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10.続 任務体験実習を終えて→話は変わって。

 「それはそうとさ!アスター、僕、前から言おうと思ってたんだけどぉ。」



急な話の切り替えに、アスターとハルが驚いた眼でシルヴァスを見る。



「ハルも(じき)に16歳も終わっちゃうよ?貴族が面倒を看てるってのに…舞踏会やパーティに連れて行ったりしないわけ⁉ハルが着飾ったの見たいしぃ…ダンス踊るの楽しみなんだけど!」



傍に控えていたステラとホルドが胸の前でこぶしを強く握り、『よくぞ言ってくれた!』というような、顔をした。


二人は『この朴念仁は年頃の少女がいるんだから…舞踏会とまでとは言わないが、お茶会やパーティ位、開いてやればいいのに!』と常日頃から思っていたのだ。


もしくは、もっと他の家の招待に応じて、ハルリンドを連れて行ってあげれば良いのにと…。


ステラはハルリンドが17歳になる前に、主人に進言しようと考えていたところだ。


アスターは(きょ)をつかれたようで、固まっている。



「そ、そんな、シルヴァスさん、私はアスター様やお屋敷の皆にすごく良くしてもらってるのに!これ以上、何も必要ないと思うわ。そんなところに連れて行ってもらう訳にはいかないわよ!」


「何言っちゃってるの?ハル…君を引き取れる権利がアスターにあるというのは、そういうことも含めてなんだよ?君に見合った教育と環境を提供するという意味でね。」



大体、そろそろ年頃の娘にいい相手を用意してやる気はないのかね…。

(シルヴァス・心の声)



人間界に居を置く現人神社会は、危険がいっぱいだ。


ハルは、家族もいない、旦那もいない、恋人もいないでは、冥界で仕事をするより分が悪いというのに…。


だけど、今までのハルの様子では、学校を卒業したら『現人神』として人間界で生きていくつもりだろうと想像がつく…。



早く目ぼしいのを見付けとかないと、ハルがここを出て行った時、困るのにさ。

まあ、冥界貴族なんかとくっついてもらいたいとは思わないけどね。

それに、僕がうまくやる予定では、あるのだけど…。



シルヴァスはハルが現人神として人間界に行くことを利用し、彼女との距離を近づけようと画策していた。

そういうシルヴァスの胸中は、知らないが、アスターは言われてみて初めて気が付いたような顔をして友の言葉に納得を示す。



「そ、そうか…俺は全く…すまんな。そういうことに疎くて。その、自分もそういうのが苦手で…気付かなかった。考えてみれば、ハルも社交…そうだな。うん。」



アスターの口調には、シルヴァスの前や落ち着きを失った時に出るであろう自分の事を『俺』呼びする癖が出ていた。

学生時代のなごりである…。



あー、動揺してる。

本当に全く、思いも寄らなかったんだなー。

ずっとハルの事、子供だと考えてたんだなー。

現実見ないで…とシルヴァスは思った。



勿論、そこに居合わせていた執事とステラもシルヴァスと同じことを思った。




 アスターは、ハルを引き取った時には将来、それなりに幸せになれる相手を探してやろうと考えていた。

ハルを幸せにしてくれそうな冥界貴族やシルヴァスなどの伝手を頼り、名門現人神を何人か引き合わせて彼女が気に入る相手を見付けるのだと!



「本当に、悪かったな。ハル、私は気の利かない『兄』だ…。早速、社交用にドレスやその他に必要な物を手配しよう!!ステラ、頼んだぞ…。」


「ハイ!!」



ステラが楽しそうに返事をした。

腕がなるというものだ。



「あー、ホルド。どこかハルをお披露目するのに良い機会は無いかな?招待状の届いている中から、いくつかピックアップしてくれないか…、あとで目を通すから、相談に乗ってくれ。」


「かしこまりました!すぐにでも!!」



これまた、ホルドも意気揚々としているではないか。

ボーッとしていたのは、私だけらしい…。

アスターは…しょげた。



「アスター様!そんな、気を使っていただかなくても大丈夫です。本当に私にそんなことは不要なんです!卒業したら、人間界で働きますから…。」



一同が黙って、ハルを見た。

そして、全員がひきつった。


シルヴァスを除いては…。

シルヴァスにとっては、予想通りの順調な流れ。

むしろ、ニヤニヤしてしまう顔を隠した。



「ハル…、人間界にそんなにこだわらなくても、君なら多分どちらでも選べるよ。それに、仮に現人神として、生活するにしても頼れる相手を見付けた方がいい…。」



アスターが険しい顔でハルに言い聞かせる。


その横で、シルヴァスが口をパクパクさせながら、自分を指さしている。


使用人含め、それは誰にも見えていないようだ…。



「そ!そうですよ!!お嬢様、何も人間界に行かなくても仕事ならございますよ。それに冥界でご結婚されたって良いじゃないですか!貴族の奥方は仕事がたくさんございますよ?」



ステラが大声を出す。



「ステラの言う通りですよ!私ども、お嬢様が滅多に会えないところに行ってしまうのは嫌でございます。出来る事なら、ずうっとここにいてほしいくらいなのに!」



ホルドが涙目で訴える。



それを聞いて、ハルは感動した。

ずっと居てほしいと思ってもらえるなんて、例え社交辞令でも、嬉しく思う。



「ステラ…、ホルドさん。」


「・・・・・。」



シルヴァスが妙な動きを止めて、おとなしくなった。



「とにかく、冥界の社交界には、出てみなさい。このまま君を屋敷に閉じ込めて、デビューさせないなんてありえないんだ!本当に私は、どうかしていた…。」



アスターが弱々しく付け加えた。


ハルのいる毎日が、普通に当たり前でこのままずっと何も変わらないように感じていたのだ。


危ない所だった。


シルヴァスが言いださなければ、自分には気が回らなかった。



…まあ、あの様子ではいずれ、ステラあたりに怒鳴られて気付かされたかもしれないが。

…怒鳴られずに済んで良かった。

やはり、シルヴァスは自分にとって良い方向に風を吹かせてくれる存在なのだと、感じた。



「シルヴァスよ。心の友よ。ハルと初めて受ける招待には、是非、お前も同行してほしい…。」



親愛の情を込めて、友を見る。


「はあああぁ~~~!?何言ってんの?お前!全部、ハルが出る社交場には僕が行くに決まってんでしょ?!もしかして、僕は出ない前提だったの?ふざけんなよ、アスター!僕の方がハルのこと、長く見守ってんだぞ。第一責任者は僕なんだからな。お前より!!」



シルヴァスが憤慨する。



「お前いい奴だな…。」


「・・・・・。」



アスターのズレた言葉を聞きながら、

『僕が見てないうちに変な虫くっつけられたら、たまんないよ!』

という思いがシルヴァスの脳裏に浮かぶ。



「ハル、僕、貴族じゃないけど、結構優秀!現人神養成学校じゃA級・騎士の資格持ってるから、貴族階級の集まりにゲストとして出られる権利あるんだ。だから全部、僕がエスコートするからね。社交界での予定は全部事前に僕に申告してもらうよ!」



いやいや、それはいくらなんでもおかしいだろ…と、その役目は養い親の自分だろ?とさすがにアスターは思う。


しかし、最後にウィンクするシルヴァスを誰も見ていなかったので、アスターは黙っていた。


ハルはホルドとステラと抱きしめあうように寄り添っていた。

もう舞踏会でのことを話しているようだ…。



 アスターはふと視線を感じ、ドアの方に目を向けると、料理長がお茶のおかわりと新しく作ったお菓子を手にして、こちらを覗いてた。


目には涙を浮かべている。


アスターは…見なかったことにした。



さあ、これから忙しくなるぞ。

ハルの社交界デビューを早急に始めねばならない。


アスターはそう思ったが、心はなぜか曇っていた。

自分はそういったものが苦手だからだろうと、己に言い聞かせたが、何だかそれとは違う沸々と湧いてくる苛立ちのようなものが含まれているのを感じていた。


それがどうしてかは、わからないけれど…。

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