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塔の街アンヌヴンで。 作者:ぐっどさん

第一章:第一章:銀色の髪の少年。

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第四話:従姉のローラ。

「は?ちょっと、アンタ、だれ?そこで、何してんの?新しい給仕?そんなこと一言も聞いて無いけど?」
 矢継ぎ早に質問が繰り出された。
 レオンが水場で食器を洗っていると、奥にある階段から少女が下りて来たのだ。
 少年と歳は変わらなそうだが、語気が強くいきなり高圧的な感じだった。
 どう見ても店の二階から下りて来たのだろうし、顔立ちからしてもそれがイライザの娘である事は容易に見て取れる。
「ちょっと、黙って無いでなんか言いなさいよ?」
 そしてこの強気っぷり。
 これはもうどう見ても母や叔母の血を引いてるとしか思えない。レオンは思わず吹いてしまった。
「はぁ?何笑ってんだよ?アンタ、おちょくってんの?」
「あ、いや、ごめんなさい。おちょくってなんて、全然。キミは、イライザさんの娘さんでしょう?」
 レオンがそう尋ねると、黒髪の少女は怪訝そうな表情を浮かべて立ち止まった。
 身長は少年の方が少し高いくらい。しかし、威風堂々とした態度なので実際よりも大きく見えるのかもしれない。
 少し癖のある黒髪を後頭部辺りで一つに纏めて結んでいた。
 袖なしで膝上丈の飾り気の無い無地のワンピースを着ている。
 日焼けもしていて健康的で如何にもお転婆そうな出で立ち。
 銀髪で色白のレオンと比べたら、むしろ彼女の方が少年らしく見えてしまう。とそう言う少女だった。
「イライザはウチの母ちゃんだけど?で、アンタはなんなの?」
「あの、ぼくは、イライザさんのお姉さんの息子です。レオンって言います」
「ん?んん?イライザさんのお姉さん?って母ちゃんの姉ちゃんってこと?ん?母ちゃんの姉ちゃんって鬼女アンナじゃんか。え?ウソ、マジで?アンタ、鬼女の息子なの?ってゆーか、アンタ、男なんだ?」
 少女はあからさまに驚き、そしてずかずかとレオンへと歩み寄って来た。
「男だよ。今日、アンヌヴンに来るまで母が鬼女って呼ばれてるって知らなかったけど、ぼくは鬼女アンナと白銀の獅子ブレイブの子供、みたい」
「へえ!凄いじゃんか!そっか、話には聞いてたけど、要するにアンタはウチの従弟なんでしょ?」
「うん、そうだと思うよ」
「つーかさぁ、鬼女と白銀の獅子の息子だからどんなけ厳ついヤツなんだろーって思ってたんだけど!まさかこんな女みたいなのだとは想像出来なかったなぁ、あはははは。で、鬼女アンナは?店で酒飲んでる?挨拶してこないと!昔はこの街で一番腕っぷしの強い女だったらしいからさぁ、ウチ、結構憧れちゃってんだよねぇ」
 コロコロと表情の変わる少女だった。
 明け透けで口も悪いが、明るく朗らかで愛嬌がある。
「えーっと、実は、母は先月流行り病で倒れて亡くなってしまって、それでぼくは、イライザさんを頼ってドーン村からアンヌヴンまで出て来たんです」
「え?ウソ、マジで?アンタの母ちゃん死んじゃったの?」
「うん。病に罹ってから本当にあっという間で、それでも村の人たちは色々治療してくれたんだけど、どうにもならなくて」
 そして、少女の瞳からは大粒の涙がぽろりぽろりと零れ落ちる。
 まだ出逢ってから幾許も経ってないのに、その感情の起伏加減に流石のレオンもたじろいでしまった。
「えーっと、ごめんなさい、突然びっくりしちゃうよね。あの、でも、母の事はちゃんと告げた方がいいと思って、憧れてくれていたのなら尚更……」
「うううう、ごめん、ウチの方がお姉ちゃんなのに……でも、アンタ、父ちゃんも母ちゃんもいないとか、そんなの凄く悲しいって思って……うううう、涙が止まんないよぅ。ああ、ごめんごめん、もう泣き止むからちょっと待って」
 と言われて、レオンは大人しく彼女が泣き止むのを待つことにした。
 少年の育った村には同年代の人間の子供がいなかったので、特にお転婆な女の子の扱い方なんて知る由も無かった。
 ドワーフ族の子供はそれなりにいたけれど、彼の種族は子供の頃から比較的穏やかでどちらかと言えば寡黙な者が多い。

「……よし、もう涙止まったわ。もう大丈夫。で、レオン、アンタ今幾つなの?何歳?」
「四の月で十三になったところだよ」
「そう、じゃぁウチより一歳も年下なのね?決めたわ。アンタこれからウチの弟になりなさいな。今日からココに住むんでしょ?ウチの事はお姉ちゃんと呼んでいいから」
「あの、その前に名前を教えて欲しいんだけど……」
「え?名前?言って無かったっけ?」
「うん、まだ、ぼくしか名乗ってないよ?」
「そーだっけ?ウチの名前はローラって言うの。ローラお姉ちゃんって呼んでいいからね」
「えーっと、うん、ありがとう。でも、歳も近い事だし、ローラって呼んじゃダメなのかな?」
「はぁ?弟の癖に生意気な事言ってんじゃないの!お姉ちゃん呼ばないと仲良くしてあげないよ?」
 ここに来て田舎の村で育った少年は思うのだ。もしかしたら都会に住んでる人は大体皆ちょっと面倒臭い人が多いのかもしれない、と。
 チャック、イライザ、フレイザーそしてローラと、多分それぞれ悪人では無いけれど何だか妙に癖が強い。
「うん、分かったよ。じゃぁ、お姉ちゃんって呼ぶ事にするよ」
「んふふふー、分かればよろしい。で、レオン、アンタ荷物は?まさか手ぶらで来たわけじゃ無いでしょう?」
「荷物は、カウンターの足元の所に置いて来てるけど」
 レオンがそう言うとローラはぴょんぴょんと飛び跳ねる様にカウンターへと出て行った。
 少年は今し方姉となった少女の後を追う。
 イライザとフレイザーは休戦状態に入った様で、取り敢えずの決着の乾杯をしているところだった。
「あ、フレイザー来てたんだ?ねえねえ、母ちゃん?レオンって今日からどの部屋で寝泊まりするのー?」
「ん?レオンかい?あー、どーするかねえ。今四部屋全部埋まってるから。あたしの部屋はちょっと不味いし、義父さんの部屋も色々あって不味いし、ヴィルの部屋に住まわせたら可愛いレオンが不良になっちまいそうだし、取り敢えずはローラの部屋しかないかねえ?」
「あ、だよねぇ、ウチもそれしか無いと思うんだぁ。まぁ、この子男だけど、女の子みたいだし、一緒に寝てても問題無いっしょ?」
「あははは、問題無い無い。ってゆーか、仮にヤッちまったとしても絶対ローラが襲う方だろうしね!」
 イライザとローラ母娘はレオンの事を見ながらゲラゲラと笑っていた。
 少年は二人の会話が余りにも早口なので、よく分からなかったが、どうやら今日会ったばかりのローラと相部屋になると言う事は理解出来た。
「まぁ、心配しなくても大丈夫だから。ウチの部屋はさぁ、昔は冒険者が寝泊まりしてたところだから、ベッドが無駄にデカいんだよね。ウチとアンタくらいだったら余裕で広々と寝れるし。それにまぁ、弟に手ぇ出すほど飢えても盛っても無いから」
「えーっと、うん、ぼくは、ローラ……お姉ちゃんがいいなら、全然平気だけど。じゃぁ、もう荷物は部屋に運んでしまった方がいい?」
「あー、そうだねー。客が来る前に運んじゃおうか!じゃぁ、レオンは旅で疲れてるだろうから、荷物はお姉ちゃんが運んであげるー」
 頗る上機嫌な姉はまたぴょんぴょんと飛び跳ねてレオンのザックへと手を掛ける、そしてぐっと持ち上げようとしたが……。
「え?なにこれ?めちゃくちゃ重いんですけど。これ、本当にレオンの荷物?」
 ローラはそう言いつつ、腰を落としてもう一度力を込めたが、ザックは床から少しも上がらなかった。
「あ、それ結構重いから、ぼくが運ぶよ」
 レオンはそう言うと、ザックに手を掛けて勢い良く持ち上げてしまった。
 特に力を込める様な仕草を見せなかったので、ローラはそれに対して驚いていた。
「え、ウソウソ?そんなに軽々持ち上がっちゃうの?なんで?ってゆーか、その中一体何が入ってるのー?」
「えーっと、衣類と、ドーン村の村長さんが買い取ってくれなかった物と母さんの遺品かなぁ。父さんのものかもしれないけど。このまま二階に上がっていい?」
「うん、いいよ、一緒に行こう!こっちこっち」

 と、子供たちの様子をイライザとフレイザーは昔を思い出しつつ眺め見ていた。
 二人とも好みの酒で喉を潤し、エルフが煎じたお香の匂いを嗅ぐわいながら。
「……ねえ、あのさぁ、昔も、今みたいな感じあったわよね?ブレイブってさ、細身で少年みたいな身体付きなのに、滅茶苦茶力持ちなの。筋肉隆々の男が必死で持ち上げてる荷物を平然と軽々と持ち上げちゃったりするとこ、何度も見て来たよ」
 イライザはそう言って、紫煙を細く長く吐き出した。
「まぁ、血筋と言うものだろうな。白銀の獅子の身体能力は普通の人間とは掛け離れていたから。あれは鍛錬や修行の類で何とかなるものでは無いと思うし」
 フレイザーは自ら作り上げたリキュールを舌の上で転がす様に味わっていた。
「姉さんは嫌がると思うけど、あの子さ、もうどう見ても白銀の獅子の再来だよね?顔とか身体付きだけじゃ無くて声とか表情とか歩き方まで一緒なんだもん。見てるだけで涙が出そうになっちゃう」
「そうだな、本人の想いは知れないが、潜在能力は間違いなく父親譲りだろう。母親の血を強く引いていたとしても冒険者としては申し分ない筈だろうし。さっき隣りに腰掛けていた時、軽く見てみたが彼の能力は底しれない深みがあったよ。本当に、人間という種族は時折ああ言った強烈な存在を産み出してしまうから末恐ろしい。歴史を変えれる存在もしくは歴史を変えてしまう存在と言ったところか」
 エルフはその言葉に魔力を乗せて語っていた。
 イライザの気持ちが必要以上に堕ちない為に、彼なりの配慮だった。
 お互い自他共に認める犬猿のい仲だが、幾度か死線を潜り抜けた仲でもあるので根っこの部分では繋がりが深いと言う事なのだろう。
「あのさ?多分、だからこそ、姉さんはあの子をアンヌヴンから遠ざけてたのかな?今となっては、結局この街に来ちゃってるけど。ブレイズの二の舞にはさせたく無いから」
「それは、鬼女殿本人に聞いてみなければ分からんが、鬼女殿ならレオンの素質に気が付かない筈が無いゆえ、田舎で平穏な生活を送らせるか、冒険者として白銀の獅子の後継者として育てるか葛藤はあったと思う」
「だよねー。で、あたしはどうするべきだと思う?あの子をどう育てればいいんだろう?」
「それは、私が答えられる案件では無いよ。其方は其方が思うままに育てればいいし、少年は少年の思うままに成長して行動するだろうから」
「あたしは、うーん。あのさ?正直に言うと、このまま街で平和に暮らして欲しいって思う自分と、ブレイズやルロイの仇を獲って欲しいって思う自分もいるんだよ」
「そう言う想いは、私に告げるのではなく、いつか時が来たら少年本人に告げてやるべきだと思う。どちらにせよ、ひとつ言えるのは……あれ程の素養を持ち合わせてしまっていると、己や周りの意思など関係無く結果として、彼は白銀の獅子の様な存在になってしまうのでは無いかと、私は思うよ。それこそ神が定めた因果律の様な流れの一端として、な。そして、また、そう言う光り輝く素養を有する人間は、共通して極めて魅力があり、必然と人望を集め、そして悲しい事に、決まって短命だ」
「そんな恐ろしい事言わないでおくれよ!あんな可愛い子が短命だなんて。あの子が死ぬくらいならあたしが代わって……」
 イライザはそこで言葉を詰まらせてしまった。
 彼女の夫であるルロイは、恐らく今の彼女と同じ様な想いを抱きつつ死んでいったのだろうと、今更ながらに思い知ってしまったから。
「いやいや、其方が、命を捨てる必要は無いよ。レオンの事は私が力の限り庇護してみせるから。十三年前に白銀の獅子に救われたこの命を、あの少年の為に使う事は、全く惜しいとは思わんからな。と、まぁ我々が今この場で思いつめても仕方の無い話だよ。だってそうであろう?あの少年は、今日この街に来たところで、冒険者になると決まった訳でも無いし、そう言う相談を受けた訳でも無いのだから。我々に出来る事は、彼の望んだ人生を僅かながらに後押ししてやる事くらいさ。冒険者として生きるなら冒険者として補佐するし、街人として生きるならこの店で働くか、私の研究の手伝いでもして、のんびりと人生を楽しめばいい。どちらにしても言える事は、それを決めるのは彼自身だ、という事。今はそれしか言えないし、分からない……」
 イライザは感極まりそうになってしまったが、フレイザーの魔力を帯びた言葉のお陰で、すぐに冷静さを取り戻していた。
 そして、まるでその頃合いを見計らっていたかのように、客が扉を開けて入店して来た。
 皆常連ばかりで、それぞれがいつもの同じ席へと腰掛けてゆく。
「ったく、この店は魔法御法度だって、何度言えば分かるんだろうね、このイカレエルフは……」
 イライザは、コップにあったエールを飲み干しそう言った。
「ふふふ、この程度の手管を魔法だと思われたら困るね。それよりも、キミの気持ちひとつでこの店の居心地の良さが決まってしまうのだから、めそめそしてないでしっかりと客をもてなしてくれよ?」
「はんっ!そんなこたぁ、いちいち言われなくても分かってんだよ!まったく、いつまでも子ども扱いするなっての。このバカエルフが……」
 と、こんな感じで酒房ルロイの一日は始まる。
 時にぐだぐだと、時にゆるゆると。

 
 
【用語説明】
用語:酒房ルロイ
《意味》
 イライザの夫であるルロイ・シーモアの父アンガスが冒険者を引退した時に生家を改築して開業した酒場。
 元々は暁月夜亭と言う屋号だったが、ルロイの死を経て酒房ルロイへと屋号を変更した。
 アンガス・シーモアは現在、酔いどれ小路連合の会長を務めている。
 その為、酒房ルロイは酔いどれ小路にある他の酒場とは一線を画した存在となっており、軍関係者や行政関連の人物も訪れる店となっている。


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