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死後の世界エンジョイ勢  作者: 冥府京の住人
第1章
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第3話 新生活の最悪な始まり

「死()()界から消されたくなかったら、今すぐ地獄に帰りなさい!」


 月鬼の身体に向けられる手。そこにはジリジリと小さなエネルギーが少しずつ集まってきていることが、彼にも感じれた。


 ──やべぇ、詰んだ……


 ここから逃げるか説得する、もしくは地獄に行くことぐらいしかできない。

 いや、もし仮に逃げたところですぐに殺られるだろう。

 ここは説得しか……だがその時、どこからか声が聞こえた。


「やめろ、吹鬼(すいき)。そいつは罪人じゃねぇ」


 振り向く少女──吹鬼の見る先には、たくましい体つきの青年が、通行人達の前に立っていた。

 その青年の腰には、上着を巻き付けていて、剣を2本も差している。

 そして、彼にも1本の角が生えていた。角は先が割れていて、中からは紅色の真新しそうな角が見えている。

 多分この人が、さっき閻魔が言っていた紅鬼という人だろう。


「あんた月鬼ってやつだよな?」


「ああ、そうだが……」


 その問いに、戸惑い気味に月鬼は答える。一方、吹鬼は仰天し手を素早く月鬼から放す。


「もしかしてこの人、鬼人族なの!?」


「いいや違う。月鬼という名は、閻魔様がお付けになられたんだ。まぁとりあえず、事情は後にして……今はそいつの案内のほうが先だ」


 『そいつ』に紅鬼は、「ついてこい」と言わんばかりの表情で月鬼を見たあと、歩き出す彼の背中に月鬼はついていく。

 そして周りの通行人達は何も無かったのように動き出し、さっき通りの様子に戻った。



「もう既に知ってるかもしんねぇけど、俺の名は紅鬼。(くれない)の鬼って書いて紅鬼だ」


 彼は歩きつつ、手短に自己紹介をする。黒地に炎のイラストが入ったTシャツに、赤い目と髪。名前の通り、赤鬼のような見た目だ。


「にしても、冥府京に行かしてもらえるなんてついてるな。たしか記憶をなくしたんだって?」


「ああ、原因は分からないけどな……。こんなことよくあるのか?」


「いえ、数十年も閻魔様に仕えていますが、こんな事例は初めてです」


 性格似ていて話しやすかったのか、 2人は元から知り合いだったかのように馴れ馴れしく会話する。

 その中に、一緒についてきていた少女が警戒気味に割り込んだ。


「そういや、お前と紅鬼はどういう関係なんだ? 親子?」


「私と紅鬼さんは、どちらとも戦鬼団に入っているんです。決して親子という関係などでは……」


 冗談で言ったのを間に受けて、吹鬼は否定する。"戦鬼団”について質問しようとしたが、それを紅鬼が予知したかのように先に答える。


「戦鬼団っていうのは閻魔様が結成した騎士団みたいなもんで、地獄から這い上がってくる『罪人』を退治するために作られたんだ」


「さっき言ってた『罪人』ってそれのことか……」


 会話が終わった時、紅鬼の足が止まる。と共に、月鬼と吹鬼も足を止めた。

 そして前を向くと、広い庭があり2、3階ほどまである立派な一軒家が建っていた。その豪華な家に、月鬼は思わず目を見張る。


「着いたぞ。ここがお前ん家だ」


「え、もしかしてこれ俺の家なのか?」


「ああそうだ。不満か?」


「いや、寧ろ大満足だぜ……」



 家の中は無駄に広く、基本的な家電製品は揃っている。それだけだとまだいいが、意味不明な形の器具や見たことない家具も置いてあり、とてもではないが不気味だ。


「さっき大満足って言ったの訂正。ちょい満足だ」


「ははは、まあそのうち慣れると思うから、心配すんな」


 と紅鬼は他人事のように笑って済まし、玄関口に背を向ける。


「それじゃあ俺達は街を見回ってくるからなー」


「ああ、ありがとな!」


 こう素直に、「ありがとう」と言える。そんな自分に、彼はすこし違和感を感じる。

 月鬼は紅鬼達を見送ろうと1歩踏み出したその時、吹鬼がパッと振り返る。


「待ってください!」


 すこし冷や汗をかく吹鬼は、月鬼の後ろの家具の影を見ながらこう言った。


「この不穏な気配……そこに罪人がいます!」


「えっ!?」


 一同がその家具の方へ振り返るとその影から、とても鋭利な剣を逆手に持ってギロリと不気味な目をした、『罪人』が出現する。


「ちぇっ、バレちまったかぁ……。まぁ昼間から暴れるのも悪くはねぇかなぁ!!」


 ドタドタと大きな足音を1歩ずつしっかりと鳴らしながら月鬼に走り近づく。


「俺の剣の餌食になるがいいッ!!」


「──ッ!」


 大きく振りかざされた剣の軌跡(きせき)がゆっくりと見え始めたと思ったら、真っ直ぐと月鬼の身体へ目指し斬り込まれる。

 その瞬間に、死んだ。──そう月鬼は思い込んだのだった。

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