17.保護された少女・カヤノの情報
現人神統括センタ―は、一般人には見つからない場所に造られている。
入り口はいくつか人間界にあり、現世から入る事ができた。
そして、入り口を通過すると異空間につながるようになっている。
現人神養成学校と同じように、現世と他の世界の狭間に神力を使って空間を作り、そこに創設されているのだ。
その為、規模は無限に広げることが可能だ。
センターの中には、あらゆる現人神に関係する部署があり、人間との関りを主に担当する部署などもある。
人間から請け負った仕事を適材適所の現人神を送り、報酬を得ることを取りまとめたりする現世利益担当などだ。
勿論、他にも現人神の行政関係、教育機関への窓口を担当する部署など幅広く配置されている。
全てがここ一か所に集約しているのだ。
その為、無限に広いが一か所に全てが存在しているため、ある意味ではコンパクトである。
ここに来れば、全てが解決してしまうのだから…。
広すぎて移動が大変だとか、迷ってしまわないかなどという疑問も出そうだが、そこはそれ。
なんせ、人間が混じっている者も多いとはいえ、『神様』が運営しているのだ。
ノープロブレムである。
ちゃんと問題は考慮されている。
まず、入り口付近に必ず置かれている総合窓口案内で、本日訪れた理由やセンター内にいる人間に会いたいなどと希望を言えば、すぐにそちらにアポを取ってくれて、行く場所と行き方を的確に教えてくれるので、迷うことなく効率的に目的の場所へアクセスできるのである。
そもそも移動もどこでもドア式のエレベーターに乗ると、指定した場所まで連れていってくれるのだ。
このエレベーターのような乗り物も、現世には無い不思議な力で制御されている。
ちなみに現人神養成学校も、各界にいくつかの入り口が存在しているし、通っている在校生は自宅のどこかから、在籍中のみ空間をつなげてもらい、アクセスできるようになっている。
またここ現人神統括センターからも繋がっており、勿論、学校に気軽にアクセスできる。
本当に便利だ。
バイト先の班長にせっかく現地解散にしてもらったのだが、結局、ハルとアスターは班員の者達と別れた後、遅れてセンターの方にやってきた。
件の実習の際に、保護したお目当ての少女に直接会いに行こうと思ったが、あれ以来初めて会いに訪れるのだし…やはりできればシルヴァスに間に入ってもらった方が良いと考え、目的地を現人神統括センターに変えたのだ。
…あわよくば、シルヴァスに同行願えたらいいなと、ハルは考えている。
総合窓口でハル達は、孤児保護管理担当の部署に在籍しているであろうシルヴァスを呼んでもらった。
皇国中、下手をすると世界中、いえ、異界中を飛び回っていると言っていたから、出張中でないといいんだけど…。
(ハルは、心の中でどうかいますように!と念じておく。)
受付の紳士的な案内職員が電話を切るとにっこりこちらを見た。
素晴らしい営業スマイルに思わず見惚れる。
「ただいま、確認しました所、在籍しておりますので、こちらに来るそうです。もうしばらく、お待ち下さい。」
とのことだった。
ハルとアスターは、総合案内の受付付近に大量に設置されている長椅子に座って待っていた。
待ち合わせ用に椅子がたくさんあるのだなと、ハルは所在なく思いながら、ぼんやりしていると、ものの数分でエレベーターが開き、シルヴァスが現れた。
「やあハル、いらっしゃ~い!」
明るい人好きする笑顔のシルヴァスの登場に、ハルはいつだって緊張がほぐれるのを感じる。
思わず、つられてこちらも笑顔になってしまうのだ。
「シルヴァスさん、来ちゃいました。その後、彼女はどうですか?」
アスターを完全無視で、シルヴァスはハルの方にだけ向いて話し始める。
「それがねー、少しづつ心を開いてくれているのはわかるんだけど、男性が苦手なのかなぁ?もしくは男神が苦手なのかな…。色々聞いた事が返ってこないこともあってね。一応、ここから最短の孤児院施設には移動させてんだけどね。」
「それだと、戸籍はまだ取れない状態になるんですか?現人神養成学校を卒業しないと『ハグレ現人神』のままだと聞きましたけど…。」
「そうだねぇ。彼女の両親の名前はわかったんだけどな…出生がはっきりしたのは良いけど、親が戸籍登録する前に彼女を置いてあの世に逝っちゃた上に、現人神養成学校には保護者が必要なんだよね。」
そう二人が話していた所、全くハル以外の方向を見ようとしないシルヴァスに、アスターが声を荒げた。
「おい、私を無視して話を進めるな!」
荒ぶるアスターを前にしてハルは動揺した。
「ご、ごめんなさい。アスター様!私、無視してたわけじゃ…、配慮がたりなくてごめんなさい!!」
あわてて、謝罪を口にする。
「そうじゃない。君じゃない…シルヴァスに言っているんだ!最初から私を弾いて見ていなかった!!」
「あれぇ、アスターいたのぉ?人間臭い恰好してたから気付かなかったわ。。。」
しらっとシルヴァスが言う。
「嘘つくな!貴様。」
毒づくアスター。
「本当にお二人は仲が良いんですね。羨ましいです。」
(ハル)
「仲良くなどない!!」(アスター)
「ははは。」(シルヴァス)
二人の遠慮のないやり取りに純粋に『羨ましい』とハルは思ったのだが、なぜだかアスターは全否定、シルヴァスは乾いた笑いを浮かべている。
「ナンデー?アスター。ナカヨシダロウボクラ?ソレニボク、ウソナンテ、ツイテナイヨー。」
続いてシルヴァスさんは棒読みっぽくしゃべった。
???
「仲良くなどない!!大体、貴様なぜ勝手に地上でハルに接触してるんだ⁈私を介さないで…おかしいだろ。」
アスターは更にカッカして立ち上がり、歩いて行ってしまった。
「もういい!早く少女の所に行くぞ!!」
「ハイ。」
ハルが返事をして後を追おうとすると、シルヴァスが口を開いた。
「あー、言いにくいんだけどね…そっちじゃないよ。せっかく僕のこと呼んでもらったんだし、外に出なくても大丈夫だから。仕事柄、業務用の転送装置あるんだよね。こっちだよ?」
シルヴァスはそう言って、エレベーターホールの方を指さす。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
シルヴァスが逆方向を歩いて行ってしまうと、アスターは無言で明後日の方向を見ながら、のろのろ着いて行った。
ハルは二人を見ないようにアスターの後を歩いていく。
「そういえばさぁ、彼女の名前、カヤノちゃんて言うんだよ。」
シルヴァスは歩きながら、自分の職場のフロアにつくまで、少しづつ聞き出すことのできた少女の情報を話した。
少女は神道系の神様が懸かっているらしい。
両親の任務内容は知らないが、某国から大和皇国の裏帝さまに、現人神を貸し出してほしいとの要請があったため赴任していたのだそうだ。
彼女の両親はそこで赴任中にカヤノを産んだ。
「恐らく、帰国命令が中々出なかったんだろうね。ここまで彼女から聞き出すの、大変だったんだけど…ようやく帰国が決定して、大和皇国に向かっている際に両親が事故にあって他界したらしい。」
そこでシルヴァスは、一度、息を吐いて続けた。
「彼女の両親は二人とも戦闘系・現人神だったみたいでね。彼女から聞いた両親の名前をセンターの戸籍取り扱い部署に確認して、海外赴任者の中から特定してもらうように依頼したら、半年ほど前に帰国中に亡くなったご夫婦がいて…ビンゴだったよ!」
「現人神で戦闘系なら、身体機能も高そうだな…。事故ごときで二人とも逝くか?まあ人間寿命が尽き、今頃は神界に戻れて、のんびりしているかもしれんが…成人前の娘がいたら、心残りだろう?」
アスターが首を傾げる。
「そうなんだよね。彼女の家族は、仕事からようやく解放されて母国に戻る途中でさ…職場の計らいで大型豪華客船での帰国だったんだ。運が悪い事に船のボイラー室から火が出て、乗客を守るために、二人は神力を相当消費したようだ。」
「なんだかんだ言っても、土壇場で人間を見捨てられないのが神の気質だからな…。守護系の現人神でもきついのに、戦闘系が苦手な守護系の能力を必要以上に使うと体力を奪われ、最悪の場合は死に直結する…。」
「大型船で人間の数が多いのが、特にネックだったんだろうね…。神力の限りを尽くして、生命エネルギーも費やしたんだ。」
二人の会話に黙っていられなくなって、ハルもついに口を挟んだ。
「それじゃあ、皆を守るために亡くなったということですか⁈」
私の両親と似ている…。
ハルは咄嗟にそう思った。
「ああ、そうだね。」
シルヴァスがハルに相槌を打った後だった。
アスターは疑問を口にする。
「しかし不思議なのだが、なぜ事故後、すぐにカヤノという少女は保護されなかったんだ?現人神が乗っていたのはセンターにわかっているんだから…現人神の誰かが駆けつけるだろう?その時に娘はどうなったんだ。」
「それが、乗客の中に彼女はいなかった…。現人神としても、人間社会にも戸籍登録をされていなかったので、彼女の存在は大和皇国に認知されていない。恐らく両親は、帰国後に娘の戸籍登録を予定していたんだろう。」
その状況を聞けば聞くほど、自分に類似しているように思えて、彼女に親近感が湧いてしまう。
「一緒に船に乗っていたのに、カヤノちゃんは一体どこへ行ったのでしょう?」
「多分、その事故で奴ら…マッド・チルドレンの一派に連れていかれたんだろうな…。」
(アスター)
「半年くらい彼らと一緒にいたことが想定されるが、あの四人いた少女達の誰よりもカヤノちゃんは怯えているんだ…事故の影響かもしれないけど、何をされたかとか、どうしていたかとかを語ろうとしないんだよ。」
(シルヴァス)
「可哀想なカヤノちゃん…私は両親を亡くした後に、すぐに現人神の父の職場の方々やシルヴァスさんに保護されて、本当にありがたかったんですね。」
(ハル)
「それにしても、妙だな。マッド・チルドレンの一派は、なぜカヤノという少女を連れ去ることができた?偶然、その船にでも乗っていたのか?まるで彼女が、船に乗っているのを知っていたような手際の良さだ。」
アスターが鋭い目をして、シルヴァスを見つめた。
「さすが…アスターだね。僕らもそう思ってね、センターの然るべき部署に通報したのさ。万が一、この事故が事故でなく故意だとしたら…ってさ。」
「例のマッド・チルドレンの一派が引き起こした事故かもしれないのですか⁈」
私は少々大きな声を出してしまったかもしれない…。
そんなまさか、もしかしてもしかすると、状況からして自分の時と良く似ている気がする…。
だけど、私は攫われてはいない。
それに悪魔がからんでいたから、事故ではないわよね。
きっと偶然だろう…。
そう思うのだが、胸の中のもやもやは晴れないでいた。
「ああ、色々歩きながら話しすぎたね。もう着いちゃったよ…僕の職場。さあて、こちらが人間界内で使える便利グッズ!転送機にございます。」
気分を取り直すように、シルヴァスは明るい調子で、ハルとアスターに腕時計の様な機械を差し出した。
それを腕につけるように指示すると、行先住所を登録させる。
「だからね、ハル…カヤノちゃんに会って少しでも仲良くなったら、事故後にどうしていたか、マッド・チルドレンの一派にどう扱われていたかとかを聞いてほしい。何かわかることがあるかもしれないからさ。」
最後に、そう言いながら、シルヴァスはハルにまた、いつものウィンクをして見せた。
「それではこのボタンを押してね!」
ハルとアスターが言われた通りボタンを押すと、一瞬体を強く引っ張られたような不思議な感覚がして…その場から消えた。
ハッと気が付いた時には、孤児院の玄関の中にテレポテーションを遂げている…。
さすがは現人神さんの科学技術!
神力だけじゃない、アイテムの幅広さよ…。
「それと最後に、カヤノちゃんについて分かったことがもう一つだけある。」
『そうだ』と思い出したように、シルヴァスさんが付け加えた。
「彼女の両親て、戦闘系の現人神だったんだけど、彼女の遺伝子検査や神力検査の結果でどちらかというと守護や土地を守ったりするのんびり系だってことが判明したんだ。」
「は?えっとじゃあ、カヤノちゃんのご両親て血が…?」
「いやいや、ちゃんと血の繋がりがある本物の親だよ!ただ、隔世遺伝だろうね。彼女は親とは違う系統の神が懸かったんだ。体に傷があったって報告されてるのも、船の時の事故で出来たものなのか疑問でね…。」
「体に傷…ですか?」
「ああ。それも含めて、ハルから会話の中でそれとなく尋ねてみてくれないかな…?僕みたいな男が聞くより、若い君がそれとなく話し掛けた方が、彼女も何か話してくれるかもしれない。」
「ハイ、わかりました。今日一度では、無理かもしれないけど、嫌がられなければちょこちょこ顔を見たいなと思っているんです。何度かに分けて、そっと聞いてみようと思います。」
「うん、ありがと!本当にハルはいい子だね!!」
シルヴァスが破顔する。
黙っていたアスターは小さく呟いてから、声を荒げた。
「おい、だから…俺を無視するなと言ってんだろーが!」
いつの間にか、アスター様が『俺呼び』になっているなとハルは思った。
そのまま3人は、孤児院の施設員に案内されて、面会室に向かった。




