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序章1.異世界召喚

「もう、何時だと思ってるの!?」


 少年は胸に痛みを覚えて目を開ける。


「ん……」

 すると視界には見慣れた少女の顔だけが映されていた。


「お兄ちゃん! おきられないなら早く寝なさいっていつもマオが言ってるでしょ!」


 少女はわざとらしく、ぷくーとまんぼうのように頬を膨らませてみせる。


「わかってるよ」


 わずかにほほえみながら、少女の頭をぽんぽんとなでながら少年は立ち上がる。

 そうすると少女は少年の腰ほどの身長しかない。まだあどけなさが残る幼い女の子だった。


 彼女の名前は天城真麻。私立小学校に通う五年生だ。少年とは兄妹という間柄になる。


 真麻はぷんっとそっぽをむくと、かわいいパンダのヘアゴムでむすばれたツインテールを揺らした。


「それに、いいんだよ」

「? なにが?」


「だってマオが起こしてくれるだろ」

 そういうと真麻はわなわなと震える。


「お兄ちゃんのバカーー!」

 と、腕を振り回して部屋を出て行ってしまった。


「真麻はいつも元気いっぱいだな」

 そんな様子を見てほっこりしながら少年は服を着込んでいく。


 彼女と出会って三年。ずいぶんと明るくなったものだ。

 そんなことを思いながらブレザーを羽織る。


 少年の名前を天城才といった。つい二日前から市内の高等学校に通うことになったきらきらの高校一年生だ。

 特別イケメンでもなければピザでもない。特別勉強ができるわけでもなければ、運動が得意なわけでもない。いわゆるどこにでもいる普通のうだつの上がらない高校生といったところだった。ただ、普通よりはいくらか幸せだと本人は感じている。


 かわいい妹に毎朝起こしてもらう生活を天国だと評さなければ罰が当たるだろう。


 そんなわけで着慣れない制服をなんとか着込むと、かばんを持って部屋を出る。



「行ってきます!」


「お兄ちゃん、いってらっしゃい!」


 元気な真麻の声を背中で受けつつ、才は外へと飛び出す。

 すると向かいの家、門の前に一人の少女が立っていた。手持ち無沙汰なのかくるくると前髪をいじっている。


「おはよう。菜乃花。待っててくれたのか?」


「っ!」

 才がそういうと少女はカッと頬を赤らめる。


「待ってないし。今出てきたところ、偶然!」


 彼女の名前は松島菜乃花。才とは幼馴染という関係で、お向かいさんなのだ。

 今は高校も一緒で、こうして毎日偶然会って一緒に登校しているというわけだ。


「毎日悪いな。朝は弱くてさ」


「だ、だから、べ、別に待ってないし」

 そういって菜乃花は歩き出す。


「おーい、待ってくれよ」


 すぐさま才も菜乃花に追いつく。


「そういえば今日、部活説明会だっけ? 菜乃花は部活、決めてるの?」


 話題を変えようとそう聞くと、菜乃花は聞こえているのかいないのか、何も答えず、代わりにちらっと顔色を伺うように才のほうを見てくる。


「ん?」


「ま、まだ、決めてないけど!」


 視線が絡み合うと、すぐにごまかすように菜乃花は視線をそらしてぶっきらぼうにそういった。


「そうなのか。てっきりまたバスケ部にはいるかと思ってたけど」


 菜乃花は中学校ではバスケ部に所属していて、チームの中ではエースを張る実力者だった。まあ二人の通っていた中学はいわゆる普通の公立中学で、それほど強豪でもなかったから、エースとはいえ高が知れているかもしれないが、それでも彼女にはいくつか推薦のお声がかかるほどだったのだ。


 神威学園はバスケ部がそれほど有名ではないから、菜乃花ならすぐにでもレギュラーで活躍できるだろう。


「だって……」

「ん?」


「なんでもないよっ! 才はどこに入るの?」

「うーん」


 二人の通う学園はそれほど強い部活動があるわけではないが、それでも部活の多様性は校風として押し出されていて、県内でも有数の部活数を誇る。そんなわけでせっかく神威学園に入ったのだから部活に入らないのは損というものなのだ。


「ぜんぜん決めてないんだよなあ……」


「わ、わたし……才と同じ部活に入ろうかな……なんて」


「え?」


 まあ、たしかに新たに始まった高校生活、新しい人間関係がうまく構築できるとは限らないこの時期。仲がいい菜乃花と同じ部活に入ってしまうというのも、充実した高校生活を送る上で、あんぱいではあるがいい手かもしれない。

 

「菜乃花と同じ部活か……」


「ち、ちが 私、何も言ってない!」

 と今度は否定されてしまった。


「と、とにかく。今日から部活見学始まるし、放課後一緒に行こう。そ、その、偶然! 同じ部活に入りたくなったらそのときはそのときだし!」


「あ、ああ」

 そんなこんなで楽しい学園生活が幕を開けたのだ。






 そんな淡い妄想を抱きつつ訪れた放課後である。


「どういうことだよ、これ」

 今、才の視界には颯爽と生い茂る木々が存在していた。


「才……」

 隣にいる菜乃花が不安そうに才の袖を引く。


「ここが異世界バレンティアだ。君たちにはこの世界を救ってもらう」


 同じく学園の制服を着た筋肉質な男がそう言った。


 森の中には彼らだけではなく計8人の生徒の姿があった。


 今日は芸術系の文化部を中心に見学しようと部活棟に来たところ、いきなり強引に先輩に捕まり、第二生徒会室なるものにつれてこられたのである。


 そして、気が付いたら、こうなっていた。


 状況に、頭が追いつかない。

 いったい何が起こっている。彼はなんと言った?


「この世界には魔王がいて人間と絶えず争っている。そして俺たちはこの世界を救う勇者というわけだ」


「ちょっと待ってくれ。異世界に、魔王って」


「現実だ」


 そういって男子生徒は右手を掲げる。するとそこに炎が現れたのである。


「な……」

 ありえない。


 だが、そもそも教室にいたはずの自分たちが一瞬で森の中にいるのだ。


「まあ自己紹介といこう。俺が生徒会長の敷島耕哉だ。そしてこいつが同じく……」


「三年の浅間連です。よろしくね」

 茶髪の少年がにっこりと微笑む。


「二年五組。千代田奏」

 答えたのはぶっきらぼうなめがねをかける坊主の少年だった。


「ぼくは2年3組。石崎リサだよ。よろしく」

 と、唯一の女子生徒であろう、小柄な少女がそういった。


「われわれ四人が第二生徒会のメンバーだ。そして今年から、この8人で活動することになる」


 そう。メンバーの中には才と菜の花のほかに二人の一年生の姿があった。


「は、八人って、ぼ、ぼくらも頭数に入ってるってことか?」

 わずかにどもりながらそう言った少年である。小太りのパンチパーマの少年だった。


「そうだよ。鈴谷雄一くん」


「な、名前を……」


「君たち四人は入学式で確認させてもらった。おれの特殊スキル『鷹の(イージス・アイ)』でね。毎年、魔力が高い人間を選んでチームに選抜することになってるんだ。それがこの学園の伝統だ」


 魔力。魔法。しかし認めざるを得ないのか。

 

先ほどの炎を顕現させたそれもそうだし、先ほど教室にいたのに一瞬で森に来たのも明らかに物理法則に則る手法のそれではない。説明できない何らかの存在、つまり『魔法』を認めざるを得ないのだろう。


 つまりここが異世界である、と言う現実を……。



「あ、あの」

 陰に隠れるようにしていた女子生徒がおずおずと声を上げる。メガネをかけた地味な女の子だった。


「世界を救うって……その、どうやって」


「我々でこの世界を支配する魔族を、大魔王を討つのだ」


「で、でも、わたし……」

 ぎゅっとスカートのすそを握りしめながら泣きそうな瞳を作る。


 ケンカの一つもしたことがないような存在だった。


「そうだ。べつに俺たちは格闘技をやってるわけでも、運動が得意なわけでもない」


 まあ、菜の花は運動神経は抜群だが。才も中学時代は運動部だったとはいえ卓球部だ。しかもそんなに競合でもないし、楽しくみんなでワイワイ運動するって感じだった。


 見たところ女の子も文化系で、運動が得意そうには思えない。


 もう一人の男子生徒の方も、……運動が得意には見えない。脱いだら筋肉がすごいのかもしれないが……。


「まあ、時機にわかる。リサ」


「んー?」

 と、敷島はぼくっこロリ体型を呼ぶ。


「一年の指導を頼む。おれたちは魔物発生率が上がっているアルギュロス地方に進行する」


「えー。ぼくは、いまさら青銅の洞窟で一年生の子守かよ」


「ああ、いくぞ」

 敷島がそう言うと他の上級生たちもうなずく。そうすると瞬間、3人の姿が光になって空に消えていく。


「な……」


「転移魔法だよ」

 そんな様子を見てリサはため息をつくと、こちらに向きなおす。


「じゃあ始めようか。君たちには闘い方を慣れてもらいたいし。まずはここら辺で一番魔物のレベルが低い、青銅の洞窟に行く」


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