5.柳の下で
イニッスの村の西の、ウールユーバの森に、村の人々が“首吊りの木”と呼んでいる柳の木があった。
木はさほど大きな木ではなく、森の中へと続く小道を少しばかり行ったところの、小道のそばにぽっかりと開けた小さな草地の端に生えていて、しだれた枝を静かに揺らせ、暑い時期には恰好の涼しげな影を地面に落としていた。
が、昔から、この木の下では、なぜだかよく人が首をくくった。
この木に名付けられた名前を知らぬ者が見れば一見、それは小さな草地の端にぽつねんと寂しげに立っている、普通の柳の木にしか思えない。
しかし、物事を思い悩んで心を痛めている者にとっては、この木には、何かしらひきつけられるものがあるらしかった。
だが、その“首吊りの木”で縊れ死のうとして死にきれなかった者たちも数多くいて、それは、“首吊りの木”には美しい柳の精が宿っていて、その柳の精が、まだ死ぬべきではない者は、再び魂をこの世へと送り返してしまうからだと、人々は噂していた。
ある日の夕方、その“首吊りの木”の下へ、一人の娘――シータ、はやって来ると、何事かを思っている様な表情で“首吊りの木”の青々とした緑を見上げた。
シータはイニッスの村で生まれて、十五になるまで村にいた。そして彼女は二年ぶりに生まれ育ったところに帰ってきたのだが、村にはもう彼女の帰る家はなく、彼女はまっすぐにこの“首吊りの木”の下へとやってきたのだった。
彼女は、“首吊りの木”を見るのは初めてではなかった。しかし、今まで何人もの人間が縊れてぶら下がったという、気味の悪いこの柳の木を、こんなに間近で見たのは初めての事だった。
「…………」
“首吊りの木”はこうして真下から見上げてみると、思っていたより大きなものに見えた。
木漏れ日をきらめかせている枝の緑は、他の柳とどこもかわらない、とても優しげなものだった。
しかし今のシータにはそれが、普通の木の緑よりも、何かよりいっそう、神秘的な力を秘めているようにも思えた。
そしてその緑を見ながら、彼女は思った。
『あれが“首吊りの木”だよ』
自分が八つぐらいの時だったろうか。まだ元気だった頃の両親に連れられてこの森を通りかかった時、他の人達が時々口にするこの木の事を、父親は数えてくれた。
『あの木のところで遊んだりしちゃいけないよ。あの木には森の神様がいらしゃるから』
あの頃は本当によかったな、とシータは思った。父さんも母さんもいて、泣いて帰れる自分の家もあった、と。
(父さん、母さん……)
シータは悲しげに、大きなため息をついた。
(もう、イヤになっちゃった)
(きっと、何をやっても駄目なようになってるのよ。私の人生って。これからだって、ロクな事が無いに決まってるわよ。きっと)
彼女の瞳に、涙がじんわりと溜まった。
そう思いながら見上げているシータの前で、“首吊りの木”の枝は、風にざわりと大きく揺れ、それはまるでシータの思いに何か返事をしたかのようだった。
シータは手に下げてきた太い古びた麻縄を手に取り、縄と、“首吊りの木”を交互に見つめた。そして手にした縄を見つめながら、ここでこんな事をするのではなくて、このままどこか遠くの街にでも行ってしまおうか、とも思った。が、しかし……
(それも駄目に決まってるわよ、きっと)
彼女は再び思った。どこへ逃げていこうと、あの宿屋のごうつくばりの主人は、絶対に自分を捜し出して、またあの淫売部屋に連れ戻すにきまってる。何しろ自分はあの宿の大事な稼ぎ手なのだから。
シータは再び“首吊りの木”を見上げた。
そして“首吊りの木”には、悩める者を死へと引き寄せる力があるという話の他の、もうひとつの話を彼女は思った。
その、もうひとつの話、というのは――“首吊りの木”で首をくくったものの失敗して、死に切れなかった者は、それからは今までの運の悪さがまるで嘘の様に変わって、一生、幸運に恵まれて幸せに暮らしてゆけるようになる、という話だった。
それはいつだったか、村の誰かに聞いた話だったが……。
シータは、隣街の淫売宿から逃げだして、生まれ育った村の“首吊りの木”で死のうかと思った時、その話もふと思いだした。が、彼女はすでに、この先に希望を持っといった事もできなくなっていた。
ましてや人の噂話でしかない幸運とやらには。
十五の時、両親も家も無くしてから、人並みな幸せというものにさえ見放されてしまった様な自分の人生など、もうどうでもいいようにしか、もうさっさと早く終わらせてしまった方がマシなようにしか、思えてはいなかった。
シータは縄の端を、“首吊りの木”の枝へと投げた。
だが、こんな事をすれば、先にあの世とやらへ行ってしまった両親は喜びはしないだろうな、とは思っていた。
しかし、自分だけ一人この世界に取り残されて、これ以上の悲しい目や辛い目に遇うのも、もう嫌だった。
十五の時、母親が“悪い咳の病”だとか亡くなり、それからしばらくして、次には山羊飼いだった父親が、足を滑らせて谷間に落ちて亡くなってしまった。
十四の頃から母親の薬代のために隣街の宿屋で給仕係や踊り子として働いて、父親が亡くなってしまってからは、薬代に貸していた金のかわりだとかいって、客までとらされるようになって、あげくには、舞台から落ちて足を傷めて踊れなくなってしまったからと、まるまる娼婦として働かされるようになってしまった。
親のいない娘だからといって、いいように扱われたものだ。まったく。
(私が死んだら……)
シータは思った。
(“お迎えのともしび”は来てくれるのかしら?)
いや、あれはたしか……
シータは母親が亡くなる少し前に言っていた事を思い出した。
『もうじき母さんのところには、“お迎えのともしび”が来て下さるんだよ』
『“お迎えのともしび”?』
『そうさ』
母親は病床で力なく、しかし微笑んでうなずいた。
『人が定められた寿命をまっとうするとねえ、小さく金に光る姿をした、“お迎えのランタン持ち”さんが、あの世への案内に来て下さるのさ。まだ寿命が来てないのに、死に急いだ者のところには、来てはくれないんだけどね。
でも、母さんのところには、きっとお迎えに来て下さるよ。だから死ぬのはちっとも怖くない。ちゃんとあの世に連れて行ってもらえるだろうから。……後に残してゆくお前と、父さんの事はとても心配だけどねえ』
(まあ、仕方ないか。私のところには“お迎え”が来なくても)
シータは再びため息をついた。
(そういえば、母さんのところには“お迎えのランタン持ち”さんは来てくれたのかな)
(母さんが亡くなった時、私はずっとそばにいたけど、そんな金の光なんて、見えなかったけどな。まあ、ただのおとぎ話よね、そんなの。馬鹿らしい)
(…………)
(ごめんね、父さん、母さん)
(でも、私なりに我慢して、とっても頑張ったわよ?)
(だから、怒らないでよね)
(私が娼婦にされるだなんて、父さんも母さんも嬉しくないでしょう?)
そう思いながら彼女は思い止まらず、首に縄をかけ、
シータは首を吊った。
そして――
踏み台がわりにしていた岩から飛び下り、足が宙に浮いたと思ってから、どれくらい経った頃だろうか?
(……、……?)
誰かが自分に話しかけている様に思えて、シータはふと意識を取り戻した。
彼女は“首吊りの木”の根元に投げ出されていた。
シータはあたりを見回し、“首吊りの木”を見上げた。
見れば、彼女が首にかけていた縄は途中からぷつりと切れ、その端が“首吊りの木”の枝に残り、もう片方の端は、まだ彼女の首の周りにかかっていた。
「…………」
それを見て、何よ、これ、とシータは思った。縄が途中で切れちゃったの?
(私ってば)
(死ぬ事さえロクに出来ないのね?)
彼女はいまいましげに大きなため息をひとつついた。
と、その時、
「……、……」
また誰かの声がしたような気がして、彼女は後ろを振り向いた。するとそこには……
“首吊りの木”の根元には、
白銀の髪と、淡い緑の瞳をした女性が立っていた。
その女性は、シータが今までに見た事の無い様な、とても美しい女性だった。
「こんにちは。シータ」
女性は優しい笑みを浮かべて言った。
「こん……にちは」
シータはその女性に驚きながら、挨拶を返した。
誰だろう、この人?とシータは思った。この村では……いいや、このあたりでは見かけた事の無い人だ?まるで仙女の様な、人間離れした……?
「でも、私はあなたの事、よく知っているのよ」
と、そう思っているシータの思いがまるで聞こえていたかの様に、女性は彼女に言った。
「? 私の事を?」
女性の言葉に、シータは目をぱちくりとさせた。
「ええ、もちろん」
女性は再び微笑んだ。
「あなたの事も、亡くなったあなたのお父さんの事も、お母さんの事も。この森によく来る人の事は、私はみんな知ってるわ」
「この森によく来る人、みんな?」
「ええ。私はいつもずっとここで、この森に来る人たちを見ているから。私はね――」
女性は“首吊りの木”を振り返って見ながら言った。
「この柳の木の精なの」
「……?」
木の精?
「木の精って……この“首吊りの木”の?」
シータは言った。
「ええ」
「で、その木の精が、どうしてまたこんなところに……?」
と、
「シータ」
彼女のその言葉に、木の精は少し困ったような表情で笑って言った。
「……おかしなところにいるのは私の方じゃなくて、あなたの方なのよ」
「?」
「あなたが私たちの世界へと迷い込んで来てしまったのよ。ほら、見て」
そう言うと、彼女はシータと自分の間の宙を右手でひと撫でした。と、そこにぽかりと幻の様なものが現れて、その中をのぞいて見ると、不思議や、そこには小さな景色が浮かび上がっていた。そしてその中には――
“首吊りの木”の枝にぶら下がったまま動かない、もう一人のシータ自身の姿があった。
「??」
シータは目を見張り、自分の目の前の“首吊りの木”の下を見た。だがもちろんそこには、もう一人の自分など、ぶらさがってはいなかった。
「これが本当のあなたの世界での、今のあなたの姿よ」
シータに、木の精は言った。
「本当のあなたの世界では、あなたは今、この木の下で死にかかっているのよ」
「?!」
彼女の言葉に驚き、シータは木の精を見つめた。
「今ここにいるあなたは、本当のあなたの世界で死にかかっているあなたから抜け出してしまった、魂だけの存在なの。
ここの世界は、あなたの世界のすぐ隣の、私たち精霊が棲む世界なのよ。
見かけはあなたの世界と変わらないけど、ここはあなたがたの世界と、あの世との間の世界なの。
あなたは私の木で首をくくって、それで死にかかっていて、この世界に迷い込んでしまったというわけ」
「…………」
シータは信じられない、といった表情をした。が、しかし……
「あなたは私の木で命を絶とうとして、それからどうなればいいと思っていたの?」
木の精はたずねた。
「ただ、元の世界で悩んでいた事や、元の世界自体から逃げだしたかっただけ?」
「そうね……」
シータは言った。
「父さんや母さんが死んでから、ロクな事がなくって、これからもそうみたいだし……というよりか、これからはもっとひどい事になりそうなんだもの。娼婦にされちゃうんだから、私」
木の精の言葉に、シータは今の自分の身の不幸を再び思った。
「こんな人生なんて、自分でとっとと終わらせちゃった方がいいのよ。どうせいつかは終わるものなんだし。
それなら、今すぐ終わってくれた方がいいわよ。これから先、ずーっと娼婦のまんまなんて、絶対にイヤ」
彼女の瞳にじんわりと涙が浮かび、頰を伝った。
「そう……」
彼女の言葉に、木の精は困った様な、悲しそうな顔をし、そして小さくすすり泣きはじめたシータをなだめる様に言った。
「でも……自分で自分の命を絶つのは、よくない事よ。それはあなたもよく分かっているでしょう?
自分のいる世界が嫌だからといって、他の世界に逃げ込もうとしても、それは結局どうにもならないのよ。
自分で解決する事ができなければ、どこへ行っても解決する事なんかできないわ。分かるでしょう?」
「そ、そりゃあそうだけど……」
シータは鼻をすすりながら言った。
「でも、私はもう自分の力ではどうすることもできそうにないもの。娼婦として使えるまでは、これからもあの宿の部屋にずっと閉じ込められっぱなしで……」
「でも、あなたはそこから逃げてこられたのでしょう?」
木の精は言った。
「ええ。でも、きっとまた連れ戻されちゃうわ。こないだ……私と同じように娼婦にされちゃった子が逃げだしたけど、三日で連れ戻されてしまったもの。私もきっと連れ戻されちゃうわ。
それに私は足を悪くしてしまったから、三日も経たずにすぐに捕まっちゃうわよ。たぶん。自分で自分の人生をどうにかしろっていったって……」
シータの瞳から大粒の涙があふれた。
「もうどうする事もできやしないわよ」
「…………」
木の精はすすり泣くシータを、しばらく静かに見つめていた。そして、
「でも、あなたのその運命を、もう少しいいものになるよう、私が手伝ってあげられるとしたら、あなたはもう一度やり直す気はあるかしら?」
「……?」
「私はね」
木の精は言った。
「あなたがたがこの世界へと迷い込んできた時、本当にその人があの世へと行くべきなのか、それとももう一度元の世界へ戻ってやり直すべきなのか、ここで番をしているのよ。だって、私としては、この木の下で、人死にが出るなんて悲しい事は、起こってほしくないんだもの」
「……番?」
「ええ。で、あなたは……」
木の精はシータを見つめた。
「元の世界に帰って、もう一度やりなおしてみたい?今までよりももう少しましな生活ができるとしたら?」
「……」
シータは少しばかり考え、そして言った。
「いいえ」
彼女は暗い表情で、首を横に振った。
「やっぱり私は……もう生きてゆくのなんか、いやよ。それに私にはもう、自分が人並みな生活をしているところなんて、想像もできないし。
だって人並みに幸せだったのは小さな頃だけで、後はこの歳になるまで、まともな生活なんてものは、送った事もなかったんだもの。……父さんや母さんに会いたいわ。あの頃が一番幸せだったから」
シータは言った。
「父さんや母さんのところに行きたいの」
彼女は再びすすり泣きだした。
「そう……でもシータ」
木の精は哀れむ様にシータを見つめて言った。
「あなたは死んでも、お父さんやお母さんのところへは行けないのよ」
「……?」
「あなたは自分が持って生まれた寿命で死んだのではないから、あの世へは行けないの。お父さんやお母さんのところへは……行けないのよ」
「行けない?」
「ええ」
木の精はうなずいた。
「あの世というところは、自分の人生を寿命が来るまで大事に生きた者だけが行けるところなの。死んだものすべてが行けるわけではないのよ」
「じゃあ……」
「あなたの様に、自分で自分の命を絶ってしまった人は、あの世には行けないの。あなたの様な人の魂は……」
木の精は言った。
「あの世に行く事もできず、かといって、もう生き返る事もできず……しばらくはあの世とこの世の間をさまよう事になってしまうのよ。長い間、ずっとね」
「………」
「でも、その長い間、あてもなくさまよっているわけではないのよ。そういった魂には、それなりの、ちゃんとした役目があるの」
「役目?」
「ええ」
木の精はうなずいた。
「その役目を果たす事によって、自分の命を絶ってしまったつぐないをするのよ。で、その役目というのは……」
「?」
「寿命が尽きて亡くなった人の魂を、あの世の入口まで送る事なの」
木の精は言った。
「でも、いくらあの世の入口まで自分も行けたからといっても、自分は入口へと入る事はできないの。あの世の入口は、あなたのためにはまだ閉ざされたままだから。
そして長い間、あなたが亡くなった人の魂を導く事をずっと続けていたら、いつかは……あなたのためにあの世の入口が開いて、あなたもあの世へと行く事ができるようになるの」
「…………」
「さあ、もう一度聞くわよ」
木の精はシータにたずねた。
「もう一度、元の世界に帰って、やり直してみる?それならあなたが人並みな幸せをつかめる様に、私も手伝ってあげるわ。でも、本当に幸せになれるかどうかは、やっぱりあなた次第だけど。
それとも……このままあなたの世界からいなくなって、この世とあの世の間で、魂を導く存在になる?」
「…………」
木の精の言葉に、シータはしばらく考えた。そして、
「やっぱり私……」
シータは言った。
「もうあの世界にいても、仕方ないとしか思えないから」
シータの表情は、絶望的ながらも、きっぱりとしたものだった。
「そう……」
その彼女に、木の精は残念そうな顔をした。が、
「そう。あなたがそう言うのなら、私にはもうしてあげられる事はないわ。私の役目はここまでなの。
たとえ私がその人を生き返らせてあげたくても、その人の意思に反した事はできないから」
「ごめんなさい……」
シータは申し訳なさそうな顔をした。しかし、
「いいえ、私はただの番人」
木の精は悲しげだったが、優しい笑みを浮かべた。
「あなたの力になれなくて、残念だったわ。……さあ、それでは」
木の精は言った。
「ここから空へと昇って行きなさい。そうしたら、あなたは今のあなたの姿ではないあなたになっている事に気づくでしょう。
そしてそれから、長い長い、あなただけの時間がはじまりますよ」
木の精は最後ににっこりと、シータに微笑んだ。そして――
「…………」
ふと気づくと、シータの身体は“首吊りの木”の枝を通り抜け、空へとぐんぐん浮かび上がっていた。
あたりを眺めてみれば、今や、“首吊りの木”どころか、あの木のある森全体でさえも、小さく見えるほどに。
だが、それほどのはるかな高みにいるというのに、どういうわけか、怖いとは思わなかった。
自分がその宙空から、まっさかさまに落ちて行く様には、何故か思えなかったから。
そして今一度気づくや、シータの姿は、もはやあの見慣れた自分の姿ではなく、白くふんわりとしたスモックの様な服を着た、金色の光を放つ姿になっていて、左手にはやはり金の光を放つ、小さなランタンをいつの間にやら持っていた。
(これって……)
シータは言った。が、その声は、もはや以前の自分の声ではなかった。
(あの、“お迎え”の……)
(“お迎えのランタン持ち”?)
そうか、とシータは――いや、今や“お迎えのランタン持ち”となった、もう元のシータではない彼女は思った。
以前、母親から聞いたあの話は本当の事で、そしてその“ランタン持ち”というのは、おとぎ話の妖精のようなものではなくて、実は自分の様な者が姿を変えた……
自分の姿を見つめ、彼女は思った。
そして、彼女はもう自由に宙を飛び回り、ある場所へと向かった。その、ある場所、というのは……
彼女は再び、自分が元いた世界に舞い降りて、あの“首吊りの木”の下へとやって来た。
そこには、まだ、あの元の自分が、哀れな姿のまま、枝からぶら下がっていた。
(かわいそうな私)
彼女は元の自分を見つめて思った。だがその自分を哀れに思いはしたが、もう悲しみはこみあげてはこなかった。なぜなら自分の意思でそうした事だったから。
(さあ)
彼女は元の自分の姿を眺めながら思った。
(いつまでもこのままじゃあ、いくらなんでもあんまりだわ)
(村の誰かになんとかこの事を知らせて、せめて最後だけは人並みに、お墓の中に葬ってもらおう)
彼女はそう思うと、なつかしい村の方へと……陽が暮れだした、綺麗な夕焼け空の中へと、手にした金のランタンを輝かせ、飛んで行った。




