表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/50

39.近代化の波

 五歳になった華怜のお祝いの一環として、いつものメンバーでお花見に行くことになった。城下町の方は桜が満開だからということで、バスに乗って向かうことになる。


 つり革を持ちバスに揺られながら、僕はお花見以外のことを頭の中で思い浮かべていた。それはいつからか起きるようになったデジャブのことで、なぜか今この瞬間もそれが発生している。


 城下町へバスに揺られながら向かったことは何度もあるけど、それが理由ではない気がする。


 考えていると、茉莉華に顔を覗き込まれていた。奈雪さんも、僕のことを心配そうな目で見ている。


「どうしたの、公生くん?」

「あ、うん。ちょっと考え事……」

「もしかして体調が悪いのか?」

「いえ、ほんとに大丈夫です。ただ……」


 僕は迷ったけど、話しておくことにした。茉莉華もデジャブを感じることがあったから、もしかすると同じ気持ちを感じているかもしれない。


 そう思って今感じていることを話してみたけど、茉莉華は首をかしげるだけだった。


「私は、今はそんなこと感じないけどなぁ」

「公生くんの勘違いじゃないのか?」

「そうなんですかね……」


 僕はふと、座席に座っている華怜を見た。窓の外を思いつめた風に眺めていて、本当は来たくなかったんじゃないかと心配する。


 隣に座っている公介くんも、そんな華怜を見て不安そうな表情を浮かべていた。


「華怜、どうしたんだ?」

「ん? なーに?」


 僕が話しかけると、口元に笑顔が浮かんだ。


「楽しみじゃなかった?」

「んーん、たのしみだよ」

「じゃあ、もしかして何かあった?」


 桜を見に行くと決めた時は、ご近所迷惑なほど騒いでいたのに、今は楽しくなさそうだ。


 華怜は窓の外を指差して、またつまらなそうに言う。


「だって、おそとたのしくないんだもん。おなじたてものばかりでつまんなーい」


 そう言われて、僕は窓の外を見た。華怜の言っていることがなんとなくわかった気がする。


 ここ数年、住宅地の方にも近代化の波がやってきた。

 公園はだんだんと無くなっていき、一時期より高層マンションが増えている。


 木造の家を建て替える人たちも増えてきて、昔ながらが失われつつあった。この光景は繁華街の方へ向かえば向かうほど顕著になる。


 華怜を遊ばせるときはなるべく外へ連れて行ったから、おそらく一般的な子供より自然と多く触れている。


 そのせいで、感性が僕たちと似ているのかもしれない。僕も、こういった無機質な風景はつまらないと思うから。


 だけど都市化が進んでも、変わらない風景はある。


 僕は華怜を笑顔にさせるために、それを教えてあげた。


「これから行くところはとっても楽しいところだから、きっとたくさん驚くと思うよ」

「ほんとっ!?」

「ほんとほんと、だから楽しみにしててね」

「うんっ!」


 華怜が微笑んだのを見て、公介くんも小さく笑顔を浮かべた。


「公介くんも、楽しい?」

「うん、楽しい」

「華怜がバスの中ではしゃいだりしないように、見張ってもらっていいかな?」

「わかったよ」


 公介くんは華怜と比べてだいぶおとなしい。先ほどから華怜の隣で固まったようにジッとしている。


 だけどそれは、性格的な部分だけじゃないんだろう。側から見ていればすぐにわかるけど、公介くんは華怜のことが好きなのだ。


 華怜がつまらなそうにしていれば、公介くんは不安げな表情を浮かべるし、嬉しそうにしていれば公介くんも笑顔になる。


 ただ、ちょっと内気なところがあるから、それが華怜に伝わっているのかは分からない。


 やがてバスは城下町付近を走り始め、ピンク色の景色が増えてくる。その頃になると、華怜は窓に手をつきながらはしゃぎ始めた。


「コウちゃんコウちゃん」


 華怜は公介くんの服の袖を引っ張りながら、興奮した面持ちで外を見ている。

顔を赤らめながら「どうしたの?」と聞いた。


「ピンクピンク! ピンクばかりだよ!」

「さくらっていうんだよ」

「さくら? へー!」


 それから先ほどの僕の言葉を思い出したのか、公介くんは意を決したように華怜のことを見る。


「ねえ、カレン」

「どうしたの?」


 チラと華怜は振り向いて、公介くんは慌てて顔をそむけた。僕はそれを優しい目で見守っている。


「バスの中は静かにしないと……」


 茉莉華も華怜の方を見て、口元に人差し指を近付けた。静かにしなさいよという合図だ。それを受け取った華怜は、口元を両手で押さえて首を縦に振る。


 静かに華怜が外の景色を眺めていると、公介くんはホッと胸を撫で下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ