23.道中にて(ハル冥界孤児院を回想)
ベルセから彼女の自宅へ招かれていたとは、昨日アスター様から聞いて、初耳だった。
しかも、その招待の手紙がアスター様宛に届いていたという事に笑える。
ベルセらしい。。。
普通は、元々面識のあった私に手紙を出すものではないのだろうか?
正直、目当てがアスター様なのが丸わかりである。
(アスター様は、何も気付かないようで驚いたが)
彼女は自分が欲しいものの為には、実に行動的だし、なりふり構わずな所がある。
冥界の孤児院に自分が移された当初、ベルセは私より少し遅れて施設の方に連れてこられた。
人目のない所で、いつもメソメソしている私とは違い、彼女は普段、非常にカラッとした性格だった。
しかし、里親希望者が孤児院に訪れている間は、非常に悲し気な面持ちで弱々しく、見る者の庇護欲を掻き立てるような少女に転じるのだ。
私の方は逆に人前となると、つい弱みを見せてはいけないような気がして、悲しくても悲しくない顔をしてしまう。
結果、能面のような無表情や仏頂面になることもあり、元よりベルセとは逆の黒い髪や寒色系の瞳の色に相まって、余計、暗くて可愛くない印象を他者に与えがちである。
そしてそんな可愛くない自分が、好きではなかった。
だから時と場合により、自分の雰囲気や印象をコントロールできるベルセに対し、純粋にすごいなと感心していた。
ただし普段の彼女の発言には、いつも共感できないでいたが…。
彼女の心情はいつもこうだった。
「どうせ、孤児になったのだから、元の家より良いおうちの子供にならなきゃ損じゃない?義理の親候補と顔合わせの際、どんな家か見定めないと…私は貴族の家じゃないと行かないわ!」
彼女は元々、片親で父親が亡くなり、孤児院にやってきた。
私と違い、冥界でしっかり戸籍を持っていて貴族ではないが、働き者の御父上に大変可愛がられていたと聞く。
(それなりに冥界で裕福なお嬢様だったのだ。)
ベルセの父親は冥界で大きな商売をされているようだったが、残念ながら親戚はあまりおらず、引き取り先の身内も全くいないわけではなかったが、彼女の元の暮らしより良い条件の家は無かったのだと本人は言っていた。
本当か嘘かはわからないが、だから数少ない身内に『迷惑をかけるのは心苦しいので自分は孤児院に行く』と自ら申し出て、施設に入ったそうだ。
結果、ベルセは元の素性も知れており、見た目も冥界の流行りを受け、大変好印象で可愛らしく、養い親希望者達の間では大人気となり、本人の宣言通り貴族の娘として引き取られ、孤児院施設を後にした。
私にしてみれば、貴族だろうが庶民だろうが少々暮らし向きがきつかろうが、元の親より良い親なんていない。
なので、彼女の言う『元の家より良いおうち』というのは、どうもしっくりいかないのだ。
その言い回しからして、理解不可であり、彼女の感覚にいつも違和感しか湧かなかった。
そもそも人気のない自分は、引き取ってくれる家があるだけで大感謝しなければならない。
自分を少しだけでも両親の代わりに愛してくれるなら、嬉しいし、それに応えたいと思う。
仮に引き取ってくれる先が、フォルテナ伯爵家のような裕福な貴族様ではなく、暮らし向きがキツくても自分を本当に欲しいと思ってくれる養父母がいたなら、喜んでそちらの家に行きたいと思っただろう。
私の考えがそんなだから、ベルセとは仲良くなれなかったのかもしれない…。
ベルセは欲しいものは有言実行で手に入れるタイプだ。
孤児院時代でも彼女は、シルヴァスや里親希望者達の差し入れなどがあると、本人達が帰った後では、一番自分が欲しいものを誰にも遠慮せず、時には相手を突き飛ばしてでも手に入れた。
それに引き換え、ハルはいつも先に手を出せず、自分は皆の後でと思っていると、余り物しか手にすることができず、時には貰いそびれてしまうことだってあった。
見かねた施設職員やシルヴァスがこっそりとハルの分を別にしてくれていたり、後日『特別だよ?』と言って、シルヴァスなどは一人だけにプレゼントしてくれたりすることもあったのだ。
だけど、欲しかったものを手に入れるよりも、ハルの心はその事で、ずっと温かくなっていた。
そういう優しい人達のお陰で、皆と争ってまで何かを手に入れなくても良かったなと思ったものだ。
きっと、ベルセが気に入っているのなら、アスター様もベルセのモノになるのだろう。
もしもほんの少しでも、アスター様がベルセではなくて、自分を欲しいと思ってくれていたなら、ハルは今まで誰かと争ってまで何かを得ようと思ったことなんてないけれど、ベルセと戦ってもいいと考えたかもしれない。
ベルセは可愛いけど、私の感でアスター様が幸せになれるような気がしないのだ。
しかし現実には、自分はアスター様から全く望まれていない。
そして、アスター様本人がベルセに好印象を持っている。
私そっちのけで直接アスター様に手紙を送っても、何も違和感を感じない程に…。
当然そんなことは、私だったらできないと思う。
大して面識のない男性にいきなり手紙を出すなんて、母が生きていたら『誰かを介しなさい』と注意されたに違いない。
だが、お互いが好印象を持っているのに、私が間で何か言った所で、お邪魔虫なだけだろう。
よって、少しでもアスター様に良い印象を持ってもらって、フォルテナ家を後にできるように。
せめて、『ハルリンド』を少しの間だけでも、引き取って良かったと思ってもらえるように。
…していきたいと思う。
婚約者候補を得るのに協力すれば、少なくとも屋敷の皆には感謝される筈だ。
ハルはとりあえず、施設では無理だったけど、今日はベルセと仲良くなろうと考えていた。
ベルセが引き取られた屋敷に向かう馬車の中で、一人、外を見ながらハルは物思いに耽っていた。
だがそんなハルを横目で眺めながら、対面に腰かけたアステリオスは少し心配していた。
『先程からハルは元気がないな』と。
フォルテナ伯爵は色事には疎いが、仕事もできるし頭もいい。
朴念仁と言われていても、貴族としての嗜みも女性へのマナーだって、きちんとしている。
他者への配慮だって欠かさないし、当然、洞察力だって人の上に立つ者として、しっかりと持ち合わせている。
だから、ハルの様子だってちゃんと気にかけているのだ。
本人には気付かれないように、、、いつも!
実を言うと、彼女を引き取ることは不本意だと言わんばかりの態度を示したのに、その次の日からずっと…気には、かけていたのだ。
ステラや他の使用人に彼女の様子を聞いたり、確認しながら。
こっそり、覗いていたこともある。
執事には、ストーカーじみてきているから、仕事に行けと促された日だってあった…。
もはや、内緒だが『ハルリンド・ウォッチング』は、アスターの趣味の一つと言っても過言ではない。
そんなわけで本日も、孤児院での旧友に会うというのに、今朝からハルの顔色が冴えないのを知っていたのだ…。
「私は何か間違えてしまっただろうか…。」
アスターは心の中で呟いた。




