第三話 後輩ちゃんと喫茶店
職場の喫煙室でタバコを吸っている人を見ると、「大人っぽいな」と思うことがある。
俺は酒もタバコもしない。これは健康に配慮してのことだ。
俺がボーッと喫煙室を外から眺めていると不意に後ろから声を掛けられる。
「お待たせしました先輩!さあ行きましょうか!」
「おう」
俺は元気いっぱいの後輩ちゃんを見て頬を緩ませる。
この子は周りにいる人に元気を与えられる才能を持った子だな、と改めて思う。
俺たちはオフィス街を抜けて駅近くのモダンな雰囲気が漂うお洒落な喫茶店に入店する。
「おぉ…」
まず目に入ったのは、白髪を掻き上げた初老の男性。『背中で語る』とか『威厳のある』という言葉が似合いそうな人で、ここでは思わず『マスター』と呼びたくなる人だ。
「こっちの席がおすすめなんです」
「へぇ…」
俺は後輩ちゃんに案内されるがままになる。
広くは無いが狭くも無い室内で、後輩ちゃんのおすすめの席は入り口からは見ることの出来ない知る人ぞ知る席だった。
俺は席に座って後輩ちゃんに訊ねる。
「この店には良く来るのか?」
言うと後輩ちゃんは小さく頷き言う。
「高校生の時に初めて来て、それからはもう虜になってしまったのです…あの時は早く大人になりたいって思ってましたから…」
後輩ちゃんは言い、恥ずかしそうに顔を伏せる。
確かにこの店に来て知る人ぞ知る席に座り、珈琲を嗜んでいたら「おぉ」と思うだろう。
趣があって憧れる。
「そういうの、良いんじゃないか?」
格言う俺も高校生の時は父親に憧れていた。
仕事が終わって疲れてるはずなのに、そんな顔は一切見せないで俺の相手をしてくれた父親。俺もあんな風になりたかったな…。
「それで大人になった感想は?」
俺がからかう様にして言うと、後輩ちゃんは何とも言えない様な顔つきになった。
「…まあ色々と辛いことはあるだろうけど、きっとそれを乗り越えれば今まで見たことの無い様な憧憬を見れる。……はずだから…」
「はい!」
駄目だな、良いことを言おうとすると肝心の所で弱くなる。
その後俺は後輩ちゃんにメニューを教えてもらい珈琲と手頃な価格のサンドイッチを注文した。
因みに後輩ちゃんは珈琲とパンケーキを注文していた。