51.告白は、どさくさに紛れて…。
R15、恐らく限界程度の少し大人なシーンが含まれるので、見たくない方は気を付けるようお願いいたします。
「ご、ごめんなさい、アスター様。えっと、あの、飲み物を持ってきてもらうのは…悪いと思って…その、大丈夫ですから。」
今度は心にも無い事を言って、ハルは眼を泳がせた。
だが、彼女の頬の涙の痕も相まって、それがただの強がりに違いないと言う事は、元・朴念仁のアスターにも理解できた。
「君のその涙の原因はタナティスか?」
アスターは、やや強めな口調でハルに問いただす。
深夜だったからか、疲れていたからか、ずっと恐怖に耐えていた為、正気ではなかったのか…ハルはいつもなら隠したであろう心の声を、うっかりと表に出してしまった。
「その、ちょっとだけ…怖くなってしまって。」
『正直になるのに』というより『弱い自分を見せるのに』慣れていない彼女は、相変わらず眼を泳がせた。
そんな彼女の言葉を聞いた後、アスターはドアの方に向かって歩き出す。
『やはり出て行くのか』と、彼女は思ったが、アスターは開けっ放しになっていたドアを、そっと閉めて戻ってきた。
もしかして、しばらく話でもして、傍にいてくれるのかもしれないと、上半身を起き上がらせて、ハルが少しだけ彼に期待を込めた眼を向けると、アスターは言った。
「ハル…いや、ハルリンド。そんな眼で男を見てはいけない!」
至近距離に来たアスターは、ベッドに腰かける彼女の顎を片手でつかんで、クイッと顔を上に向かせた。
二人の瞳が見つめ合うような角度で調整され、ハルは思わず固唾を呑んだ。
「君を泣かせるなんて、タナティスの奴…殺してやりたいな。怖くなったと言ったが、眠れない原因は奴なわけだ…?ハルの心に恐怖の対象だとしても、奴がいるのは我慢できない!」
アスターは、ドアの外に聞こえないくらいの音量で声を荒げた。
伯爵様の軽い怒気に、少しだけ体を震わせたハルは、彼につかまれた顎を引こうとしたが、途端にハルはアスターにベッドへと押し倒された。
ドスンと仰向けになったハルには、何が何だかわからず、一瞬、放心した。
そんなハルにアスターが甘く笑って告げる。
「ハル、眠れないなら眠れるようにしてやろう。あいつの事が頭にあるなら、そんなこと考えられないようにしてやる。その後はきっと…よく眠れるよ?」
そう言うとアスターはいきなり、ハルの唇にキスをしたのだった!
それは生まれて初めての経験だったと思う。
子供の頃、父親にチュッチュされたことは、数えきれないほどあったが…アスターのそれは、執拗でハルの意識を奪うものだった。
角度を変えながら舌を絡ませ、何度も唾液を交換するように吸い付いて来る彼の唇に最初は顔を背けようとしたが、アスターの力強い腕が彼女の頭を動かないように固定し、逃げるように動かした舌も彼の舌に追いかけられ、やがて囚われてなすがままに口内を撫でまわされる。
彼女の体は徐々に力を失い、やがてくたっとなって、アスターに身を任せるようになった。
それを確認したアスターが口角を上げる。
その姿が…黒くて甘い笑みが、放心して心を飛ばしたハルの瞳に映っていた…。
アスターは彼女の耳元に口を寄せて囁いた。
「そう、そうして、私だけを君の瞳に映していればいい…。」
そのままアスターはその耳元を舐めるように舌を這わせ、彼女の耳たぶに歯を立てた。
「キャッ!」
驚いて小さく叫ぶハルの声を聞き、喉の奥で笑いながら、わざとらしく耳元で『くちゃくちゃ』とイヤらしい音を立てて、彼女に聞こえるように耳を舌で弄びぶアスター。
堪らず、ハルはようやく我に返ったように、彼に抗議をした。
「や、やめて下さい!アスター様、どうしてこんな…。」
「眠れないだろうから、君の気をそらしてやっているんだ。さあ、何も考えずに、ただ感じていなさい。」
「い、いえ、ダメです!こ、こんな事はイケナイ事でしょう?私とアスター様はその…そう言う事をする間柄では…。」
「なぜだ?別に私は構わないが。君は私が嫌いか?」
急に伯爵様が捨てられた子犬のような眼をして問いかけてくる。
正確には、怒られた大型犬のようだが…。
「そ、そういう訳ではございません…ちゃんと、アスター様には感謝しているんです。でも、あなたは私の…後見人で…その。」
言いかけてハルは口ごもる。
ハルのベッドの上にいるフォルテナ伯爵が、射抜くようにジッと自分を見ている…。
「後見人だが、すぐに君は大人になり、私の後見義務も終わる。感謝はいらない…当然のことをしたまでだ。過去の私は君を私の妹のようなものだと言ったが、実際は妹ではない。当時は君に緊張して過ごしてほしくなかったから、そう言った。私もそのつもりで君に接した。」
そこで、『だが…。』と続けたアスターの言葉が一瞬、途絶えて、ハルは息を呑み、言いかけた彼の言葉の先を待つ。
「それはうちで後見する間だ。私は君が大事だし傷つける者は許せない…君がうちから出て行くことは耐え難い。現人神として地上に戻ることは、君にとってそんなに重要な事か?冥界にいれば、私は君の家族でいられる。」
「で、でも、アスター様とは、18歳を過ぎたら…。」
「その後も会えるようにする方法もある。君が私の気持ちにさえ応えてくれさえすれば!正直に言おう…私は君が好きだ。子供だと思っていたが、今はちゃんと一人前のレディになった。」
兄であるならば、あり得ないアスターの緑色の熱っぽい視線が、ハルの瞳を射抜いたように釘付けにする。
「もし、昔のことを許してもらえるなら、地上には帰らないで欲しい。君の母上だって現人神の資格を所持して欲しいと思っただけで、必ず現人神になって欲しいとは言っていないのだろう?」
『私は君が好きだ』アスターの言ったそのフレーズが、ハルの頭の中でリフレインして、グルグル回る!
ウソ!アスター様が私を好きだなんて⁉何かの間違いだわ。
そう心で叫ぶハルは慌てて、アスターに言った。
「し、しかし、私はアスター様の好みのタイプの女性とは違います。思いとどまって下さい。きっとあなたは勘違いしているのです!家族に向けるような愛情と好きな女性に対する愛情を。」
「勘違いなどではないが…。自分の好みのタイプと恋する相手が、必ずしも一緒とは限らないものだ。私は君を完全に引き取らなかったことについて後悔している。」
まだ、冷めやらぬ熱を孕んだ切なく甘い声で語るアステリオスが、ハルの秘密の場所を布団越しに探り当てて、その武骨な手でとらえたので、言い返そうとしたハルは、まともに会話が出来ず、寝返りを打って彼の手から逃れようとする。
「いや!そんな所、触らないで下さい!!」
「なぜだ…?こうすると君は恐怖など忘れて良く眠れる。」
そう言ったアスターは、彼女のそこを乱暴に弄り回している。
刺激を受けて、すぐに彼女は謎の感覚に、我を忘れた声を上げた。
「アアアアァァァッ!」
体を逸らして、痙攣する彼女を見ても、アスターはそれを止めず徹底的に攻め続けた。
「大丈夫だよ、ハル。私は、全部したりしない。正式にしてもいい日が来なければね。」
アスターは、普段、強面とは思えない甘い笑顔を彼女に向ける。
その夜、ハルの意識は、いつの間にか途絶えていた…。
伯爵がいつ、この部屋を後にしたのかは知れないが、ハルが目を覚ますと、既に朝で、部屋には明るい日差しがシンクのカーテンの隙間から差し込んでいた。
鳥の声が聞こえたような気がして、ハルは少しづつ覚醒すると…昨日の夜の事を思い出し、急に飛び起きるのだった。
「ア、アスター様⁉」
そう言って反射的に周りを見回して、その時、アスターの姿が既に無いことに気付いたのだった。
いつの間にか恐怖など忘れて、眠っていた自分に赤面を繰り返す。
「アスター様…夢、だったのかしら?全然、思い出せない。」
今何時頃だろう?とベッドから降りてカーテンを開けようとすると、ハルは何となく嫌な感覚に襲われる。気のせいか下着が濡れているような気がする…。
冷や汗を浮かべるハルが、ベッドサイドで立ち尽くしていると、ドアからノック音が聞こえた。
「トントン。」
ハルの体がビクリと震える。
デジャヴを感じて、引きつる彼女に声を掛けたのは…。
「ハル様~?ハルリンド様?お目覚めになられましたかぁ。ステラです!入りますよ。」
ステラか…。
その声を聞いて、ホウッと一瞬、息を吐く。
そして、弱々しく返事をする…。
「ステラ…どうぞ、入って。」
ハルの許しを得て、ガチャリと扉が開き、ステラが笑顔で入ってきた。
「おはようございます!朝のお着替えを致しましょう!昨日の今日ですので、眠れないのではないかと心配していたのですが、ちゃんと眠れたようでようございました。けれど、お疲れになられたのですね…もうすぐお昼ですよ。」
ステラの話を聞いて、ハルは目を丸くする。
自分はそんなに眠っていたのかと、眠れなかった昨日の夜がウソのようだ。
「ええ⁈もうそんな時間なの?ラナンクル侯爵がお泊りになられているでしょう?嫌だわ…私、いつもそんなに朝寝坊してるのかと思われてしまうわ…。」
狼狽えるハルを見ながら、笑顔でステラは答えた。
「大丈夫ですよ、ハルリンド様。侯爵はあなたが、昨日の事件で疲れていらっしゃるのを御存じです。むしろ、お体を案じておりましたよ?アスター様からもゆっくり寝かせるようにと仰せつかっています。」
「ア、アスター様が?」
アスターの名前を聞いて、ハルは動揺を隠せずに、ビクリとした。
その様子を見て見ぬふりしながら、ステラは『これは昨日、主人がハルリンド様に何かしたな?』と、考えていた。
ステラの眉間は無意識にややシワが寄る。
「とりあえず、お着替えを致しましょうね。」
彼女はすぐに、ハルの寝間着を脱がせて、着替えをさせはじめた。
ハルは濡れた下着をステラに悟られないかと気が気ではなかった…。
服を着替えて、身だしなみを整え、全ての準備が整うと、
「少しお昼には早いですが、ランチのご用意がされてありますよ。侯爵様もアスター様も、お嬢様に合わせられるとのことで承っています。どうされますか?」
「ええと、それは…。ねえ、ステラ、部屋で軽い物を一人で食べるのは失礼かしら?私、なんか、あんまり気分が優れなくて…その。」
何とも、アスターと顔を合わせ辛かった…。
夢だと思いたいが、もし夢で無かったら…昨日のあの行為は???
自分の姿を連想するだけで、恥ずかしさでいたたまれなくなる!
そう思って、思い切ってステラに話を切り出したのだが、ステラはハルの希望をバッサリと一刀両断した。
「私はハルリンド様がそうされたいと言うのなら構いませんが…お勧めは致しかねますよ?もし、お嬢様が気分が優れないとランチの席に現れなければ、心配された侯爵様と伯爵様がこの部屋に押し寄せるような気がします…。」
ステラの意見に、ハルは『なるほど、それは嫌だな…。』と心底、思う。
ステラは更に続けた。
「ですから、ランチには行かれて、適当にお部屋に引き上げる方が、殿方達との接触時間が少なくて済むと思います。部屋に来られてしまえば、出て行って欲しいとは言い辛いでございましょう?」
そう言ってから、ステラは自分の意見を引いて、ハルに謝った。
「いえ、何となく…ハルリンド様が誰にも会いたくないように見受けたもので。余計なお世話を言っていたら、申し訳ございません」
「いいえ、言ってくれてありがとう!多分ステラの言う通りだわ。」
ハルはステラに礼を言うと、自室から出て、来客用のダイニングへ向かい始めた。




