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序章7.開眼

「ん、うん」


 まどろみの中にある菜乃花は全身が幸せに包まれていた。愛する人と結ばれてこうして抱きしめられながら眠りにつけるということ。


 二人っきりでなかったのは残念だが、まあ今は言うまい。とにかく5年間の片思いがようやくかなったのだ。

 そうして夢の中抱きしめられている才の胸を撫でる。と、むにっという感触が菜乃花の手に伝わる。


「ん? むに?」

 不思議に思い、わずかに目を開けると、そこにあったのは……。


「っぇえええええええええええええええええ!」


「な、なんだ、何が起こった?」

 離れたところで横になっていた才も立ち上がる。


「どういうことよっ! なずなはわかるよ。わかりたくないけど、まあわかった。うん。我慢した、わたし。だけどちょっと待て!」


「どうしたんだ。うるさいなぁ」


「なんで、アンタまで裸で寝てるんだっっっっ!!」


 そう、同じく一糸まとわぬ姿で寝転がっていたのは石崎リサ先輩である。


「し、しかたないだろ。だっておまえら、ぼくがいるってのに、あんあんぎしぎし。あてつけか。大体最後っていうなら……僕にだって権利があるだろ。別に才君のことは嫌いじゃないし……」


 最後の方は頬を赤らめてごにょごにょとリサは言った。


「もじもじするなっ! なんなんですか。ってか、才っ! あんたねえ」


「いて、痛い。引っかくな!」


「なんでどさくさに紛れてリサ先輩ともしてんのよ。最悪! バカっ」


「……嫌いになった?」


「ちょっとだけ」


 と言うわけで嫌われてしまったらしい。


「でもよかったです。最後にこうして好きな人と一緒にいられて」

 やわらかく才の手を握りしめながらなずなは言った。


「もう思い残すことはないくらい、幸せ、です」

 下腹部をなでながら、なずなは微笑んだ。


「まあ、そうだけどさ。私だって幸せだよ。だって5年間の片思いがやっとかなったんだから。だけど、う~~。っていうか……」


 と、何かに気づいたように菜乃花はあたりを見回す。


「どうしたんだ?」


「時間。けっこうたったと思ったけど……まだ大丈夫みたいね」


「そういえば……」

 たしかにしばらく眠っていてしまったし、三時間くらいとっくに立っていると思ったが。まあ思っていたより眠っていた時間が短かったのかもしれない。


「ってな、どういうことだ!」

 震えながら言ったのはリサだった。左手で胸を隠しながら、右手の上には懐中時計が浮いていた。


「この世界に入ってからもう五時間以上経過してる」

 懐中時計を見つめながら、リサはそう言う。


「どういうことですか? だって3時間しかいられないんじゃ」


「わからない。苦しいとか体に影響があるようにも感じられないし。っていうか、むしろ」

 リサは軽くジャンプしながら言う。

 そして右手の懐中時計をしまうと、右手を壁に向ける。


「はっ!」

 思いっきり右手を壁に向かって突き出すと、衝撃波が発生して、円形に壁にひびが入り、えぐれていく。


「……やっぱりだ。ステータスが上がってる?」


「たしかに私も体の調子がすごいいいっていうか」

「わ、わたしもです」


「え? ええ? 俺は何ともないけど」


 三人のように体を振ってみたり攻撃を繰り出してみたりするが、才の体にはなんの変化もない。だが三人のステータスが上がっているという。とはいえ、3時間のリミットを超えても四人は生きているのだ。ステータスもそうだがそちらも異常。何らかの奇跡が起こっているのか。


「わか、ったかも」

 そうしていると菜乃花は才を見つめながら言った。


「才、ちょっと来て」

「え? え、なに?」


「試すの……」


 と言うわけでいきなり奥に連れてこられる。


「ちょ、なに、ちょ、え? あ―――――――――ッ!」

 1分経過。


「早いお帰りだな」

 戻ってきたのはげっそりとする才と元気満々な菜乃花である。


「本当に……」

 とかいって菜乃花は才を見てくる。いたたまれなくなって才は視線をそらす。


「と、そんなことはどうでもよくて、わたしたちの力が上がった理由がわかりました」


「なにっ! それはなんなのだ」


「才とエッチすると、ステータスが上がります!」

 ドンっと胸を張って菜乃花は言う。というか服を着たほうがいいのでは。


「ほ、本当か! ちょっとこい、才くん」


「え? ちょ、勘弁してください。無理ですってもう、もうむ、あ――――――っ!」

 というわけで余計げっそりとした才と元気いっぱいのリサが戻ってくる。


「うん。才くんに抱かれると強くなれるようだ」


「ほ、本当なんですか。なら、わ、わたしももう一回試してみたいかな」

 ちらりとなずなはねだるように才を見つめてくる。


「も、もう……」


「そうですよね。私なんか……」

 うるうると瞳をうるませてなずなは言う。


「地味だし、ブスだし……スタイルもよくないし。こんなわたし、抱きたくなんてないです、よね。ごめんなさい。変なこと言って! わぁあああー」

 とか言いながらさめざめ泣き出す。


「そそそそ、そんなことないぞ。なずなは可愛いしスタイルだっていいだろ」

 

 むしろリサは子供体型だし、菜乃花は貧乳だしで、ある程度肉付きもあっておっぱいも大きいなずなは健康的な体系と言うか、ナイスバディではないかもしれないがスタイルだって全然悪くないのだ。


「本当ですか!」

 と、いきなり目をキラキラ輝かせだす。


「あ。う、うん……」


「じゃあこちらに」

 にっこりとほほ笑んで暗がりに連れて行かれる。


「っていうかさ、もうそういうことじゃなくて物理的に無理と言うか。あう、ちょ、あ、あふん。やめ、あ、あ、ア―――――――――――――――ッ!」


 そうして真っ白に燃え尽きた才と上機嫌ななずなが戻ってきたのである。



「よし状況を整理しよう」


 いつの間にか服を着込んだ三人は作戦会議を開始する。ちなみに才は真っ白に燃え尽きて裸のままうずくまっている。


「ぼくたちは才くんとエッチするたびに強くなる」

 リサの言葉に菜乃花となずなもうなずく。


「自分のステータスを見てみた。僕の今のレベルは328……。さっきまで、才くんとエッチする前までは128だった。きみたちもレベルが上がった今なら自分のレベルがわかるはず」

 言われて二人は自分の体に意識を集中させる。


「ほ、ほんとだ。私のレベル、239になってます!」


「わたしもすごい上がってる! レベル347だ」


「あれ?」

 にこにことほほ笑みながら、なずなが首をかしげる。


「どういうことでしょうか? 菜の花さんのレベル。上がり方がおかしい気がするんですが」


「……たしかに、元のレベルが100越えと言うことはありえないだろう。上がり方に個人差があるのか?」


「あー。そういえば」

 ポリポリと頬をかきながら菜の花は言う。


「わたしたち寝る前2回しちゃった、かも」


「へ? どどど、どういうことですか!」


「だ、だから、なずながした後にもう一回したというか」


「ずずず、ずるいです。才くん!」

「ふえ、はい!」


「ちょっとこっち来てください」


「な、なになに。ま、待ってくれ」


 必死に抵抗するが、ヒーラー職とは言えレベル200を超えた彼女の力に対抗できるはずもなく、ずるずると才は引きずられていく。


「もうこれ以上は。死ぬ。うぅ。うあ。あふん。あ、あ、ア―――――――――――ッ!」



「やっぱりそうです。私のレベル、339になりました! 一回ごとにレベルが100上がるみたいです」


「す、すごい」

 戦慄しながらもリサはつぶやく。


「すごいぞ……これはいける。実は、元の世界に帰るのは不可能だと思ってた。なぜなら宝玉は魔王が手にしているからだ。だけど、才くんがいれば……」


「そ、そうだよ。だって100回エッチすれば、レベル10,000でしょ!? 魔王だって倒せるよ。それに、待って。100回か。一日10回はするとして……」


「ちょっと待ってくれ」

 不穏な言葉を聞いた気がして、思わず才は菜の花の言葉を止める。


「一日、なんだって?」


「一日10回ずつすれば10日でレベル10,000だよ!」

「殺す気か!!」


「なんで? だって、今日だって、私と3回でしょ、なずなと3回、先輩と2回だから8回もしてんじゃん。あと2回すれば10回。これを毎日やればいいんだよ。がんばろうよ」


 不可能だ。だいたい8回できたのも、もうこれで死ぬかもしれないって言うテンションのなせる業だし、初めてだったというのも大きい。というわけで毎日コンスタントに同じく8回やまして10回もすることなどできやしない。


 もげて死んでしまう。


 というわけで、わかっているのかいないのか不思議な顔をしている女性陣に才は男性とはどういう存在であるかを必死にレクチャーする。



「ま、まあ。才くんを無理させてまですぐに地球に帰らなくてもいいんじゃないですか? それにレベル10,000もいらないかもしれないですし。一人1日1回ずつ、100レベルずつレベルアップしていくというのはどうでしょうか?」


 何とか納得してくれたらしい。それでも1日3回だが。


「それが現実的かもね。ただ、なんで僕らが3時間経っても生きていられるかってことはまだわかってない。才くんの能力のおかげなのかもしれないけれど……だとしてもあまりのんびりはしていられない。なるべく早く宝玉を取り返して地球に帰ろう。それに……」


 ギュっとリサはこぶしを握りしめる。


「敷島先輩たちのかたきを、絶対に討つんだ」


 そう、だった。


 もう優に3時間は経過しているのに、敷島たちは帰還していない。おそらく、もう……。

 殺されたのだ。


 敷島も浅間も千代田も……そして、鈴谷も。


 4人が死んだ。死んだのだっ!


「く……」


 甘く見ていた。どことなく非現実的にとらえていたのだ。ゲームの中にいるかのような感覚。部活動だなどと言って遊び半分に捉えていた。


 だが、違うのだ。死ぬ、のだ。


 現実。これから、魔王軍と、あの圧倒的存在と戦い、勝たなければならないのだ。


 死ねば、……次などない。死ぬ。この世から、消えるだけだ。


「3人は絶対に死なせない……」


 才は静かに、確かに決意した。



 そうして彼ら4人の本当の闘いが始まったのだ。


序章はこれで終わりです。

才くんのスキルも少し判明したところで次回から本編です!

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