第二話 社畜と後輩
時丘真圡の朝はとても早い。
アラームはセットしているが何時もそれより先に目が覚めてしまう。
だからここの所、アラーム機能の出番は無い。
俺は着替えをして仕事鞄とスマホ、財布を持って家を出る。
朝食は会社に行く途中にあるコンビニで手頃な物を購入してそれを食べる。
そして俺は日の高い内からパソコンに向き合うのだ。
俺たち社畜の命は何と言っても健康だ。
体調を損ねるということはつまり、上司の機嫌を損ねるということ。
そうなると給料が減り、元から無い様な信頼度が地に落ちる。
そして視力も大事だ。
俺は最近になって漸く眼鏡を掛け始めたのだが、最近の眼鏡はパソコンなどの画面から出るブルーライトを防ぐ物もあるらしく、購入の際にはそれを購入した。
何やかんや言って給料だけは良いのだ。
「ふあぁぁ…」
俺は手を伸ばし背凭れに体重を預けて大きな欠伸をする。
そしてついでに首と指の関節を鳴らしておく。
ポキポキという何とも小気味の良い音が聞こえて、俺は少し気分が良くなる。
「まったく君は何てことをしてくれたんだ!!」
「す、すみません!」
男性の怒鳴り声と女性の謝罪の声が、大分離れた俺の席にまで聞こえてきた。
あの怒鳴り散らかしている禿げが俺の上司で、謝り続けているのが今年入社して来た新人の後輩ちゃんだ。
俺は何とも言えぬ気持ちになって席を立ち上がる。
そして二人の元まで行って後輩ちゃんの方に付き、一緒になって頭を下げる。
勿論禿げの好きな「すみません」と「ごめんなさい」も込めて。
「部下の失敗は俺の失敗です。俺から言っておきますんで」
「フンッ」
俺が言うと上司は鼻を鳴らして去って行った。
俺も仕事に戻ろうと思い一歩を踏み出ーーーる所で後ろから声を掛けられる。
「先輩、ありがとうございました……!」
「いや、頭を下げるのは慣れてるから良いんだよ…」
それはそれでどうなんだ、と言ってから気付いたが俺は被りを振ってその考えを振り払う。
「…何かお礼を…」
「だから大丈夫だって…って早く戻らないとまた怒られるぞ」
すると後輩ちゃんはビクリと肩を震わせて、一目散に自分の席へと戻って行った。
俺はその姿を見て微笑ましく思った。
楽しいことをしていると時間が早く過ぎて行く様に錯覚し、その逆もまた然り。
と良く耳にするが、だとすれば俺は仕事大好きの変態ということになってしまうな…。
そんな阿呆らしいことを考えて帰宅の準備をしていると唐突にスマホが揺れる。
『差出人:後輩ちゃん』
俺はスマホの上の方に出てきたそのウィンドウをタップして拡大化させる。
『この後お暇ですか?』
俺は社畜、用事なんてものは一切無い。
『暇だが?』
するとスマホが震える。
『でしたら近くの喫茶店に行きませんか?』
『じゃあ待ってるから今日の分は早く終わらせろよ』
と返信すると、顔を青くして目を回すマスコット的なウサギのスタンプが送られてきた。
この調子ならすぐに終わるだろう。