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死後の世界エンジョイ勢  作者: 冥府京の住人
第1章
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第4話 赤鬼青鬼

「紅鬼さん、戦い始めると周りが見えなくなりがちだからなぁ。また何かやらかさないといいんですけど……」


 吹鬼のその予感は、外れてはいなかった。2階に上がった紅鬼と罪人。2人の戦い方は実に激しく、そこら中に剣の切り跡が付いてしまっている。

 その荒れ様は、新築というのは無理があるほどだった。


「うおりぃやああぁぁーっ!!」


 二刀流の紅鬼は、受けの体勢をとった罪人に何度も力強く斬りかかる。最初は剣で刃を防いで耐えていた罪人だが、やがて耐えきれずになって大きく怯む。

 そこに真っ直ぐと罪人へと剣が向かう。

 紙一重のところで罪人は避けた。が、避けきれず右腕を切り裂いた。


「ちっ、避けられたか」


「ヘヘッ、危ねぇ危ねぇ……」


 彼の傷口からは血が流出し、腕を伝って床に2、3滴落ちる。

 少し危機感を覚えた罪人は、後ろにある窓をちらりと見た後、再び紅鬼とじっと目を見合う。


「……逃げるが勝ちだぁ!」


 隙を見計らった罪人は、窓に背中から体当りし突き破って見事地面に着地。落ちてくるガラスの破片を回避しつつ、一気に庭の門まで走り抜けた。


「く、しまった!」


「ヒャハハハハッ、ここで消されてたまるかよ! 暴れ倒してやるぜぇ!!」


 門の扉をよじ登り、完全に外に出た罪人を紅鬼は追おうと窓に身を乗り出すが、高いのが苦手なのか怖気ずいてしまう。

 一方、玄関から出た吹鬼は、罪人の背中を狙って手をかざす。が、すぐにそれをやめた。


「──それは不可能だ」


「あ? なんだてめぇ」


 逃げようとした直後、突然見知らぬ男に偉そうな口調で話しかけられ、彼はつい眉を寄せる。が、その男のとあるものがあることに気づいた途端、彼は焦燥する。


「角……まさか、戦鬼団か!?」


「そう、俺は戦鬼団のリーダー、蒼鬼(そうき)。お前達、罪人が一番嫌っている者だ」


 キリリとした眉毛に天色(あまいろ)の瞳。そして紺色の髪の彼はそう名乗る。

 その彼からは、どことなく見たことがあるような雰囲気を醸し出していた。

 一方、2階から急いで下りてきた紅鬼は、玄関の扉を蹴飛ばし開けて、風のような速さで月鬼と吹鬼の横を走り抜けて門まで向かう。


「蒼鬼、そいつは俺の獲物だぁ! 手を出すんじゃねぇぞー!」


 という、蒼鬼に対しての紅鬼の呼びかけに罪人はニヤリとほくそ笑み、


「だってよ……じゃあな、リーダーさんよぉ!」


「……お前のほうが、な」


 罪人は蒼鬼の前を横切ろうと、警戒しつつ身体の向きを変え、右足を大きく前に出す。しかし、その右足が地面に付いた途端、罪人の身体は足からドサリと前に倒れた。


「ぐ、ぁ……なんだ、これ……」


「俺の剣がお前の身体を貫いたんだ」


「なんだ、と……?」


 にわかに信じ難いことに、いつの間にか蒼鬼の剣は(さや)から抜けていた上、彼の言う通り罪人の腹には横一文字(よこいちもんじ)の切り跡があった。

 だが、さっきのように傷口から血が流れ出ることはない代わりに、腹から背中にかけての部分から徐々に身体が消えかかっているのだった。


「き、消える、身体が消えていく……!」


「それを覚悟して地獄から冥府京まで這い上がってきたんだろ? だったら大人しく消えるがいい」


 苦しみ悶えながら消えていく罪人に、蒼鬼は冷淡な最後の一言を残した。

 罪人は「あぁぁ……」と何かを後悔して、後悔して、後悔しまくっているように、うめき声を上げる。そして身体はサラサラと光の砂と変化して、どこかへと去っていった。



「……おい、そいつは俺がやるって言ったよな? なんでお前が先に消すんだよ!」


「お前が玄関からここまで走ってやつを消すより、目の前にいる俺がやつを消すほうがよっぽど早いと判断しただけだ」


 2人とも眉間にシワを寄せながら言い合う。同じ戦鬼団というのに、なぜこうも仲が悪いのか疑問に思った月鬼は吹鬼に質問した。


「なぁ、あの2人とても仲が悪そうだけど、どういう関係なんだ?」


「紅鬼さんと蒼鬼さんは双子の兄弟なんです。しかし、性格が見事なことに合わなくて、今まで意見が合ったことは1度もありません」


「えぇ、本当に双子なのか……?」


 双子はよく憧れるような存在のはず。だが、それはあくまで仲がいい双子の場合だ。この2人のように仲が悪いと、むしろ嫌になってしまう。



「にしても、あんな戦い方は流石にないだろう。新しく来た人の家を荒らしたうえに罪人まで逃がしかけたじゃないか」


「あ、あの! 家なら私が元に戻します!」


 いつまでも喧嘩する2人の中に、タイミングを見た吹鬼が仲裁に入る。そして、「それに」と前置きし、


「罪人も蒼鬼さんがやっつけてくださったのですから、一件落着ですよ」


 たしなめることなく、ニコニコと微笑みながら語りかける吹鬼に、2人はつい気が緩む。あんな彼らの仲を容易く和らげる彼女は、いろんな意味で天使と言っていいだろう。

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