入刀。
ケーキを切り分けていく。
テーブルにはたくさんのごちそうが並ぶ中、皆が次々に贈り物を手渡してくれる。
こんなに幸せでいいのだろうか。
両親と共に暮らしていた時だって、ささやかだけど幸せだった。
生きていてさえくれれば、暮らし向きなんて関係なく幸せだったに違いない。
でも、母の親に反対されて一緒になったという二人の子供である自分は、少なくとも母の親には、祝福されていない子供なのだろうと感じていた。
そして、どこへ行っても現人神であることを秘密に暮らし、神様世界での戸籍も無かったことや、人間界においても、実の子供なのに、養女として父に認可されていたことなど、どこか自分は世界に愛されていない存在ではないかという気持ちが常にあったのだ。
それが、こんなにたくさんの人達(人外の人達)に祝福されている。
それも正真正銘、神様や天使様だったりする。
人界では、細かいことを突っ込まれないように、暗黙の了解で家族は隠れるように生活しているような所があったから、こんなに堂々と賑やかなのは初めてだ。
過去の回想と共に、笑ってありがとうを言っていた自分の眼からは、いつの間にか涙が流れていた。
それを誰一人、指摘する者はいなくて、ただ皆、優しく微笑んでハルリンドを見守っている。
そこにいる者は全て、心から彼女の幸せを願っていた。
その様子を見て、アスターはパーティを開いたことに満足していた。
初対面の時、ハルという小娘は実に暗くて、扱いが面倒だと思っていた部分がある。
冥界での名をハルリンドと命名してから、まだ少ししか経たないが、環境の変化からか暗い顔は、ほぼ影を潜め、少女は時折、笑顔を見せたり、生き生きと学校でのことを語ったりしていた。
引き取ってわかってきた性格は、大変真面目で使用人達にも受けが良かった。
見た限り、日は浅いがクラスの同級生にも良く思われてるようだ。
普段から特に甘えることもないが、今、嬉しさのあまり涙を流すハルリンドが可愛いと感じている。
味気ない日々を振り返り、少女を引き取るというのも、良いものだと思っていた。
シルヴァスには、ムカついていたが、今となっては、やはりこの友人は不思議と私にとって、悪くはないハプニングしか持ってこないようだ。
アスターは『トラブル発生機』と過去、自分の中で命名していたシルヴァスを少し見直すことにした。
来年も、ハルリンドの誕生会を開いてやろうとアスターは思っていた。
一方、シルヴァスはハルに良くしてくれるのは有り難いが、あまりにも良くしすぎてハルの心に入り込まれるのは、面白くないと感じていた。
ハルの手を取ってホールに入る時の自然なまでのエスコート…。
あれも気に入らない。
勝手に冥界仕様の名前を付けちゃったことも気に入らない!
僕に相談もなく!
僕だって権利さえあれば、保護者になってあげたのに。
養い親なんて嫌がってた癖に。
この盛大すぎる誕生会も、僕ができない…伯爵家だからできることをするのも、すごく気に入らない!
僕だけがこっそり、祝ってあげれば、ハルはもっと自分に気持ちを寄せたはずなのに…。
周りを見渡せば、ハルの大事な人(人神)だらけになっている。
どんどん、ハルの大切なものが増えている気がする。
『これは、あんまり目を離してはいけないな…』と自分に言い聞かせる。
「これから毎月、顔を見にくるからね。」
とシルヴァスは、帰り際にアスターとハルリンドに向かって、去っていった。
アスターは、『きっとハルリンドを心配しているのだろう。あいつは児童保護活動員の鏡だな!』と、感心していた。
今までなんて、冥界に用があろうとフォルテナ伯爵家になど、忘れた頃に訪ねてくるくらいだったのだから。
ハルの方は常日頃から、本当にシルヴァスさんには感謝しかないと思っていたので、必ず毎月、良い報告ができるように、色々なことに励もうと意志を固くしていた。
クラスメート達はひとしきり騒いで、楽しく過ごしてから、
「また、学校でね!」
と、帰っていった。
後から知ったのだが、冥界に入る事の出来ない同級生の分は、アスター様が冥界用の一時パスポートを買って下さったらしい。
後日、アスターにその事についても、感謝を述べると、彼は目を細めて、
「可愛い妹分のためだからな。」
と、頭をなでてくれた。
その手を15歳になったばかりのハルリンドは、心地いいと感じていた。
宣言通り、シルヴァスは毎月、それも月に何度も姿を見せることも多々あった。
時にアスターが『また来たのか』とうんざりするほどである。
ハルもシルヴァスやアスターに少しでも良く思ってもらいたくて、一生懸命な日々を過ごしていた。
時間は飛ぶように過ぎ、屋敷の者達はすっかりハルリンドに情が移っていた。
卒業するまで、同じクラスで過ごす現人神の学校では、ハルリンドはすっかり仲間にも溶け込んでいた。
姿の方は相変わらず、神様仕様な見た目に切り替えることが、できないでいたけれど…。
気が付くと、二回目の誕生会を終え、ハルリンドは16歳になっていた。
明日は続きを書けないかもしれませんが、火曜日までには進みたいです。