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普通ありえない世界

友人のT君は言いました。

『男少なかったらハーレムできるよな』


そんな頭悪そうな一言から始まった話です。

 その日、朝起きて僕は何か違和感を覚えた。


 具体的に何がおかしいとか、そう言う事は分からないけれど、何かがおかしかったのだ。


 いつもより部屋が片付いている気がするし、もしかしたら母さんが掃除をしてくれたのかもしれない。

 きっとこれだ。


 寝ぼけ眼を擦りながら自室から出る。トタトタと、いつもより軽く感じる音を聞きながらリビングに向かった。


「おはよう弥生」


 リビングの扉を開き、いつも僕より早く起きて朝食を食べている妹の弥生に挨拶をする。

 1つ、小さな欠伸をした。

 

「……!」


「弥生?」


 おかしい。いつもなら元気一杯に、と言うよりも暑苦しいくらいな挨拶を返してくる妹が挨拶を返してこない。


 昨日何か機嫌を損ねるようなことをしたか?


 この前のプリン?いや、あれは僕が高いやつを買ってくることで収拾がついた筈だ。

 だとしたら、アイスかな?昨日僕が食べたアイスが最後の一個だったのかもしれない。

 いやでも…、


「…ごめん、僕何かしたかな?」

 

「……!」


 これは、本格的にまずいかもしれない。


 今まで僕が弥生の機嫌を損ねるような事をしても、基本的にガン無視を決められることはなかった。

 二言目には必ず何か恨み言を返してくるし、返事はしないまでも明らかに『不機嫌ですよ』と、言った感じに睨んできていたのだ。


 …まさか、これが噂の反抗期だろうか。弥生も中学二年生だし、そう言う年頃なのかもしれない。

 段々反抗的になって行くとも聞くし、ある日突然、なんてことも聞く。

 でも別に、今の弥生の様子は反抗期と言う感じじゃないし。


 うーん、分からない。


 …はっ!まさか、これが中二病?思春期の少年少女達が発症するというあの病?

 急に孤高を気取ってみたり、無口キャラを作ったりなんてことも聞く。


「…おにい…ちゃん?」


「うん、お兄ちゃんだけど?」


 良かった。どうやら弥生は反抗期と言う訳では無いらしい。まだ中二病の線は否定できるラインまで達していないけど、ひとまず安心。


「本当の本当に?」


「うん、本当の本当の本当に」


 安心?

 いや、もしかしたら安心できないかもしれない。

 どこか弥生の反応がおかしい。


「僕が弥生のお兄ちゃんなのは、今に始まったことじゃないだろ?どうしたの?」


「いやっ…でも、えっ?」


 愕然とした表情をされた。なんだろうか、虚無感というか、何というか。


「今日は…機嫌いいんだね?」


「機嫌いいって、別にいつも通りだし、寧ろ弥生の方が不機嫌なんじゃないの?いや、別にそうじゃないんならいいんだけど、てっきり僕が何かしたものだと」


 また、凄い表情をされた。


「一応、ごめんね?」


 僕が何か勘違いしているのかもしれないし、一応謝っておく。

 弥生は怒ると怖いから。


「えっ…私、明日死ぬのかな…」


 自分の分のトーストを焼きに行く途中にそんな言葉が聞こえてきたが、そいつはきっと空耳だ。


「えっ、いやお兄ちゃん私がするよ!」


「いいって、トーストぐらい。子供じゃないんだから」


「やっぱり私…」


 そう言ってから、なぜか弥生は固まって動かなくなってしまった。


 やっぱり機嫌が悪かったのかもしれない。


*****


『昨日、○○県○○市の高校教員が男子生徒にセクハラをした疑いで逮捕されました』


『前月起こった男子高校生強漢事件の犯人が…』


 いつものように半分眠りながらトーストを食べていると、テレビからそんなニュースが聞こえてきた。


 男子生徒にセクハラ?高校教員が?いったい、どこの層に需要のある話なのだろう?

 それに男子高校生強漢事件だって?


 珍しいこともあるものだな、なんて思っていたら2階から階段を降りてくる音が聞こえた。

 たぶん、と言うか間違いなく母さんだろう。


「おはよう母さん」


「おはよう、やよ……えっ?」


 リビングの扉を開けると同時に挨拶をしたら母さんにも弥生と同じような顔で見られた。


 いや、本当に僕が何かしたのだろうか?


「…むー…くん?」


 むーくん、というのは如月睦月、僕の愛称のようなものだ。


「おはよう母さん」


「えっ、むーくん、もう一回お願い」


「おはよう母さん」


 暫くの沈黙が続く。弥生もさっきから微動だにしていない。おまけに母さんまでも目を見開いたまま動かなくなってしまった。

 どうしたものかと、トーストを齧っていると不意に母さんの頬に涙が軌跡を描く。


「…むーくんが、母さんって…、むーくんが母さんって言ってくれた…」


 訳のわからないことで感動された。


「ごめん母さん、僕何かしたかな?」


 と、聞いてみても母さん的にはそれどころではないようで、どういうわけか両頬をつねり始める。


「ちょっ、母さんなにやってんの!」


「ごめんね母さん嬉しくて、まだ夢の中にいるんじゃないかなって思っちゃって」


 わけがわからない。


 僕はいつものように妹に挨拶をして、母さんにも挨拶をしただけなのに。返ってきたのはいつもとあまりにも違い過ぎる反応。


 なにが起きているのか、わからないのは僕だけだろうか?


*****


 あれから、まだ登校時間までは余裕があるため自室で色々調べてみた。

 男子高校生強漢事件の事だとか、男子生徒へのセクハラ事件とか。


 結果、分かったことがある。


 ここは男女の観念が180度とちょっと回転してしまった、あべこべの世界。

 そんなことあるわけないと思っていた『不思議な世界』に迷い込んでしまったらしい。


 もっと詳しく調べてみる。


 歴史学的に明らかになっている事実なのだそうだが、この世界では太古の昔、ある時期から男性の減少が見られるようになったらしい。

 原因の究明には至っていないようだが、生物の進化の過程における自然減少説、極端に男性に感染しやすいウイルスや細菌説など、ある程度の仮説は立っているようだった。


 当然、女性の数に対して男性の数が少なくなってくると、男性は次第に優遇されるようになっていく。

 仮に、生物の進化の結果として人類が両性具有種になろうとも、その途中の段階では子孫繁栄のために男性の存在は不可欠なのだ。


 僕の知っている世界とは男性と女性の立場は完全に変わってしまった。仕事に出て、家族を養うのは母親の役目。だが、子育てをするのが父親というわけではない。

 基本的に、男性は書類上で婚姻関係を結んでしまえばそれ以上何かを課せられることはない。

 勿論、男女比や性別の観念が変化してしまったとしても『愛』の概念が消えることはなく、男性が愛するパートナーとの子供の子育てをするというのも珍しいことではないようではあるが。


 それと、この世界で男性は女性に対して嫌悪的な感情を抱きやすいらしい。

 尤も、生物学的根拠があるわけではなく、ただそう言うのが『当たり前』、言わば常識になってしまっているようだった。


 勿論、僕がこの世界に迷い込むまでこの世界の僕も例外ではなく、弥生や母さんに対して酷い態度を取っていたようだ。


 なるほど。2人がああなってしまったのも頷ける。


 さて、ここで問題である。


 僕はこれから学校に向かいます。


 さあ、どうなるでしょう?

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