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13.<ハルリンドはマイナス思考・続>アレステル・オグマはデキル教師!

 コンコン。


ドアをノックしてから開ける。

Rクラスの妹的立ち位置担当の現人神・緑ちゃんが、そのタイミングで元気な声を出した。



「失礼しまあぁ~すぅ!オグマ先生いますかあぁー?」



人間界の小学生(低学年)も顔負けになるような、必要以上に大きな声が職員室に響き渡る。



「ど、ど、ど、どうしたんだい…君達。何の用かなぁ、オグマ先生、今、奥の部屋でなんか作ってるから、必要なら僕、呼んでくるよ。」



これまた緑ちゃんとは対照的に、ちっちゃな虫の鳴くような声を出して、どもりながらも私達クラスの副担任先生がよろよろと立ち上がった。

話声の全てが尻つぼみで、最後の語尾が何となく聞き取れない…。



「え?えっ?なーにぃ?!せんせぇ、聞こえないよ。聞き取れなかった!もう一回。」



悪気は一切ない緑ちゃんが、元気に聞き返した。


職員室の他の先生が見ていないフリをしながらも、チラチラと一斉にこちらを見た…のがわかる。


副担任先生が、真っ赤な顔をして、もう一度同じ言葉を繰り返した。


ただし、更に小さな声を出して、私達の耳元まで顔をつけながら…。

もう、内緒話かと思う。


だが、今度は緑ちゃんにも、聞こえたようだ。



「うん、オグマ先生に相談があります。よろしくお願いします!」



私の代わりに全部、緑ちゃんが話してくれるから楽だった。


返答を受けた副担任先生は隣の部屋にスーッと消えて行く。



…ここの先生たちって、確か男子部の現人神養成学校で優秀だった人達で、全員A級以上の騎士の資格を持っているんだよね?

…と思わず、自分の胸に問いかけながら副担任先生の姿を見守った。



でもここぞという時にはきっと、副担任先生だって『頼れる人なんだ』ということは、この前の実地試験の機転を見てわかっていた。


ただ未だに、誰も先生の名前を覚えられないという存在感の薄さから、その活躍はいつも霞んでしまうのである。



 隣りの部屋に行った副担任先生が見えなくなっても、そちらの方向に少し同情めいた視線を送っていると、奥からオグマ先生が姿を見せた。


ギラギラの男らしさと覇気を放った生命力の眩しいブルーグレイの髪をきちっとセットして、相変わらずのいい男っぷりだ。



『ああ、すみません…どういうわけか、もうこうなると副担任先生の姿は見えなくなってしまいました。』



オグマ先生の抜群の存在感に押されて、私も緑ちゃんも既に副担任先生が視界から消えてしまったのである。


お礼も言えないまま、気付いた時には副担任先生はどこかに去っていた…。

せっかく呼んできてくれたのに…。



 そのままオグマ先生に連れられて、面談用の個室に移ると、私は教室での話をした。

緑ちゃんは、『先に教室に戻ってるねー』と言い残し、ササッと行ってしまった。


二人になると、オグマ先生は色々アドバイスをしてくれた。



「まずは、ハルリンド。お前は現人神養成学校の生徒だが、籍は冥界になっている。これは将来、人間界・冥界のどちらでも過ごせることに他ならないから、安心していいぞ。」



優しい眼差しで、オグマ先生が答えてくれた。



「でも私の母が冥界の誰だか、はっきりわからないんですけど…。」


「それは大丈夫だ。冥界の児童施設に移される際に、遺伝子検査だけでなく、魂の質を検査している筈だ。その結果、冥界の気質が強いと判断されたから、そちらで里親を募集することになったのだろう?その段階で、お前は既に冥界での市民権を得ているようなものだ。」


「そうなんですか…。私、人間界以外は知らなかったから、どうもピンと来なくって。」


「それにこの前の実習でのお前の活躍を見て思ったが、あれは冥界神族の能力…つまり冥界貴族が使える魔法陣だ。お前があの力を持ってして、人間界の現人神になってくれるのは、冥界系現人神の降臨で喜ばしい事だが…逆に冥界側から見れば痛手だろう。」


「そうなんですか?」


「冥界でも人間界の現人神社会でも、人手不足に変わりはない。力の強い神力を持っていれば、どちらだって欲しいのさ…。自分に自信を持て!」


「ありがとうございます…先生。」



アレステル・オグマの力強い言葉に涙が(にじ)む。



「それと自立の件もわかった。17歳にならなくとも、早めに色々経験してみたらどうだ?うちのクラスはお前も含め優秀だ。阿保生徒だったらギリギリまで勉強しろと言うところだが…。」


「早めに…ですか?」


「ああ。その気があるのなら、すぐにお前に合いそうなアルバイトを現人神就活本部に問い合わせてやる!授業とうまく両立できるように手配してやるから任せろ。」


「そんなに簡単に仕事を探してもらえるんですか?授業と掛け持ちになるから、無理かと思っていました…。先生に相談してよかった。弁天さんにお礼言わなきゃ。」


「あー、弁天に礼は不要だ。あいつの事だ…どうせ授業が中断になるんじゃないかとか思って言ったのだろう?ふっふっふっ、残念だったな…弁天の奴め!副担に言って、代わりの授業をさせている。ハルリンド、お前も後で補修分の宿題出すからな?」


にやりと口角を上げるオグマ先生。

いつの間に、そんな手配していたんだろう…相変わらず、全く侮れない先生だ。



「あとは社交界デビューか⁈こちらも結構な事じゃないか!若いうちは何事も経験してみろ。どういう理由だろうが誰でも出来る事ではないし、もしかしたら本当に良い相手が現れるかもしれんだろ?現人神として現世を選択しても冥界での人脈が役に立つ事だってある。」


「ええ、わかっているんです。でも本当に申し訳ないくらいに、良くしてもらっているから…。」


「だったら、そのまま良くしてもらっとけ!ガキが遠慮なんぞしたら気持ち悪いだろ?お前ね…孤児だっていうなら、もっと図々しくなんな?まるで、お前見てっと貴族の娘みたいだぞ?奥ゆかしすぎて…てこたぁ、やっぱお前は貴族が向いてんじゃないかぁ?」



オグマ先生の言葉に、自分がキョトンとした顔になったと思う。



「まあ、俺は教師として良い現人神を育成するのが仕事だが、それより大事にしているのは、生徒達がもっとも幸せになれる道を歩むように導いてやることだ。どの世界を選択しても、ずっとお前達の担任なんだから…悩んだらすぐに来い!」


「先生!!なんで、そんなに男前なんですか?!」



純粋に胸が熱くなる!

やはり先生は熱くて、面倒見の良い教師だ!!



『よしよし』と私の頭を軽く撫でながら、先生は言った。



「舞踏会や社交界関連の予定がわかったら、一応俺にもスケジュールをよこせ。それにかぶらないようにアルバイトを入れてやる。」


「は、はい!」


「最終的に18歳で人間界に行った場合でも困らないように纏まった金が手に残るよう計画してやるから安心しろ。保護者と一悶着あれば、俺が間に入ってやるから頼るがいい。俺はそこらのクラスの担任より有能だ!もっと、先生を誉めろよ?ハルリンド。」



流石は()()()の教師!


今まで人間界の学校で人間の先生に教わった経験しか無かったが、どの先生も本当に面倒見が良いと思う。


オグマ先生は一人の生徒にもこんなに手厚いし…。

リリュー先生もなんだかんだ言っても、かゆいところに手が届いちゃう先生だったと思う。

だって補修クラスで誰も困っていた子を見たことがないもの…。


鼻高々なオグマ先生が高笑いをし始めたところをボーッと眺めながらも、こんなところも愛嬌あっていいよなぁと考えながら、ハルは感心していた。



「そうですね…。本当にマイナス思考でした。皆や先生に聞いてもらって正解だった。社交界に迷いなく出てみたいと思います。」



ハルは小さく声に出すと、聞き逃さずに先生が応えた。



「そうだぞぉ、ハルリンド。物は試しだ。出てみよう社交界!参加しよう貴族社会!レッツ・ゴー舞踏会!」



何だソレ。最後おかしかった(文が…)。

いつの間にか私は、声を出して笑っていた。


その時、学園長のガブリエル・リリュー先生が潤んだ瞳でこちらの会話を壁越しに聞いていた。

その手には、私達が来る前にオグマ先生が作成していた図案を握りしめている。


その図案は、実習で初めて神様風ルックに変身したハルリンドの服装に付いていた家紋らしき紋章の図案で、素晴らしく忠実に描かれていた。



「いいか、ハルリンド。俺は超・超!スーパー出来る男だ!!教師の中の教師だ。もっと誉めろ~~。」



ハルがいい加減、呆れ始めても面談室のオグマ先生は自画自賛を続けていた…。


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