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序章5.魔王降臨

「ぐ。っ。う、才くんっ!」

 すぐさま淡い光に包まれて、才の体が回復していく。


「……かはっ」

 血反吐を吐き散らしながら、立ち上がる。


 大丈夫だった。問題ない。起き上がれる。


「あの攻撃……」

 雄一を一撃で仕留めたあの暗黒の光でなければ才の身体能力でも一撃ならば防げる。


「なら……」

 死なない。防ぐことはできる。


 死ななければなずなの魔法で体を回復できる。


「ちれっ! 絶対にあの光の攻撃だけふせ……が!」


 乱暴に鬼武者が腕を振るうだけで、脆い紙細工のように才の体はえぐれた。


「ぅあああああああああああああああああっ!」

 涙を流しながら菜乃花が鬼武者に突っ込む。


「やめろっ!」


 すんでのところで才は菜乃花の体を抱きしめる。そのまま転がるように地面に落ちると、たった今彼女がいた場所が暗黒の光で破壊された。


「っ! あ……」

 倒れこんだ菜乃花を鬼武者は乱暴にけりつける。


「がっ!」

 体は衝撃で浮き上がり、8メートルほど後方のカベに激突してぐしゃりと落ちる。


「ごほっ、う」

 せき込みながら菜乃花はうずくまる。


「な、菜乃花さん」


 すぐさま回復魔法をかけるが、菜乃花はうずくまったまま動かない。いや、がたがたと震えていた。


 当然だった。


 ある意味では当然の反応。この圧倒的戦力を目の当たりにすれば、そうなって必至。あるいは考えをすべて捨て、盲信し愚直に突っ込む特攻隊になるしか。


 とはいえ、これは、最新鋭の戦車に生身で突っ込むような愚行。


「……くそ」

 殴りかかる才の顔面を、つまらなそうに鬼武者はくだく。


 そのまま地面ごと抉り取って才の体は空中に放り出された。


「才くんっ!」

 その体がなずなに受け止められる。瞬時に回復魔法がかけられるが、回復できないなにかが圧倒的に才の体から抜け落ちていくのが知覚できた。


「あ、りがとう。まだいける」


「も、もうやめ……て。む、無理だよ」

 ボロボロと涙を流しながら、なずなは言う。


「先輩たちが来てくれる」

 それまで、耐えきれば……。


「無理だよ。だって一時間もっ!」


 戦闘開始から、何分たった? 無限にも感じられるその地獄のような時間だが、おそらく5分、いや、3分? もしかしたら1分ほどもたっていないかも。


 そんなことわかってるのだ。無理だということくらい。


「菜乃花を連れて逃げろ……」

 血反吐をぬぐいながら、才は言う。


「い、いや」


「このままじゃ全滅だっ! 逃げろ、お前らだけでもっ!」


 なずながいなくなれば鬼武者の攻撃を防ぐすべはない。


 だがこのままではあと数分も持たずにどちらにせよ絶滅する。ならばせめて生存者が多いほうがいい。


「だめっ! 最後まで私も戦う」


「なんでだよっ! 無駄死にするだけだ」


「好きだからっ!」

 大声でなずなは叫んだ。



「え?」


 涙をこぼしながらも、才を見つめて、それを。


「だからいけないよ。逃げるなんてできない」


「……っ!」

 だから、才はもう一度鬼武者に向き合う。


 二人を助けるためには、一時間防ぎ続けること、しか……。


 そこまで考えたときである。鬼武者の右手が才に向かって掲げられた。


「な。しまっ……」

 光が、射出される。よけきれないっ!


 が、光は才の体をかすめてはるか後方へと消えていく。その体が倒されていたのだ。

 菜乃花だった。彼女が渾身の一撃を鬼武者の顔面に叩きこみ、それで鬼武者の体制が崩れたのだ。


「なずなに、先、越されちゃったね」

 わずか震える中に笑顔をこぼしながら、涙を浮かべて菜乃花は落とす。


「わたしも、大好きだよ」


「っ!」


 思わず才はこぶしを地面に叩きつけていた。かたい鉱物で生成されるその地面はそれで簡単にえぐれた。弱いとはいえ、それだけの力はあった。


 だが、無力だった。おそらくその数十倍の戦力を持つ菜乃花のそれも、同様に。


 そして、鬼武者が立ち上がり、三人に近づいてくる。


 当然、菜乃花の渾身の一撃は、無傷。ダメージを一切与えていない。


 だけど、だからこそ。

 助かりたいっ!


 三人で、また……。


 神に願うように乞う。


 だけど、それはまさに奇跡。

 一時間耐えきることなど、どう計算しても奇跡。いや、不可能としか。


 鬼武者はコキコキと首を鳴らしながら近づいてくる。そして、その『左手』が光る。


「な……」


 まばゆい光が周辺を支配し、そして、目を開けると、血反吐を吐き散らしながら後方へと飛ぶ、鬼武者の姿があった。


「あぁ……」

 あったのは四つの影だった。


「くそ馬鹿ども。反省文じゃすまないぞ」

 上級生たちである。


「よく、耐えた」

 だが、敷島はそう言った。


「うぁあああああああああああっ!」


 せきを切ったようになずなが泣き声を上げる。緊張の糸がほどけたのだ。


 当然だった。死んだのだ。一人。

 同じ学校の人間が、今、目の前で死んだ!


「リサ、一年を保護しろ」


「うん」

 言われてすぐにリサが駆け寄ってくる。


「浅間、千代田。戦うぞ」


「ああ」

「一年をいたぶってくれたかたき、うたないと、ですね」


 そう言って、三人が向かう、先。


「な、バカな……。全員止まれ!」

 だが、すぐに制止する。敵の、その姿を見て、敷島が震える。


「魔帝スピルヴィア伯……」

 そう言ったのである。


「魔帝……」

 魔王の配下の、8人の大幹部……。ラスボス一歩手前のバケモノ。


「なぜ、こんな低級ダンジョンに……」


「ゼンイン……」

 カタカタと音を鳴らしながら漆黒の鬼武者は笑う。


「5ビョウデ、ケセテイタ」


 その後ろである、ズズズズと地面を何かが伝ってくる音があった。


「罠だよ」

 次の瞬間、ドシーンと巨大な音を立てて、後方に巨大な肉の塊が落ちてきた。


 いや、全長は30メートルを超えるドラゴンだった。正確には、その亡骸。


 その先である。小柄な少女だった。背中に真っ赤にたぎる翼をはためかせながら、一歩ごとに地面をえぐりながら歩いてくる少女だった。その彼女が、今、無造作にドラゴンを投げ捨てたのだ。


「この地の主様にはご退場、いただいてね」


「ば、かな……」

 敷島も戦慄する。


「大魔王アマルティア」

 その名を、呼んだ。瞬間的に空間が終息していくのが分かった。


「あれ、が……」

 ステータスを把握できない才でもわかった。この場の全員が……容易に、破壊せしめられるということを。


 悪い冗談としか思えなかった。3年であれに到達する? そもそもが。最初から絵空事。不可能。人が、神に挑むかのように、絶対的な。


「アマルティア、サマ……」

 魔帝スピルヴィアは左手に持つ宝玉を魔王に向かって放る。宝玉が……。地上に帰還する唯一無二のすべが、わたった。


 最強の、魔王の手にっ!


「なぜだぁああああああああああっ!」

 絶叫するように、敷島が言う。


「言ったろ。罠を張らせてもらったんだ」


「……罠?」


「毎年ここを使うだろ、きさまら異世界の人間軍は。だから張らせてもらったのさ。そして宝玉はわが手にある。調べはついている。これがなければ、きさまらは異世界に帰れん。そして、わずか数時間で絶命する儚い存在であるということも」


 そう言ったのである。


「スピル。帰るぞ」


「ココデ、ケサナイノデスカ」


「宝玉さえあれば、やつらはただのゴミだ」


 そう言ってスピルは頭上に手を掲げる。瞬間、視界をすべて覆い尽くすほどの閃光が立ち上がり、天井をすべて消し飛ばした。


「では、最後の勇者たちよ、さよならだ」

 そう言った瞬間、魔王と魔帝の姿が天に消える。


「な……うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 崩れ落ちた敷島はうなり声を上げる。



「……た、助かったの、かな」

 

 震える声を、菜乃花は落とした。敵は帰った。たしかに命は助かった。


「ああ」


 一時的に、ほんの、三時間ほど、だが……。


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