プロローグ
この世界には、カケラが散らばっている。
『かけら』と聞いて……何を思い浮かべるだろう。無難なのは、陶器などの破片だと思う。
でも、別に『かけら』は必ずしも実態を伴ってるわけじゃないんだよ。それを履き違えてる人が多いらしい。
そもそも、欠片自体はそれなりに昔からあったんだろうね。人々の欠片だったり、そうじゃないものだったり、色々。
でも、カケラができたのは……つい最近か。
普通の欠片じゃない。何かを欠かしてしまっているのには変わらないのだけれど、でも――
それはとても小さいけど、とても大きくて――
……まぁ、実際に失ってみればわかると思うよ。カケラを。
このご世代、カケラを失う機会はそう少なくないはずだしね。失いたい人がいるとも思えないけど。
「……いまいち容量を掴まんな。いつものことでもあるが、結局何が言いたいんだ、お前は?」
ん? 言いたい事、ね。なんだろ。
強いて言うなら……警告かな。
既に失ってる僕だから言えるけど、実はこのカケラ、失くしちゃうと結構大変だからさ。思ってた以上に。
ああ、もしかして君、『別に自分なんかどうなったっていい』とか思っちゃってる? そうじゃないことを祈るばかりだけど。
でも、そんな考えは通用しないよ、カケラを失っちゃあね。
カケラに通用しない、というより……彼女に通用しない、という方が正しいのかな。どう思う、大賢者様?
「誰が大賢者だ……さておき、その言い方の方が正しいとは思うが。しかし、巻き込まれる側にとってはどっちにしても同じだろう」
そりゃそうだけどね。でも、それじゃさすがに可哀そうだろう? カケラを欠かされて、自分を欠かされ、大切な者を欠かされ。
……ねえ、それでも何が起こってるか分からないって、君でも可哀そうとか思ったりしないの?
「我にそんなモノを求められても困る。元より、欠品を集めただけの存在だぞ?」
まぁ、そういうことでいいけどさ。
っと。話が逸れてる。何の話だっけ……。
そうそう。カケラを失ったら、その影響はその人だけに収まるわけじゃないってことだよ。
別に個人で収着するんなら、僕だってこんな面倒なことはしてないし。本当に面倒なんだよ。
お前は何をしているんだ、って? やだなぁ、今からそれを話していくんじゃないか。
……つまり、今から誰かのカケラが欠かされるってことさ……。
さ、今日のカケラはどんなのかな。
どうせ今日も、ロクなことにはならないんだろうけど。
そうだろ? 欠片だらけの少女。
……答えてくれないのは知ってるよ。
ま、今日も始めようか。カケラ集め。