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死後の世界エンジョイ勢  作者: 冥府京の住人
第1章
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第5話 素晴らしき魔術

 門の柵ごしに言い争っていた紅鬼と蒼鬼。それを天使の笑顔で吹鬼が止めた。


「わ、分かったよ。仕方ねぇな……」


「まあ、俺はただ冥府京を守るという任務を執行しただけだがな」


「ふん……」


 正論を言って論破する蒼鬼に、不貞腐(ふてくさ)れた紅鬼はぷいっとそっぽを向く。


「にしても、あんな仲悪い2人の喧嘩を丸く収められるなんてすげえな」


 褒められた吹鬼は、愛想笑いなのかは分からないが先ほどの微笑みを保ちつつ、「慣れていますから」と言った。


「で、どうやって直すんだ? 魔法をつかうのか?」


「ええ、そうです。正確に言いますと修復魔術ですが」


「修復……まあなんとなく分かる」


 その名の通り、物を修復する魔術と捉えていいだろう。

 吹鬼は家の方へ振り向き、手をかざし、一点集中する。やがて家は、地面から湧き出た黄緑っぽい無数の光に包まれ、1つの光の塊になった。


「おお……」


 家の前の道を歩いていた数人の通行人達が、その綺麗さに思わず声を出す。それを見かねたかのように光が薄れ消えていくと、家の姿が再び現れた。


 一見さっきとそれほど変わっていないが、割れた窓は汚れ一つなく透き通った元のガラス窓に戻っており、どうやら元に戻っているようだ。いや、さっきよりも更に綺麗になっている気がする。


  その華麗で盛大なショーに思わず観客達は息を呑み、門の外から拍手をする。

 大きく息を吐いた後、彼女は少し照れつつ、


「まあ、これぐらいはお手の物です」


「そういやさっき、魔術は簡単にできるって言ってたな……」


 彼はさっき初めて吹鬼にあった時の事をふと思い出す。


「ええ、私も最初から魔術が使えれたわけじゃないんですよ。とある偉大なお方から魔術を教わったのです」


「とある偉大なお方?」


「はい。そのお方の名前は大魔術師、アリス様。ほぼ全ての魔術を使いこなせるらしいんです」


 大魔術師という辛気臭い肩書きに月鬼は、壺で何かをグツグツと煮込んでいる怪しげな老婆の魔女の姿を思い浮かべ、一瞬ゾッとする。


「ほぼ全てって、魔術は全部でいくつあるんだ?」


「そうですね……ざっと、1万はあるでしょうか」


「い、1万!? そんなにあるのか」


「そしてアリス様が得意とするのは時魔術と夢魔術。この夢魔術はアリス様しか使える者はおらず、時魔術はアリス様と吹鬼様のみしか使えていません」


 先ほどの通行人が去っていった中、未だに(たたず)んでいる男性が吹鬼に声をかけた。


「あ、あなたはアリス様の……」


「使い魔、マッドハッターです」


 『使い魔』と名乗ったが、 黒いシルクハットに執事っぽい黒スーツ。方眼鏡が似合う烏のように真っ黒の彼に、使い魔という雰囲気は1つも無い。


「この人があの……」


「別に使い魔というだけで、大したことはないのですがね。ん、そちらの方は……?」


  アリスという人は相当有名なのか、紅鬼と蒼鬼に小さな緊張が走る。そしてマッドハッターは自分を謙遜した後、質問する。


「えっと、新しく冥府京で住むことになった月鬼です。偉人ではないんですが記憶を失ってしまったんで……。月鬼という名前も閻魔様に貰ったんです」


 慣れない敬語でぎこちなく自己紹介する月鬼。その自己紹介に、マッドハッターは動揺する。


「月鬼? まさか……」


 記憶喪失という部分に、彼は引っかかったが、疑問に思う月鬼に対して「いえ、なんでもありません」と言葉を返す。


「この冥府京を、ぜひとも楽しくお過ごしください。では私はこれで」


 とても丁寧な締めの言葉を送ったマッドハッターは、何かの魔術を使って光に包まれ、消え去って行った。


「じゃあ、俺達も見回りに戻るか」


「無駄に時間を使ってしまった」


「それではまた」


 ピリピリとした緊張が解けた彼らも、散り散りに去っていく。

 やっと1人になれた月鬼は、綺麗になった家のドアを開け、すぐさま2階へと直行する。

 2階にあるのは寝室で、何故か疲れた彼はベッドでぐたりと倒れ込んだ。

 部屋の中は不気味なほど静かで、彼はすぐさま眠りについた。

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