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41.将来の夢

 珍しく仕事が早く終わり、実はずっとやってみたかったことに挑戦してみることにした。家へ電話をかけると、数秒で茉莉華が受話器を取ってくれる。


「もしもし、茉莉華?」

『公生くん? 今日早いんだね』

「珍しく早く終わったんだよ。それでさ、今日は僕が華怜を幼稚園に迎えに行っていい?」

『華怜は喜んでくれると思うけど、一人で大丈夫?』

「茉莉華は僕を何歳だと思ってるの」


 苦笑しながら言うと、茉莉華もくすりと笑ってくれた。


『冗談よ。お風呂沸かして、美味しいご飯作って待ってるからね』

「うん。いつもありがと」

『私の方こそ、いつもありがとうね』


 それからどちらからともなく通話を切った。いつもは勤務時間の都合上幼稚園に迎えには行けないから、一度だけ行ってみたかったのだ。


 幼稚園までは、帰りのバスを途中で降りて少しだけ遠回りをすれば寄ることができる。


 僕はちょっと緊張しながら普段は通らない道を歩き、やがて綺麗な幼稚園と教会が見えてきた。


 華怜はキリスト教系列の幼稚園へ通っていて、すぐ隣に大きな教会がそびえ立っている。とはいっても、この幼稚園に通っているからといってキリスト教信者にはならなくてもいい。


 この幼稚園に決めたのは、茉莉華の提案だった。どうやら、子どもの頃に通っていた幼稚園らしい。その幼稚園がちょっと前に建て替えられたから、ここがいいと決めたのだ。


 実は結婚式もここの教会で挙げている。茉莉華にとって、この教会で結婚式を挙げるのが子どもの頃のささやかな夢だったらしい。


 そんな可愛い一面を、結婚式の最中に教会の牧師さんが暴露していて、ウエディングドレスを着ながら、茉莉華は顔を赤面させていた。

 その牧師というのが、茉莉華が子どもの頃お世話になった園長先生だ。


 というわけで、僕は以前ちょっとだけここでお世話になったから、幼稚園の先生に顔を覚えられていた。


 幼稚園の中に入り事務室へ寄ると、若い女の先生が笑顔でこちらに駆け寄ってきた。


「小鳥遊さんですよね?」

「はい、小鳥遊公生です。今日は妻の代わりに迎えにきました」

「待っててくださいね、華怜ちゃん今呼んできますので」


 先生は奥の教室のような場所へ入っていき、やがて幼稚園の制服に身を包んだ華怜が笑顔で走ってきた。

 僕は少しかがんで、華怜が抱きついてくるのを受け止める。


「おとーさん! きょう、おとーさんがむかえにきてくれたの?!」

「そうだぞー! お父さん仕事早く終わったから、華怜のこと迎えにきたんだ」

「やたー!」


 抱っこしたまま起き上がると、先生が僕を見て微笑んでいた。華怜を見てちょっとはしゃいでしまったから、少し恥ずかしい。


「お二人は仲が良いんですね」

「おとーさんだいすきっ!」


 そう言いながら僕の胸へとほっぺを擦り寄せてくる。僕は嬉しさと恥ずかしさで変な笑い方をしてしまった。


 そうしていると、先ほどの教室から子どもたちが何人かこちらへ走ってきた。たぶん華怜の友達なんだろう。その子どもたちが、僕を指差してくる。


「あ、かれんちゃんのおとーさん?」

「かれんちゃんのおとーさんだ!」

 

 今度は子どもたちが僕へとしがみついてきて、身動きが取れなくなる。


「ゆり組で、小鳥遊さんはちょっとした人気者なんですよ」

「えっ、そうなんですか?」

「華怜ちゃん、いつも小鳥遊さんの自慢してますから」

「せ、せんせ! ばらしちゃだめっ!」


 珍しく華怜が頬を染めながら慌てて、僕の腕の中で暴れ出した。足にしがみついている子どもたちはみんな、それを見てわははと笑っている。


 みんな、華怜のことが大好きなのだ。


「そういえば、今日は子どもたちの将来の夢を紙に書いたんですよ。それを華怜ちゃんは、」

「せんせ! ほんとにだめ! だめだから!」

「ちょ、華怜。そんなに暴れないで」


 足をバタつかせ、せめてもの抵抗をする華怜。


 僕はなんとか必死に抱きしめて、それを押さえつけた。その様子を見ながら子どもたちはまた笑っている。


 その中で、一人の女の子が僕に話しかけてきた。


「かれんちゃんねー、なんてかいたとおもう?」

「えっ、なんて書いたの?」


 思わず僕は質問してしまう。女の子はにししと笑った。


 腕の中の華怜は「わー! わー!」と暴れ狂い、だけど収まりのいい抱き方を見つけてしまったから、僕から離れることができなくなった。


 女の子は、また笑いながらそれを教えてくれる。


「かれんちゃん、おとーさんのおよめさんになりたいんだって!」


 それを聞いて少し顔が熱くなってしまったのが、ちょっとだけ恥ずかしかった。

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