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28.三つ巴?

 「人間界で自立を始めたら、僕の親戚の家に身を寄せるといいよ!」



満面の笑みでシルヴァスが声をかけた。



「あ、ありがとうございます。シルヴァスさん!」



ハルは恐縮しながら、シルヴァスの好意に応じる。



そしてすぐに、()()()()を気にしながら、ハルは付け加えた。



「…ええと、まだ18歳までには、少し時間がありますので、じっくり検討してから、お返事させて下さい。」


「勿論だよ!でも、良い返事を待ってるからね!」



シルヴァスは、相変わらず優しいお兄さんのような笑顔を見せてくれる。



 それにしても、フォルテナ伯爵家の客間は、なぜこんなにも居辛(いづら)い状態になっているのだろうか?



ハルは、リビングセットのソファに腰かける面々に視線を向ける。



そこには、フォルテナ伯爵であるアスターと、シルヴァス。

それに、なぜかタナティスが座っていた…。



笑顔のシルヴァスと対照的なのは、アスターで…終始、渋い顔をしながらメイドの出していったお茶をすすっている。


だが、シルヴァスの笑顔も、ハルに声をかける時はそうでもないのだが…男性同士の間だと底知れぬ黒い何かが溢れ出している。

笑顔の裏側に色々とあるのかな?…と疑ってしまうような。


もう一人の客であるベルセの兄・タナティスは、その二人の間で随分と肩身の狭い思いをしているようだ。


時折、苦笑いを浮かべたり、ハルの方をチラチラ見たりしている。


その度に、アスターが睨んだり、シルヴァスが黒い笑顔で話しかけるので、何か言いたいことがありそうなのだが、タナティスはハルに話しかけられずにいるみたいだった。


本当に話があるのかは不明だが、もしそうなら、ベルセ兄はタイミングが悪い人なのかもしれない。

それならば、何かきっかけを作ってあげなければ…彼がうまく話に加われるような…?

 

ハルはクールな外見とは裏腹にどちらかというと、情に弱く母性本能の強い一面がある。


だがら、タナティスに助け船を出してあげようと思い、声をかけた。



「タナティスさん、この前はお邪魔しました。興味深いお庭を見せて頂いたりしたわよね。その後、ベルセはお変わりないかしら?」



声をかけられたタナティスの顔がパアァァァッと輝いた。



「いえ!こちらこそ、長くお付き合いさせてしまい、申し訳ございません。ベルセは相変わらずですが、またハルさんに会いたがっています。是非また、いらして下さい!!」



タナティスの放つ言葉にアスターがピクリと体を動かした…。


なぜか、本日のアスター様からは、瘴気のような物が出ている。

この所、『変』であったが、今日はまた違う『おかしさ』を持っているなと感じられた。


何だか知らないが、こんな変な雰囲気の中で長居するのも、タナティスが可哀想なので、早く用件を終わらせてあげようと、親切心から、ハルは再びベルセ兄に声をかけ続ける。



「それで、今日はどんなご用で、いらっしゃったの?」


「は、はい!実は父の領地では、宝石が多く取れるのですが…明後日、地域を上げてジュエリー展示

販売会を開く予定なのです。お土産用から高級ジュエリーまで幅広く商品を扱いますので、もしお時間があれば、いらっしゃらないかと思いまして。」


「まあ、それは素敵ね…。」



ハルは控えめに話を受け止めた。


ジュエリーは魅力的だが、販売会なら義理にも、何かしら購入しなければならないだろう。

今のハルは、少しでも多く、自立に向けた貯金を作りたいところだ。

出来れば断りたいと思い、考えあぐねていると、シルヴァスが会話に加わった。



「へー、楽しそうだね!じゃあ、ハル、僕すぐシフト組んで、予定を空けとくから一緒に行く?何か買ってあげる!来週、君の誕生会だよね?誕生日プレゼントを見に行こうか。」



もう、シルヴァスさんはいつも絶妙に助け舟を出してくれる!

いつも、シルヴァスには、自分の心が読めるのではないかと思うくらいだ。

誕生日プレゼントならどうせ、用意しなければならないものだし、タナティスはお土産用の物もあると言っていたので、値の張らない物をお願いすれば、シルヴァスの負担にもならない筈だ。

内心、ハルは少しホッとしたが、一応、淑女として遠慮する所を見せねばならない。



「でも、シルヴァスさん…それは悪いわ。」


「何言ってんのー?どうせ、プレゼント用意するんだから遠慮しないで。せっかくだから、自分の欲しい物を選んだ方がいいでしょぉ?」



優しいシルヴァスさんは、そう言ってくれた。

そこもまた、ハルの欲しい言葉を紡いで…。


しかし、そこに『ちょっと待った!』が、入る。



「あっ、い、いいえ!!そうではなくてですね…ハルリンドさんのプレゼントは私が用意させていただきたく思っておりまして…。」



タナティスが慌てて、シルヴァスの後に続いた。



「当日は宜しければ、私に案内させて下さい!領地の事ですから、私が一番詳しくご案内できますし…。それに、ハルリンドさんの誕生会には妹が呼ばれておりますから、兄の私からも、是非、あなたに何か贈りたいんです!!」



ハルは驚いた。



今まで温和に笑っていたシルヴァスと渋顔のアスターが、同時にタナティスに向けて、眼から恐ろしいレーザー光線を放ったように錯覚したからだ…。


それを受けて、青い顔になったタナティスは、しどろもどろになりながらも口を開く。



「いえ、だって…うちのベルセはワガママ娘でして、ハルリンドさんには、仲良くしていただきましたし、色々ご迷惑をおかけしちゃうかもしれませんし…えと、その。」


「タナティス君、男ならもう少し、はっきりしゃべらないか?私は忙しい!君も仕事で王都に行く途中なのだろう?ついでに寄ったと言っていたじゃないか。さっさと行かないと、仕事にしわ寄せがいくのでは?」



急にアスターが声を発してタナティスを叱る。


そして、嫌そうな顔をしながら、来客前まで読んでいたであろう新聞を、ガサガサし始めた。

まるで、一昔前の人間界の『お父さん』みたいである。

(新聞はソファの横に畳んでおいてあったようだ…。)


アスター様の態度は、さも『本当は読みたいのを君の為に中断してんだよ?』と言っているようだった。


そんなアスター様のお叱りを受け、タナティスは大きな声を出して、ハキハキすることを心がけようとしゃべりだした。もう、アスターとシルヴァスの光線銃のような眼力にタナティスは屈していない。



「失礼しました、フォルテナ伯爵!ハルリンドさんに、妹にお付き合い下さったお礼と誕生日のお祝いを贈りたいのです!是非、明後日は私に迎えに上がらせて下さい。」



すると今度は、シルヴァスが大騒ぎをした。



「ちょっと⁉妹ってベルセだよね?ワガママ娘なのは僕も知ってるよ!迷惑かけしちゃうかもって…わかってんなら、迷惑かけないようどうにかしろよ。お礼とかよりさぁ~?」



そう言われたタナティスがタジタジしていると、すかさず、シルヴァスが発言を続ける。



「それとさ、タナティス君。さっきから聞いてれば、展示販売会、案内してくれるのはわかったけど、僕は行っちゃダメなわけ?」


「へ?」


「僕の話、聞いてた?僕も『楽しそうだね!』って、言ってたよね?一緒に付いて行ったらダメなの?」


「い、いや…。」



言葉に詰まるタナティスを前に、アスターも会話に参戦を始めた。



「そうだな。明後日なら私も時間を空けられる。ハルにはこれといった贅沢をさせてやっていないからな…たまには、私が何かを贈ろう。」


「えっ⁉」(タナティス)

「えっ⁉」(シルヴァス)



アスターの発言を受けて、タナティスとシルヴァスの声がそろった。


養い親が付いて来るとか…ハルを狙っている二人からしたら『超迷惑』な話である。



この一部始終の流れを見ていて、ハルは少し困惑していた。

そんなに、誕生日プレゼントに宝石製品ばかりもらってもなぁ…と、思っていたのだ。

元々、そんなに彼女は贅沢思考ではない。


三人の男性からは、依然として、険悪に見える雰囲気が渦巻いたように漂っている…。

どうしたものかな…。


カエルとナメクジとヘビがそろったように、三者は動きを止めて、言葉も発さずに、見合っているようだ。



 

 そんな時だった。


玄関の呼び鈴が鳴ったのだろう。


しばらくして、執事のホルドが客間にやってきて、来客を告げた。



「アスター様、ハルリンド様、お客様でございます。担任のアレステル・オグマ先生がいらっしゃいまいした。」


「なにぃ⁉」



アスターはまるで、宿敵が現れたとばかりの声を発する。



「一体、何の用だ?」



アスター様の問いに、私はハッとする。『もしかして』と思ったのだ。


ベルセの屋敷に行った辺りから、私はアルバイトを増やしたいと思い、なかなかアスター様に言う機会がないのだと、先生に相談していたのである。


きっと、気にかけたオグマ先生がうちにやってきてくれたのだろう。

わざわざ異空間から…!!

(先生の熱さに数秒間感動するハル)


 

 そして、ハルの考えは当たっていた!



「こちらにお通しして、よろしでしょうか?」



という、執事の問いかけに、アスターは応じる。



「ハルの担任では仕方あるまい…内容によっては、別室に案内するから、とりあえずここに通せ。」


「かしこまりました。」



と、ホルドが消えてから、ものの五分。



 アレステル・オグマ先生が三つ巴になっていた男性達の間に着席した…。


三つ巴ならぬ、四つ巴が構成された。


しばし四人は見詰めあって、沈黙している。


ハルは恐る恐る『先生』と声をかけた。

それに、反応してオグマ先生が口を開いてくれた。



「急に来て悪かったな。俺は思い立ったら、すぐに行動する派なんだ!」



どんな派閥だよそれ…というような目でシルヴァスは教師を眺めている。

電話じゃダメなのでしょうか?という、タナティスの心の声も空気振動している。


アスターはオグマが発するであろう、これから来る衝撃に耐えるべく臨戦態勢に入った。


アレステル・オグマ先生がいよいよ、口を開く。

皆が固唾を呑んで見守った。



「実はですね、()()()()…。」



お父さん⁉確かにアスター様は里親役で後見人だが、『お父さん』と呼ぶにはちょっと、申し訳ない…。


アスターの体はフルフルと震えた…。

顔は怒りを押し殺している。

担任の第一声にシルヴァスが『プーッ』と吹き出した!


堪えているが堪え切れず、せき込んでしまう…。



「プーッ!ゲホゴホ!!うくくっ、お、お父さんだって…あはは、ゴホッ!」


「あ、失礼しました、伯爵。すみませんね…教師をやっていると、つい癖で。」



悪気無くアレステル・オグマが謝罪をした。


タナティスは『嘘だ!絶対嘘だ!』と思っていた。

だって、『お父さん』の部分、傍点、打っているみたいに、強調してたし…。



「いえ、老け顔ですからお気になさらず。」


トゲいっぱいにアスターが答える。


「それでですね。今日なんですが、なぜゲリラ訪問をさせて頂いたかというと…。」



教師の言葉に、男達は『ゲリラ訪問だって、わかっていてやっているのか⁉』とオグマの顔を一斉に見た!



「ハルリンドさんのアルバイトの件で、彼女から相談されていたのですが、とても良いお話があって来ました…。その前に~…。」



一度、言葉を止めたオグマ先生が私達を一周して、見た。



「今日は何の集まりだったんですか?」



オグマ先生の素朴な質問に、ハルが説明すると彼は言った。



「ハルリンド()()…。それはお断りした方が良さそうだぞ!」



三人の男達は担任の教師の言葉に目を見開く!!

特にタナティスは驚愕の面持ちである!



「アレステル・オグマ先生…それはどういう意味かな?」



アスターが教師に説明を求めた。


だが、アレステル・オグマは『けしからん!』という顔をしてピシャリと言い放つ!



「何を言っているんですか⁉アンタ、後見人でしょ?年頃の娘が、大して付き合いのない男の案内で出かけるなど言語道断!」


「た、大して付き合いがないって…?僕が怪しい者とでも言うんですか⁈」



これには、タナティスも黙っていない。


しかし、オグマは相変わらずの剣幕でガガガッと攻め立てた。



「は?常識だろ君!出会って一度、二度の男に君は自分の妹を任せられるのか?」


「え?それはいや…。」


「相手が貴族なら安心か?貴族は犯罪を起こさないという保証があるのか?」


「いえ…それは、その。」


「大体、誰かついて行けばいいというものではない!宝石なんてものは誕生日だからと言って、複数の男が贈るのは、マトモな考えじゃありませんな。彼女は誠実な女性です。そういった物は将来、恋人か夫に買ってもらえば宜しい!」



三人男は『ぎゃふん!』となった…。



「確かに…。」



 …程なくして、タナティスはフォルテナ伯爵邸を後にした。


しょんぼりと肩を落とした彼は、『王都で仕事がありますので…』と告げると、最後に『お忙しいのに、お邪魔してしまい申し訳ありませんでした。』とアスターに頭を下げた。



「何の為に来たんだ…何の為に一体…。」



小さな声で、何か呟いているのを帰りの際、すれ違いざまに執事は耳にする…。



彼の姿が消えるとシルヴァスとアスターは密かにガッツポーズをした。

ハルは気付かなかったが、アレステル・オグマは小さなそのポーズを横目で呆れながら眺めていた。



 そして、シルヴァスもアレステル・オグマが厄介な奴だと踏んだのだろう…。

そういう空気を読む能力に()けているのがシルヴァスだ。



「話が済んだら、呼んでね!お邪魔だろうから、僕は別室に待機してるよ。ハルの誕生日会の打ち合わせしたいからさぁ。」



と言って、早々に客間から退散していった。



 客間には、アスターとハルと担任教師だけが残る…。


邪魔者がすべて消えた所で、アスターは話を進めた。



「それで、オグマ()…いえ、間違えました。オグマ先生、良いお話というのは?」


「…今、わざと間違えましたね?いやぁ、伯爵様も実に子供っぽい…いえ、失礼。まあいいでしょう…良い話というのはですね。」



アスターは笑顔で、なぜか体をプルプルさせながら、教師の話に耳を傾けた…。


心なしか、笑顔で上がったアスターの口角は、少し引きつっていた。


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