つぐない
緩やかな弧を描く白い砂浜に、青年は立っていた。
「アナタのパパさん、死ぬ前に、ぜひとも会いたかった、と言ってたヨ」
父の下で働いていた女性スタッフが、大きな瞳を伏せながら言った。熱帯特有の生暖かい風が吹くたびに、腰まで届きそうな黒髪が細い体に巻きつくように揺れている。
「私も会いたかったのですが、なかなか都合がつかなくて。本当に残念です。そこで、母と話し合った結果、墓の中に入れるよりも、父がなにより愛したこの島に骨を撒くのが一番ではないかと結論を出しましてね。それでやってきたのです。綺麗な、いい島ですね」
「ここがパパさんの故郷に、一番近い場所。だから、きっと喜んでくれるヨ。だってパパさん、島との架け橋になりたい、っていつも言っていたから。ワタシたちのために、身も心も捧げてくれたモノ」
青年はうなずいて、骨を撒いた。白い骨片が、柔らかい波に呑まれて消えていく。
「ろくに話をしなかったせいでしょうか。なかなか死んだように思えなくって」
「そうネ。でも、それでいいと思うヨ。パパさんの骨、サンゴになって、この地で生き続けるモノ」
「ありがとうございます」
青年は、父のスタッフたちと別れて機上の人となった。
遠ざかるサンゴ礁を見ながら、独り言ちる。
「身も心もこの島に捧げた、か。確かにそのとおりかもしれないな。私財を使い果たし、家族を捨て、挙句に愛人まで作っていたのだからな。あの下種に償わせるには、これよりふさわしい方法はないはずだ」
青年は目を閉じ、シートに体を預けつつ、付け足すようにつぶやいた。
「調べたところ、島と故郷が陸続きになるまで、およそ二億四千万年。架け橋になると言った以上、それまでは、決して、成仏できまい」